加藤畳店 加藤明さん


職人がつくる木の家ネットには、大工、設計者、林材関係者のほかにも、家づくりに欠かせない多くの職種のつくり手がいます。今回は「職人がつくる木の家」に はずせない「畳」について、畳屋の加藤明さんの工場を、加藤さん作の畳をよく使うという設計事務所「きらくなたてものや」の日高保さんと一緒に訪ね、お話を聞いてきました。加藤さんは、東京都練馬区で弟の忠さんと二人で「加藤畳店」を営み、畳表の生産農家さんと顔の見える関係の中で、安心安全で質の高い「産直の畳」を作り続けてました。

練馬区の西端、新座市にほど近い場所に加藤畳店はあります。黒板に白墨でかかれたスケジュールが四角く囲まれていて、まるで畳が並んでいるよう。

畳に親しんでもらおうと、様々な小物を作ってます

加藤さんはまず、工場の入口近くにいくつも積まれた透明のプラケースの引き出しを開けて、中を見せてくれました。「イベントに出展する時に持っていける小物を作ってるんです。畳をもっと身近に感じてもらいたくて」と加藤さん。引き出しの一つ一つには、作りかけのモノと道具とが、一緒にしまってありました。畳の縁の賑やかな色彩や、藁で形作った面白いものが目に飛び込んできます。アイデアも作業も同時進行しているらしく、イメージが形を取りつつある「製作途中」の引き出しが、いくつもありました。チクチクと布地を縫い合わせてのものづくり。畳屋さんて、アパレルみたいです。

畳の縁を使った小物たち。「ねりまだいちゃん小銭入れ」は、練馬区のおすすめコレクション「ねりコレ」にも選ばれたそうです。ワイン入れやペットボトル入れは、保温されておいしく飲めるので、好評とのこと。

畳屋さんは「アッセンブラー(組み上げる人)」

着せるモデルを採寸し、似合う布地を選び、デザインを考え、縫い合わせていく。それがアパレルの仕事。畳屋さんに置き換えると、採寸すべきモデルは「床=とこ」であり、それに着せる布地は「表=おもて」で、それを縫製するのが「畳職人」です。「畳表」や「畳床」は、加藤さんが作っているわけではなく、別に生産者がいます。その生産者一人一人との直接のやりとりを大事にする「産直畳職人」である加藤さんは、依頼者の要望や予算に応じて、畳表はこれ、畳床はこれ、と提案します。依頼者と合意ができたところで、加藤さんが生産者に発注、手配をして取り寄せ、届いたものを合わせる=アッセンブルするのです。

畳を作る大きな機械

およその工程は、畳一枚より一回り大きい「張り部」「切断部」「ミシン部」で構成される上の写真の機械に載せて行います。まず芯になる「畳床」を機械にセットし、ガワとなる「畳表」を当ててテンションをかけて引っ張ります。よき張り具合になったところで「待ち針」を打って固定し、余計なところを裁断した上で「縁」をつけ、「縁」と「畳表」と「畳床」の三つを、動くミシン部が縫い合わせます。この作業を正確に、美しく行うのを助ける様々な道具や治具があり、畳職専門の道具商、その道具を作る職人もいると聞いて、畳業界の奥深さを感じずにはいられません。

畳をつくるための手道具たち。順に「クワイ:畳の厚みを測る定規」、「ワタリとヘリシキ:畳縁の幅を決めるための定規(ワタリ)と、畳縁を止めたり、縁を折り返す時に45度の角度をきれいにだすために使う針(ヘリシキ)」、「カナクチ:ヘリシキの針の部分と木の柄を繋ぐための真鍮の金具。ヘリシキには、ものすごく力がかかるので、木と針とを直接繋ぐと、針が曲がったり木の柄が折れたりして具合が悪い。カナクチを作る職人がいなくなり、手持ち真鍮が無くなると、もう換えは無い」

角や側面を見せる置き畳、飾り畳などで、部分的に手縫い仕事が発生することもあります。畳の仕上がりの厚みは、地域によって二寸だったり、一寸八分だったりします。このたった二分(およそ6mm)の厚みの違いのために、畳職人が使う針の長さや膨らみも変わりますし、違った長さの針を作る道具職人もいるわけです。職人が使う道具、それを作る職人・・・業界ごとの「厚み」があってこそ、その職種が成り立つ、という深い世界を垣間見る思いがしました。

