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設計士・丹羽明人さん(丹羽明人アトリエ):納得できる答を探して


職人の技、自然素材、国産材を活かした
循環型の家づくり

この『里の家』の再生をきっかけに、色んなことを学ぶことができましたし、再認識することも多くありました。”職人の手の技術により、無垢の木や土などの自然素材の良さを引き出して活かす、木組み土壁による伝統構法の家づくり”。自分が進むべき道がはっきり見えてきました。

[ 自然素材 ]

シックハウスの原因物質を含む建材は使いません。

新建材は使いたくありません。というか、使うべき理由が見つかりません。例えば小さなお子さんが床をはいはいしても心配ない無垢の床板や、防虫シートを挟み込んでいない有機畳など、健康に害を与えない素材であることは当たり前ですよね。

また、使い込むに従って、美しく味わい深くなっていくこと。そして、素材ごとの性能、例えば土や木の蓄熱性や調湿性などを活かすことで、住まいが安全で心地良くなるのはありがたいですね。それに、最後には土に還る素材であること。これって、ちょっと考えて見ると、とても重要なことなんですよね。

年数を経るほどに、木目の味わいが増してくる濡れ縁

[ 木組み ]

木の特徴は、しなったりめり込むことで力を吸収すること。これを活かして丈夫な骨組みを作る構法が『木組み』です。ボルトや合板で強引に固めるのではなく、程よい剛性と十分なしなやかさで、大きな地震力に耐える構造体をつくることができます。

手刻みした材を大勢の大工さんで組み上げていく建前は、伝統構法の家づくりの中でももっとももりあがる瞬間

[ 土壁 ]

すぐれた蓄熱性能や、程よく働く吸放湿性能があります。これによって夏は涼しく、冬は温かく保ってくれます。また、冬の過乾燥や梅雨時のじめじめ感もやわらげてくれます。さらに外断熱と組み合わせることで、夏冬ともに、より一層快適で安定した住環境を保ってくれることも、実験などからも明らかになってきました。もちろん石油製品とは違って空気を汚染したりしません。むしろ、いくらかの脱臭吸着能力もあるといわれています。それに、木組みとの構造的な相性がとても良い、丈夫な耐力壁でもあります。
*国土交通省の伝統構法性能検証実験でも実証されています

土壁の室内空間のやわらかい光。調湿性や蓄熱性にもすぐれている。

[ 日本の山の木を使う ]

森林は空気を浄化し、水を蓄えてきれいにする働きがありますよね。それによって私たちの住環境は保たれているのですから、是非、私たちの“木の家づくり”を、山を健全に保つことに繋げたいと思っています。いま、幾つかの山の産地と直接顔の見える関係を築きつつあります。直に情報のやり取りをすることで、今までお互いに知らなかった山側の事情や街側の要望などを伝え合うことで、『木材』という工業製品ではない素材を有効に活用することができるようになりますし、また、削減できた中間の流通コスト分を、今後の山の育成のために還元し、また、施主にとっても多少のコストダウンにつなげることもできます。自分の家の木が、どこでどのように育ったのかがわかる家づくりです。家にいながら、森のありがたみを感じられる住まいなんです。

建主さん家族が自分の家の材料となる山の木を見に行く。山への感謝の気持ちが芽生える時。

限られた予算の中で
質を落とすことなく家を建てるには?

これまでの事例で、建築工事費を坪数で割ってみると、だいたい一坪当たり70万円前後くらいになります。しかし、自然素材を活かしたクオリティーが確保できていることや、建物自体が冷暖房に頼らなくても快適で気持ち良く、健康にも良いといったこと。また、そもそも家自体が高寿命で永く住み継ぐことができるなど、『家の質』一つ一つを理解して頂けると、そのくらいの坪単価になることを納得して頂けます。住宅メーカーの営業経費を含んだ70、80万円とは違って、こっちのは全て自分たちに帰ってくる実のある70万だと・・・。

