■さまざまな知恵と工夫
竪穴式住居の時代から何世代もの間に、さまざなな工夫がされていきます。ごく大ざっぱにいくつかをひろいあげてみましょう。 地面を掘って突き立てる「掘っ建て柱」ではどうしても地面の湿気を帯びる木の根元の部分が腐りやすいですよね。そこで、柱を長持ちさせる工夫として、礎石を置いた上に柱を立てる「石場立て」が考えられました。 地面まで屋根に覆われていては室内が暗いし、風通しも悪い。そこで屋根を架構の上にもちあげるようになりました。屋根の下端は架構で囲まれる母屋(もや)からある程度張り出して庇(ひさし)とし、風通しを確保しながら家を雨から守る、あるいは季節によっていい具合に日射しをとりこむことができるようになりました。
昔の無名な建築家たちは、一時的な流行や気分にまどわされることなく、時間を超えて原理に藻度付いた建築を作り上げた。これは経済的かつ実用的であって、決して気まぐれではなかった。 ーー世界の建築に学ぶ知恵と工夫 ジョン.S.テイラー著
■変わるものと変わらないもの
あたりまえの家の模型なのですが、竪穴式住居の頃と比較してみると、いくつもの知恵や工夫が見られ、「なるほど」と感心させられますよね。気候風土に適応しながら、長い年月もたせようという先人の努力の積み重ねが、住まいひとつに凝縮しているのが分かります。 ところが今、新築で建てられている家がこうした知恵を受け継いでいるかというと、実はそうでもない家も多いのです。新築はしてみたものの、床下の湿気が抜けにくく、長もちしない家もあると聞きます。庇のない家の雨仕舞いも心配です。 都市化、核家族化、工業化。自然素材や手の技術しかなかった時代とでは、情況がちがうのだから、住まいの質が変わるのも当然でしょう。でも、よく考えれば、住んでいるのは同じ生き物としての人間、同じ日本の気候風土。そして、日本が木の国であることも変わっていません。めまぐるしい変化の中で、大事な「変わらないもの」を見落としていないか、もういちど振り返ってみてもいいかもしれません。 そこに「住まいの基本条件」を満たす、家族がすこやかになごやかに暮らせる家へのヒントがあるのではないでしょうか? 次回からはテーマ別に、より具体的に考えていくことにしましょう。
模型協力 松井郁夫建築設計事務所
図版協力 長谷川敬アトリエ 風基建設