畳をつくるための手縫い用の道具たち。「縫い針:畳の厚さや縫う部位によって、長さや曲がりが変わる」、「手当て:畳を手で縫う時に手の平につけるもの。中央に金属部分が付いているが、これは使う人が自分でつけることになっている」、「手当てを手につけたところ。これで力いっぱい針を押し込む」

一点一点がオーダーメイド

アパレルと畳屋さんが決定的に違うのは「空間がサイズを決める」ということ。最終的に部屋の中にキッチリとおさまらなくてはならないので、畳の寸法を採寸した空間に「合わせて」いくのです。以前に建具屋さんを取材した記事で「現場の最後に入って、和をとる仕事」という言葉をご紹介しましたが、それと似ています。建具職人は「立面的な和」を、畳職人は「平面的な和」をとっていると言えるかもしれません。

「畳の大きさといえば、3尺x6尺に決まってるんじゃないの、って思うでしょ? けれど、出来上がった部屋って、無垢の木を使って職人の手作業で出来ているわけだから、どうしても動く。敷居がほんのちょっと反っていたり歪んでいたり、そんなにぴったりとはいかないんです。だからこそ、我々が現場に合わせた畳を作って、入れるんです」と加藤さん。なるほど。既製品を入れておしまい、というわけにはいかないのですね。特に、建物の経年変化の影響が大きく出るリフォームの現場では苦労するそうです。縦横平面だけでなく、床の厚みを調整することで、水平を合わせることもあると聞いて、びっくりしました。

自然素材の畳は「農産物」

「ちゃんとした畳がどういうものか、知ってほしい」、そして「ちゃんとした畳を入れることは、住む人に健康と安らぎをもたらすばかりか、生産者を支えることにもなると伝えたい」というのが、加藤さんの願いです。

ここで「生産者」というのは、一次生産者のこと。無垢材で構造を組み上げる「木の家」では、林業に携わる人が一次生産者に当たりますが、畳の場合の一次生産者は「農家」です。畳床は稲藁を圧縮して、畳表は農家が栽培した「藺草(い草)」を織ってできているのですから!

い草の栽培農家自身が織って出荷する「畳表」

畳表の原材料であるい草は、稲のように湿地や浅い水中に生え、泥に根を下ろして人の背の高さほどに成長する単子葉植物です。表面につやのある、すべすべした緑色の茎が、畳表の材料になります。かつてい草と言えば、備後=岡山でしたが、今では、9割以上が熊本県の八代産です。

国産い草の生産量のほとんどが、熊本県産。ところが、畳表全体の需要から見ると、中国産のい草のシェアの方が大きいし、ポリプロピレンなど化学的な繊維でつくる化学表のシェアも年々増してきている。
(データ提供:熊本の特産品”畳表”を扱う産地問屋[肥後物産]のWebサイトより)
https://www.higobussan.com

7月にい草の苗を畑で育てはじめ、成長して来たら何度か株分けをし、11〜12月ごろには本田に植付けます。途中、新芽を出させるために「先刈り」をしたり、人の背丈より高くなるい草が倒伏しないよう、網を張って、い草の成長とともにその網を高くしたりと、栽培期間が長いだけでなく、いろいろと手間をかけながら、翌年の7月にようやく刈り取りです。

生育中のい草

畳表は、それぞれの農家さんが、自分の田んぼで刈り取ったい草を織り機で織って、畳表の状態にまでして出荷しています。織る前に、色を一定にするための「泥染め」という工程を経た上で乾燥させ、縦糸に麻糸や木綿糸を張った織機で織って、ようやく畳表が出来上がります。収穫後すぐに泥染、乾燥の工程に入るので、収穫時期には、朝早くから夜遅くまでの重労働になります。「そんな農家さんの努力があってこそ、ぼくらが畳表を使わせていただけるんだということを、みなさんに知ってほしいです」現地に何度となく視察にも行って、生産工程の苦労を目の当たりにしてきた加藤さんは言います。

風前の灯火の「七島藺(シットウイ)」

最近ではフチのない畳全般を「琉球畳」と呼んでいますが、「琉球畳」とは大分県の国東半島でできる「七島藺(シットウイ)」で作られたものだけをさすのが本来です。なぜ大分でしか獲れないものを「七島藺」と呼ぶか? については、歴史的な訳があります。元は薩摩藩のトカラ列島で栽培されていたのですが、江戸時代にある商人が持ち出して豊後の国にもたらし、結果、国東半島の特産品となったのだそうです。現在では大分県国東市と杵築市のたった4軒の農家でしか栽培しておらず、新規就農者の見習い2人を含め、七島藺を畳表に織りあげることができるのは、日本全国にたったの6人!