いろいろな希望を盛り込んで、積木を積むように単純に重ねていくと、家は大きく膨らみ、そして高額なものになってしまいます。そうならないように、要望事項を咀嚼して取捨選択をしていきます。何が大事か。どんな優先順位で希望を実現していくのかを整理してみるのです。あるいは別の方法で希望にかなう道を摸索して提案をしたりしながら、贅肉のようなものを削ぎ落してブラッシュアップしていく。

模型やスケッチなどを見ていただいて、イメージの確認をしていきます

そう、『家の質』を落とさずにコストを押さえる一番の決め手。それは必要以上に家を大きくしないことなんです。間取りを工夫して動線を整理することで、無駄なスペースを徹底的になくし、できるだけコンパクトにしていきます。でも、心配はいりません!三次元の視覚的効果も活かしながら、ゆったり感や包まれた落ち着き感。楽しげなワクワク感なども追求していきます。たとえコンパクトな家でも、多様な使い勝手と、懐の深い奥行感のある空間をつくり出すことは必ず可能です。

長いスパンで家族のことを考えられる家

私の仕事は、住まい手のこれからの生活のデザインを、いっしょに考えていくことだと思っています。私も3人の子供をもつ親ですから、お施主さんにものを教えるという立場ではなく、一緒に考えたり、あるいは経験を通した提案をしたりしながら、二人三脚で進んでいくイメージです。

家づくりは、“新しい家で、これからどんな暮らしをしたいのか” “今後、どんな生き方をしようとしているのか” を改めて考えてみる絶好のチャンスだと思うんです。是非、ご夫婦でもゆっくり語り合う機会にしてほしいと思います。

家をつくるとなると、どうしても「今の」家族メンバーでの生活からしかイメージできないことが多いために、間取りを固定的に考えがちです。でも数十年もすれば、その家に住む家族メンバーはずいぶん変わっているかもしれません。10年先のことだって分からないですよね。こども達はひょっとしたら、数年後には進学して家を離れて暮らし始めるかもしれません。それでもこども一人一人に広い個室が必要なのでしょうか。例えば、そんなことも一度振り返って考えてみることも大切だと思うんです。

最近、リビングとは別に、その時に応じた使い方をする「サブのリビング」のような空間をリビングの脇や、または、階段を上がった踊り場のような場所につくったりしています。そこにパソコンとか雑誌、勉強道具などをもっていくんです。

子供たちはそこで勉強しても良いし遊んでも良い。このような共有スペースがあれば子供たちの個室は小さくってもいいんです。あるいは、そんなスペースが取れなければ、ちょっと広めの食卓をつくるのでもいいですね。子供たちはそこに宿題をもって来て勉強する。お兄ちゃんが妹の勉強を見てやってもいいし、お母さんの目も届くし・・・。こんな風に、食卓から出発した発想をするだけでも、家族の関係が変わってきます。

「こどもが何人だから個室がいくつ・・・」という、なんとなくあたりまえ、と思っていたことなどに縛られずに、こどもが将来巣立っていったあとの生活も何となくイメージしながら、自由に間取りを発想できたら、きっとその家づくりは成功なのではないでしょうか。

最近、“家を買う”という言葉をよく耳にしますが、何だか少し違和感を感じてしまいます。モデルハウスを見て、オプション品をカタログで選んで発注する・・・。なんだか車を買う感覚と同じようですね。私が思い描くマイホームは“買う”ものではなくって、“つくる”ものなんです。自分たちの“生活”を既製品の中に押し込めて、それに合わせるのではなく、自身で思い描いて形にした器で育みたいですよね。私は、そんな家づくりのサポーターとして、住まい手に寄り添っていきたいと思っています。

職人の技と自然素材の良さを活かし、日本の山の木を生かした、循環型の家づくり。“機能的にも、美観的にもバランスよく整った、住まい手のそれぞれの癖のようなものも飲み込んだ、心と素肌にピタッと馴染む家をつくりたい”と、そう思っています。


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二階の吹き抜けに面したオープンなスペースとしてつくったサブリビング。「ギャラリー」と呼んでいます。