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設計士・丹羽明人さん(丹羽明人アトリエ):納得できる答を探して


かなり傷んでいるように見えても
まだまだ直せる!

「いちど、その古い家を見せて下さい」と、一緒に行ってみると、確かに柱の根もとはシロアリに喰われているし土台は腐っているしで、相当傷んではいましたが、家そのものの造りは梁も太く、しっかりしていたんです。

「里の家」からのすばらしい眺望

聞いていたお話の通り眺望も良く、周囲は緑に囲まれていて、そして何よりも、一緒に出かけた子供たちが、あたりを駆け回って遊んでいるその表情が何とも言えず嬉しそうで、きっとここに暮らすことが、この子供たちにとっても良いに違いないと確信し、それで、結局その古民家を再生することに、その場でお施主さんと決めたんです。

傷み方は確かにひどいんです。床が下がってたり柱が腐っていたりで、その状況をくまなく調べていく次第に、だんだん弱気になって来たりして・・・。しかし、地元の古くからの大工さんにも来ていただいて見てもらうと、“ああ、この程度ならわりに簡単に直せるよ!”もうびっくりするやら、ホッとするやら。でも、本当に簡単になおるんだったらありがたい! と、とたんに元気がわいて来たことを今でもはっきり覚えています。

民家は補修し易くできているから
寿命が長いんだ

現場を詳しく調査していくうちにわかったことがあります。それは、その家がとても“直し易くできている”ということでした。

なるほどそうなんです。畳をはがせば、荒板が並んでいて、その下はすぐ土間なんですから。ざっと見渡せば柱がどういう状態になっているかが一目瞭然です。腐っている柱があれば根元をすげ替えて『根継ぎ』をすればいいし、土台が下がっているところはジャッキアップして、下の沓石を据え直してあげれば良い訳です。はがれていた壁にしても、土をもう一度練り直して塗ればいいし、屋根も釘を使わないでわらを混ぜてよく練った土で瓦を固めていますから、きれいに剥がせて、そして葺き直すことが容易なのです。

そもそも、真壁づくりですので骨組みが表しで見える状態ですから、例えば雨漏りなど、何か問題が起きればすぐに発見できる点も良かったのでしょうね。傷んだ箇所がわかりやすく、そして直しやすい。直す材料も地場の土や木だから簡単に手に入るし、地元の大工や左官達は、それらに精通していて技術ももっている。だから家が傷んだからといっても壊すことなく、補修しながら大切に住み継いでこられたんですね。

そこまで来てやっと気づきました。今の木造住宅の寿命は30年にも満たないといわれる中で、逆に100年を超えて住み継がれている民家を結構目にすることができます。が、あれはハードとして高性能だったり高耐久だったりということだけではなくて、メンテナンス性が非常によかったということなんだと。

答えは伝統構法にあった

自分が探していた、“納得のいく家づくり”は伝統構法にありそうだ。そんな予感が、この「里の家」の再生を通して、はっきりとした手応えに変わりました。そして、それからの自分の仕事は、伝統構法へと強く導かれていったんです。

ちょうどその頃は、あの『阪神・淡路大震災』の直後でした。木造建築の構法を再度見直す気運が高まるなかで、伝統構法を見直す動きも高まってきていた頃でもあり、私自身、ずっとくすぶっていた木造構法の疑問に対する答えが、伝統的な木組み・貫・土壁の構法の中にあるんじゃないかな、と思っていたところでしたから、これを機に『木組み』と『土壁』による家づくりに、ぐぐっとのめり込んでいきました。

いろいろ勉強したり、大工さんといっしょに現場での実践を重ねていったりして、今ではすっかり伝統構法に学んだつくり方をしています。

最近では、土壁の強度実験などを通して、伝統構法のよさを科学的にも解明しようという動きもさかん。

ただ、もちろん昔の家をそのまま再現するのではなく、伝統技術の良いところを取り入れながら、かつ、現代の生活スタイルにフィットする間取りやデザイン。そして機能性を追求しながら、家づくりに取り組んでいます。そう、かつての寄り道で感じ得た、あの“魅力”の創出をめざして・・・。

木組みの骨組みは隠さずに、その美しさ、力強さを意匠に活かします。

今ならまだ
木組みの仕事ができる大工はいます

コスト削減と工期短縮を優先して、プレカットで骨組みを加工する家づくりがどんどん広まっていると聞きます。確かにプレカットの技術もレベルアップしてきているようですが、“木”という自然素材を活かして使うには、やはり大工という熟練者の目で見て触って判断する工程がとても重要です。木は自然の物ですから、当然、一本一本違いがあります。年輪のつまり具合だったり、節の大きさや数だったり・・・。そこで、大工は微妙な反り勝手なども読み取り、その材をどの位置に、どの向きに使えば、より一層家の強度を上げ、また見た目にもきれいに見えるかといったことなどを、一つ一つ判断していくんです。そうすることで、一本一本の個性が欠点ではなく、家にとって、むしろプラスになるように活かされるわけです。

“でも、もう腕の良い大工さんはいないでしょ?”と、よく聞かれますが、そうでもありませんよ。これまでにも何人かの大工さんと出会いました。年齢も若い40代から60代まで。みんな良い仕事をしてくれます。

建主さん家族も、熟練の大工さんの手の仕事を見て、感動する。

“流石、脈々と受け継がれた日本の大工技術はすごいなぁ”、といつも感心させられるんです。なにせ、さして大きな機械を使うわけでもなく、たった一人で40坪50坪の家でも造ってしまうのですから。

ただ、一般にはプレカットの家づくりに押され、腕を活かす仕事が減ってしまったために、その存在が埋もれてしまいつつあるように感じますね。しかも、家づくりのプレハブリケーション化が進む今、大工に限らず、職人さんが生かされる仕事が激減する中で、腕を磨くチャンスはおろか、後継者を育てるゆとりがもてなくなってきているのが現状で、この問題はだんだん深刻です。

でも、今ならまだ腕の良い職人さんはいます。今なら職人さんの手仕事による質の高い家づくりができます。ですから、私たちの家づくり事態が、次の世代へ職人技術を受け継ぐ、橋渡し役も担っていると思っています。

土壁を塗る下地となる小舞をかいている職人さん。

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