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林業・岡崎定勝さん(岡崎製材所):製材所からはじまる木の家づくり


一本の木を読み、活かしきる。
それが製材所のやり甲斐

岡崎さんはご自身を「とにかく木が好きでしょうがない」と語ります。ショールームには、木挽職人が原木から縦方向に板を挽き出す大鋸(おおが)が飾ってあります。「昔の木挽は、木のことを知り抜いていた。木を外側から見るだけで、その木がどう育ってきたか、中を挽いたらどのようになっているか、オートメーションの時代になった後よりも、木を読む優れた目をもっていたんです。そうした先人への敬意をこめて、手で製材していた頃の道具をここに展示しています」若い頃はまだまだそうした木を読むことのできる先人が健在で仕事していて、岡崎さんは多くを学びました。

昔の木こりや木挽が使っていた斧や大鋸。一番左に見えているのは、二人で気を合わせて挽く鋸

また、年に一度の家族旅行で、高山、京都、新潟、山形に社寺や豪農の館など、伝統建築を訪ね歩く旅を重ねてきてもいます。「すぐれた建物を見るとね、先人がどのように木を活かした仕事をしているか学べるんです。木の使い方を隅から隅まで、見てると、やたらと時間がかかるんです。案内人の方から声をかけられて、かえっていろいろ訊かれることも多いんですよ。その材料や先人の技術のすばらしさを、私なりにお伝えするようにしています」

「木を読み、木の特徴やクセをとらえながら最高の活かし方をする木取りをする。このプロセスが、製材をしていて一番楽しいわけです。木は一本一本違う。先祖がうちの山に植え、手をかけて育ててくれた大切な木を、そのようにして活かせて、はじめて先祖への恩を返せる気がしています」先人の木挽の目で木を読み、最高の活かし方を考え、それを実現する。木が大好きな岡崎さんにとっては、それが製材所冥利につきるのです。

岡崎さんは製材所で、かつて大水に浸かったのと同じ全自動製材機で、ご自分の山の高野槙を挽いてくださいました。「なんともいえない香りですよ。浴槽や洗面ボウルを埋め込む台にいい木なんです」木をつんざく音とともに、原木から白い木肌があらわれるとともに、製材所じゅうによい香りが立ち上ります。こちらから動画をご覧いただけます(香りが伝わらないのが残念です)。

現在の製材。台車に原木を載せ、角度や厚みを決めて、高速で回転するバンドソーを通すことで材を伐り出す
左:回転するバンドソーが縦に走る 右;倉庫にはバンドソーの替刃が大量にストックされていた

山の木を活かすことを突き詰めていったら、
木の家づくりまで手がけることに

ところが、岡崎さんが代を継いだ高度経済成長期は、昔ながらの木挽の時代とは様相ががらっと変わりゆく、変化の時期でした。「機械化になりますとね、大量生産で十把ひとからげに次から次へと挽いていくようになる。木を一本一本見て、という世界でなくなってゆくわけですよ。原木は製品の原材料に過ぎない。木取りも受注に間に合わせて、いかに無駄なくとるかだけになっていきがちでした。木が好きな自分としては、どこかつまらなかったな」

しかも、製材所への需要は、木曽や地元の山の木を挽くことから、名古屋港に着く大量の外材をゼネコンに納品することへと移り変わっていました。「これだけ木の育つ木曽川流域にいながら、そして先祖が残してくれた山がありながら、これでいいのかと、心にしっくりこないものがあったんですね」そしてついに、根っから木が好きな岡崎さんは、材木を挽いて売る製材所から、家づくりまでを手がける製材所へと大転換をはかりました。「木のよさを活かす、伝えるにはどうしたらよいか考えていったら、自然と、木にこだわった家づくりを自ら手がけることになっていったんです」

製材所でありながら「人と環境にやさしい自然素材のすまいづくり」との看板もあげることができたのは、もちろん、地元の昔ながらの木の家づくりを熟知している大工さんとの信頼関係と連携があってのこと。「一本一本の木を活かしきるにはどうしらたいいか、こういう風に木取りして、こういう板と、こういう柱と、こういう鴨居とを取ろう。木取りから大工と相談する形で、原木生産、木の家づくりが始まりました」

