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木の家ネット第三期総会報告


第二回木の家ネット総会では、壁倍率を定める元データを実験によって出したまさに、張本人である、熊本県立大学の大橋先生をお招きして、土壁告示公布に至った経過や実験データについて、また伝統構法の課題やこれからの方向性など貴重なお話を聞くことができました。総会の会場となった中京地区は、現在でもひときわ土壁の技術が残っている地域。参加者には左官屋さんもいて、講演会そのものの時間の倍以上もかけて、熱心に質疑応答が行われました。

■土壁はどのようにできているか

1木舞を編み、荒壁をつける

講演の内容に入る前に、土壁について、少し説明します。まず柱と柱の間に「貫」とよばれる横架材を渡します。その貫に割竹(地方によっては木など)をタテヨコにシュロ縄やわら縄などで編みこんで「木舞(こまい)」という、間の透いた「格子」を作ります。それを下地にして、土を何段階かに分けて塗っていくことで土壁ができあがります。まず、第一段階が「荒壁」。粘ばりの強い土にわらすさと水をまぜ、一定期間寝かせてつくる「荒壁土」を、格子の間の空間を埋めるようにして塗りつけていきます。その次に、荒壁を塗った面の反対側から同じ材料を塗り、下地を裏側からもおさえます。これを「裏返し」といいます。このまま乾燥するとひび割れたままの壁になり、作業小屋や馬小屋だったら、裏返し塗りでできあがりということもありました。

2中塗りと仕上げ

しかし、土壁そのものを室内で見せる仕上げにする場合には、その上にもう一層、もみわらと砂をまぜこんだ「中塗り土」を塗り、そのひび割れを埋めるようにします。中塗りは「片面塗り」の場合と、「両面塗り」の場合とがあります。さらに、土の壁のままでは、風雨にさらされると弱いので、中塗り土の上に漆喰などで「上塗り」をしたり、下見板を張ったりして仕上げます。特殊な例としては、抹茶色やうすいピンク、黄土色、ねずみ色など、さまざまな色土を塗ったり、わざとわらすさを見せたり、上塗りに粘土質を多くまぜて塗ったあとにピカピカになるまで磨いたり、とさまざまな「お化粧壁」もあり、左官の美しい鏝(こて)仕上げの見せ所となります。

■大橋先生が熊本県立大学でされた実験の仕様

さて、今回大橋先生が講演で報告された熊本県立大学での実験では「貫3本、熊本産の土を一週間寝かせてつくった荒壁のみ、裏返しあり」を基本の試験体とし、

  1. 荒壁土の産地を熊本産、京都産、関東産の3種類で比較
  2. 裏返しなしとの比較
  3. 中塗りを両面ほどこしたもの、片面ほどこしたものとの比較
  4. 貫の本数を4本、5本と増やしたものとの比較
  5. 土を寝かせる期間を、まったくおかないもの、3ヶ月寝かせたもの

と、さまざまに条件を変え、それぞれの強度を調べました。土壁の実験は、試験体をつくるにも時間がかかるし、実験でこわせば土がボロボロと崩れて掃除が大変だし・・・と「研究者の間では、人気のない実験」なのだそうです。

さて、この実験で分かったことは

  1. 土の産地によって、強度は大分違う。京都産は特に強い
  2. 裏返しをしないと、強度は、荒壁の0.6倍。その上に中塗り土を片面塗ると1.1?1.2倍、両面塗ると2倍ほど強くなる。
  3. 中塗りを行うと、力を加えていった時に耐えられる強度が増すだけではなく、ひしゃげていく傾きも小さくなる。
  4. 今回のような貫(厚み15mm:構造として利くほどの貫ではなく、下地としての役割を果たす程度の厚み)の仕様では、貫の本数は強度にあまり影響しない。
  5. 荒壁のみの場合には「剪断(せんだん)」とよばれる、斜めに格子状のひび割れが増えていくだけなのが、中塗りを施すと、貫に沿って土が剥離していくというふるまいのちがいが観察された。

など。木の家ネットのつくり手一同、これからは、今まで経験的に行われてきた伝統構法も、強度などを定量的に把握し、自分たちがつくる家の安全性について、住まい手にきちんと説明しなければならない、ということもあらためて認識しました。

■土の産地によっても土壁の強度はずいぶんとちがう

ところで、2003年12月に出た「土壁告示」では、大橋先生の研究成果をふまえて、中塗り土が片面か両面かによって、それぞれにふさわしい倍率が与えられていますが、土の産地にまで細かくは触れていません。したがって、実験でよい数値が出ている「京都産」の土では、告示で定められている倍率よりも高い倍率を認められてもよいのに、全国で通用する基準に合わせなければならないために、現実より低い評価に甘んじざるを得ないようなことになっています。

この例ひとつをとっても分かることですが、伝統構法といっても「ひとつの」形があるわけではなく、全国それぞれの「地域性」があり、さらにいえば、職人ひとりひとりの「施工能力」もそこに加味されてきます。ここが現代の均質な構法との大きな違いであり、特徴です。だから「この土を使った壁ならば、告示の壁倍率よりもいい数値が出るはず」という意欲がある地域では、地域主体で地元の試験場にもちこむなどして実験をし、独自の倍率を取得していくのもよいだろう、というお話も出ました。南北に長く、太平洋側と日本海側とでは気候風土もまったくちがう日本。ところ変われば、木も、土も、人も変わります。まさに「地域資源」にねざした構法が伝わってきた、その総体が、伝統構法なのだな、ということをあらためて感じさせられました。

■伝統構法の強度は、総体としてとらえてはじめて分かる

また、今回、大橋先生が手がけられた実験は、土壁単体での実験でしたが、本来、伝統構法は「総持ち」といって、さまざまな要素が有機的にはたらきあって機能する「全体構法」としてとらえる必要がある、というのが大橋先生の主意。多様な伝統構法の要素技術の組み合わせの中で、いくつかの「型」を想定し、それぞれについて強さなどを実験をしていくことによって、確実な技術を世に提案していくことのとの必要性を説かれました。

私たち木の家ネットのつくり手も、これから先につなげていくための要素技術の組み合わせを、ひとつひとつの現場での実践を通して吟味し、より長く、かつよりよく住んでもらえる家づくりを追求していきます。研究者とつくり手の幸福な出会いの少なかった木造の世界に、幸福な出会いを予感させる大橋先生の講演とその後のお互いの「本音」が吐露される場面も多かった質疑応答。充実と昂奮のひとときを、全員が過ごしました。今後の伝統構法見直しの動きにも期待感がたかまります、


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