フチ無し畳(七島藺(シットウイ)を使った琉球畳)

七島藺で織る琉球表がフチ無しで使われるのは、丈夫で、フチをつけるには及ばないからです。丈夫さの訳は断面にあります。茎が丸い、い草と違って、七島藺の断面は三角。一本の七島藺を手で割いて使うので、丈夫で独特の風合いが生まれるのだそうです。柔道の名人、嘉納治五郎がこれを柔道畳に採用したのも、その丈夫さゆえです。

「手植え、手刈りでしか栽培できず、織機も自動化できないため、1日に農家さんが織れる量はわずかに2枚。高級品ですけれど質はうんと高く、需要に生産が追いついていない状態です。七島藺の畳を入れたい!と思い立ったら、家づくりの相談をスタートする時に注文を入れておかないと、入居にまで生産が追いつきませんよ!」と加藤さん。七島藺は、文化財保存修理などに使われ、「世界農業遺産」にも指定されています。

加藤さんが見せてくれた、「くにさき七島藺振興会」のパンフレット。人の背丈よりも高い七島藺を刈り取っているのがわかる。左上に載っている写真は、七島藺が風で倒れないように畑にネットをかぶせているところ。七島藺の成長に合わせて、ネットの高さを調整していく。

畳が工業製品になってしまって、良いのか?

構成要素自然素材建材
畳ー畳床(芯)藁、ヒバスタイロフォーム、インシュレーションボード
畳表(ガワ)イ草化学繊維
畳縁麻織物を蝋引き化学繊維

「最近は畳の原材料が、農家が栽培する自然素材から化学繊維の畳表やスタイロフォームの床など、自然素材から工業製品の建材にどんどん置き換わっています。い草を使っていても、国産品の割合はたったの20%で、あとはより安価な中国産です。目先の経済性だけでそうなっていって、良いものでしょうか?」

「成長期の子どもや年寄りまで含め、家族みんなの健康のために本当の畳の良さを伝え、その価値を分かって選んでいただけるよう努力をしています。農家さんを支えていかないと、日本の畳文化は今、風前の灯火ですよ」 畳の二次生産者であり、住まい手や設計者と繋がっている加藤さんは警鐘を鳴らします。

藁床の生産者と共に「ヒバ床」を開発

畳表は、農家が加工する農産物であり、生産者が減ってきていることを、これまでお伝えしてきました。同じことが、畳床についても言えます。床の原材料は本来「稲藁」。農薬を控えた米作りをしている農家の藁を、縦横に何回も重ねて圧縮して作る「藁床」の生産者も激減しており、加藤さんが依頼する業者は、埼玉の河端屋本店さん、たった一軒になってしまいました。

藁床に変わって、畳の芯になる「床」として登場し、シェアを拡大してきたのが「スタイロフォーム」であり「インシュレーションボード」です。安価で重量も軽いので、多くの畳屋さんで「藁床離れ」が進んでいるそうです。また、藁床には、湿気を帯びると、腐りやすく、ダニ等の害虫類にとって生活し易い環境になる、という欠点もあります。

ヒバ床構成図(加藤畳店Webサイトより)

完全な自然素材である「藁床」の良さを踏襲しつつ、その欠点を補えないものか、と加藤さんは考えていました。ちょうど施主から「ヒバの香りのする畳が欲しい」という要望を受けたこともあり、加藤さんは「ヒバのチップと藁とを交互に積層させた畳床を考案し、実用化しました。

「河端屋本店に、ヒバのチップを持ち込んで、試作をお願いしたんですけれど、最初は彼も半信半疑だったんですよね。ところが、ヒバ床を試作してたら、作業場のゴキブリやハエが少なくなった!という体験を通して、河端屋本店さんも納得してね。ヒバに含まれるヒノキチオールの効果を実感しましたね」と、加藤さんは、試作当時のことを振り返ります。

こうして、ダニもカビも寄せ付けない、安心安全な「ヒバ床」が完成。アレルギー症状に悩む方にも好評だそうです、それにしても、常に研究に余念がなく、試行錯誤を重ねながら、より良いものを追求していく加藤さんの情熱と行動力、すごいですよね!