岡崎さんが長年培って来た「木を見る目」は、数奇屋や茶室の仕事にも発揮されています。八百津大仙寺の茶室泰庵。
数奇屋は細部の木の選び方が命。 左:小間の床まわり 中:天井の構成 右:広間書院の欄間まわり

自然な暮らしを求める価値観をもつ人に
木の住まいを提案したい

「木にこだわった家づくりを、と心に決めていたら、新聞に出ていた小さな記事に目がとまったんです。木の家づくりのミニコミ誌をつくっている仙台の林さんの講演会が名古屋であるという案内でした。そこに出かけていったことをきっかけに、大工の中村武司さん、中部自然住宅推進ネットワークを始めた大江忍さんなど、のちに木の家ネットをたちあげていくような仲間たちに出会い、自分が思ってきたことに方向性を見出せたような思いがしました」

政子さんも、岡崎さんの考えに、女性の立場から共感しました。「衣食住っていいますが、暮らしの見直しはまさにその順番で進むんだと思うんですよ。やっぱり自然食がいい!というところから始まって、次に着るものを化繊でなく、などと広がっていって、最後にやっと住にシフトするのですよね。ですから木と土と紙だけでつくる自然素材の家づくりを通して、暮らし全体にむけた提案ができると感じました」

岡崎製材所のパンフレットには「すまいとは、そこに住む家族が幸せで健康であり、素晴らしい人生を送れる、そんな器であること。すまいは環境。その環境は、樹なくしては実現できません」と書かれています。「その価値観を共有できることが大事なんです。お客さんがみえると、その方の価値観が分かるまでは、仕事は受けません。『うちに決める前に、すべての建築屋さんを見てきてください、親戚がつくられた家をぜんぶ見てきてくださいね。それでもよかったら、うちに帰ってきてください』と言います。違う価値観の人を振り向かせることまではできると思っていないですが、自然な暮らしを志向する価値観をおもちの方には、木の家づくりへとつながるようなきっかけをつくりたいです。一人でも二人でも、日本の木への愛着をもてる人をつくりたい。それが、循環型社会につながることだと思います」

木にゆっくりと親しめる
ショールームをつくった!

最近では、見学会をすると、若い家族の姿が多いのだそうです。広範囲にわたる津波を伴った巨大地震と原発災害が重なった災厄を体験し、自然な暮らし、工業製品やオール電化に頼らないでもよい暮らしを志向する人は増えてくることでしょう。木の家づくりを通した暮らし方の提案をすることの重要性は、今後、より増してくるに違いありません。

自宅兼事務所の向かいにショールームをオープンしたのは、そんな暮らしの提案を具体的に体感できる場をつくることが、早道でないかと考えたからです。「木の良さを実感するにはまず、目で見て、触って、木のよさ、楽しさになじんでもらうことからだと思うんですよ」ショールームには、自然の板が常時150枚ぐらいストックしてあり、そのひとつひとつが色も、触った感じも、香りも違います。それをまず味わってもらい、好きな木を見つけてもらいます。

事務所の向かいにあった古い木小屋をリフォームした、素敵なショールーム

座卓、テーブル、机と本棚のセットなど「材木屋にある木」を組み合わせただけでできあがるシンプルな家具類もいろいろ置いてあります。政子さん手作りのステンドグラスの照明や、多治見の作家さんから仕入れた陶器を生かした洗面ボウルなど、家族や地域のものを生かしてできるものが、華を添えます。「地元材をはじめ、地域資源や手作りのものでつくるオーダーメイドの住宅って、むちゃくちゃ高いと一般には思われています。けれど、こうやって工夫をすれば、新建材を使わないで自然のものばかりで、ハウスメーカーに頼むつもりだった予算でできますよ、と申し上げるんですよ」


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ショールームに林立するさまざまな樹種の材。それぞれの木の存在感を体感できます。