「畳=たためるもの」だった頃からの
畳と日本人の長い付き合い

取材に同行してくれた日高さんがいつも軽トラックに積んでいる「どこでも昼寝ゴザ」。百人一首の読み札には、置きだたみが描かれている。天皇はカラーの畳縁。

「畳文化は日本固有のものなんですよ」と聞いて、漠然と中国や韓国にもあるものと思い込んでいたので、びっくりしました。平安時代より前には「畳床」がなかったので、畳とは畳表のことでした。今でいうゴザのようなものですから、当時は「畳めた」訳です。今の私たちが知っている、床のある、つまり「畳めない」形式になったのは、平安貴族以降。寝所にこの畳床を敷くことは「権威の象徴」でした。それでも「畳」という言葉は、そのまま残って行きました。

今のように、部屋に敷き詰めるようになったのは、それが庶民に許されるようになった、江戸中期以降のことです。ここに来てようやく、畳は「リラックスできる、くつろぎの空間」としてのスタート地点に立ちました。

畳を熱く語る加藤さん

布団なしでもゴロンと横になることのできる気やすさ、いろいろな人と膝を突き合わせて語り合える飲み会の親密さ、床の間のある部屋に正座した時のあらたまった気持ち・・板の床よりも柔らかな、クッション性のある、優しい畳の空間だからこそ感じる、わきおこる、生まれる感覚があることを、私たちは知っています。

板の間ではスリッパを履く人でも、畳の部屋に入る敷居の手前で、脱ぎます。背広を脱ぎ、ネクタイを外し、ゴロンとする。寛ぐ。緊張をほどくことのできる空間が、家庭の中にあるということが、今のような時代だからこそ、必要なのではないでしょうか。

今の暮らしに欠けていて、もっとも必要な「何もない空間」「家族の誰のものでもあり、誰のものでもない空間」を作ってくれる畳が、このままでは日本の文化から消滅してしまう危機に瀕しています。「そうしないために、使い続けるしかない」という加藤さんの言葉が、耳の奥に残っています。

畳表を畳床に縫う時に使う「待ち針」
お箸くらいの長さ!

最後に、取材に同行してくれた設計事務所「きらくなたてものや」の代表で、加藤畳店の畳を住まい手に勧めている日高保さんと、加藤さんご自身に、「畳のある生活の勧め」を語っていただきました。

日高 保さん
きらくなたてものや

僕のイチ押しは「すっぴん表」

加藤さんが作られる畳にも色々ありますが、僕が好きなのは、熊本県八代市の岡初義さんが作られる「すっぴん表」ですね。その名の通り、泥染の工程を省いて、い草の生地の色そのまま見えるのがいい。色が部位によって、個体によって少しずつ違っているので、織りあがった畳表も、色が自然に不均一で、それがなんとも言えずいい雰囲気になるのです。

泥染をしていないい草を織った「すっぴん表」畳

一部屋で何役もこなす「畳の間」

畳の部屋って、一つの部屋をいろんな用途に使えますよね?。布団を敷けば寝室に。しまってお膳を出せば食堂にもなります。それも片付けちゃえば子どもの遊び場に。洋間だったら、部屋数、いくついるよ? というところですが、畳の間だったら、物を出したり引っ込めたりして様々な用途を兼ねることができるので、実は「省スペース」なんです。大勢人が集まる時でも、椅子がいくつ必要ということにとらわれず、なんとなく融通し合って、座れちゃいますしね。

工務店の元作業場を改修して作った鎌倉の学童保育施設。6帖の畳の小上りが子どもの活動の中心になっている。「学童保育ふかふか」のWebサイトで、子ども達がどのように過ごしているか、ご覧ください!

https://fukafuka-kamakura.com/gakudou

使い続けることで農家さんを支えたい

建主さんと話す時には「和室」というイメージに引きずられないよう「畳の間」という表現で話すようにして、畳を採用してもらえるような設計提案をします。予算や車椅子の利用などで「畳の間」が無理な場合も工夫次第。「玄関に一畳、いい畳を」というだけでも、家の雰囲気が、ガラッと変わりますよ! 僕らが畳を使うことで、い草や七島藺を作ってくれている農家さんを支え続けていきたいです。

加藤 明さん
加藤畳店

畳にゴロン、それが何よりの良さ

畳って、藁と草だからね。板の床と比べたら、うんとやわらかいんですよ。だから、じかに寝っ転がれる。リラックスできる。家にそういう場所があるって、何よりいいことじゃないですか? 赤ちゃんのオムツ替えをするにも、ハイハイするにも、いい。そんな優しさが畳にはあると思いますよ。

こんなの、作っちゃいました!
ユニット畳ボックス楽々くん

ガランとしたスペースに、これを一つ置いておくだけで、いつでもここに腰掛けたり、ゴロンと寝たりできるんです。障害者の方たちのデイサービス施設に置いたら利用者さんに好評なんです。集中力が続かなくなってきたら寝っ転がれますからね。施設のリノリウムの床やフローリングでは、なかなかそうはいきません。

年寄りって、布団をあげたり敷いたり、床レベルにある布団から立ち上がるのも、大変でしょ? で、これ、うちのばあちゃん(僕の母です)にも作ってあげました。

ボックスのへりに腰掛けて立ち上がれて楽なんです。起きたら布団は押入れにしまうのでなく、このボックスの上にクルクルっとまとめて置いておけばいいように、長さは布団の大きさぴったりよりも大きめの2mに作りました。ばあちゃんも「これ、いいね!」って、太鼓判押してくれてますよ! 畳を上げると、その下が収納スペースになっているのですが、オプションでここを引き出し収納にすることも可能です。

詳しくは、加藤畳店のWebサイト 「ユニット畳ボックス楽々くん」のページで!
http://www.kato-tatami.jp/uinito-rakurakukun.htm

気分を一新するのにも、おすすめ!

畳屋としてはね、畳文化が残っていってほしいと思います。家を新築した時には青々と畳の香りがして、3ヶ月もすると黄色く落ち着いてきちゃいますが、畳表を裏返せば、またリフレッシュできます。裏返しても擦り切れてるな、となったら表替え。床板を一部屋分、張り替えるとなったら大変ですが、畳だったら表を裏返したり取り替えたりだけで、気分を一新できる。そうやって、たまに暮らしに節目をつけるのも、いいことなんじゃないかな!

● 取 材 後 記 ●

取材の段階で「畳屋って、家づくりで一番農業との距離が近い職種なんだな」と感じてはいました。電話で加藤さんに追加取材を重ねるうちに、日本最大の畳表産地である熊本県八代平野のい草農家さんの多くは、一つの水田で「米と、い草の二毛作」に取り組んでいると知り、さらにびっくり!

7月にい草を収穫したあとの水田で、すぐにお田植え。10月半ばには稲刈りをして、すぐにい草の苗株の植付。収穫したい草を織るのに3ヶ月ほど寝かせると聞いていましたが、それを農家の暦に重ね合わせれば「稲刈りが終わってすぐに、畳表を織る作業に入る」のだということが分かります。「農業の6次産業化」など、昨今盛んに言われますが、畳表を織り上げて出荷するい草農家さんは、それをとっくに、淡々とこなしてきていたのです。

い草農家が激減している、厳しい現実を前に、自然な暮らしや家づくりを志すすべての方に「国産い草の畳表」の魅力、それを支える農家さんたちの尊い働きを知ってもらいたい、お届けしなくては!との思いを強くした取材でした。これからは「畳の部屋っていいね」という言葉を発する時、それを支える農家さんに思いを馳せることとなるでしょう。このような深い世界を見せてくださった加藤畳店さんに、あらためて感謝申し上げます

読者のみなさんにも「畳風」ではなく「本物の畳」を選んでいただければ!という願いとともに、筆を置きます。

取材・執筆: 持留ヨハナエリザベート