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古川 保の熊本市川尻町 震災日誌


6月7日(火)

川尻町の民家
全壊と判定されたが…

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Z邸は西南戦争時代に大砲の弾が当たった。薩摩軍ではなく官軍の弾らしい。梁に弾は当たり炸裂した破片は柱に刺さっている。今回の地震で被害を受けた。全壊である。赤紙を貼った人も、罹災証明を発行した人も躊躇なく「危険」「全壊」の表示をした。Z氏は直したいという。金銭的には、解体・新築の方が早いし合理性がある。しかし、歴史や個人の思い出などの、要素を入れると合理性だけでは語れない。直す方向で考えよう。

6月6日(月)

調査地盤
液状化地盤の予測は可能か

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家を建てるとき地盤調査をおこなう。ほとんどがスウェーデン式サウンデング調査である。そして、地盤が弱い場合は地盤補強工事を行うが、過去の調査結果を「地盤ネット」が公表している。地域の地盤が弱いか、強いかを事前に知るのに都合がよい。今回の「平田〜川尻液状化」ロードを見ても軟弱地盤はない。スウェーデン式サウンデング調査では液状化の予測はできなかっただろうか。数件の調査結果を眺めていた高森氏も頭をかしげていた。液状化はまだ解明の途中だろう。

地盤安心マップの地図の見方。青は地盤補強不要、赤は地盤補強必要)

6月5日(日)

液状化のまち
住民の流出を食い止めるには

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料亭「まじま」が庭先で臨時ビアーガーデンを開いていたので、飲みながら液状化相談コーナー開設で来熊している高森親子とゆっくり話した。

液状化地域の人たちは、地盤が不安定な土地に、これからは住めないから逃げ出したいと思っている人が多いという。住民の流失をどう防ぐかが自治会長たちの悩みだと。行政に地域全体を液状化しないように地域全体を土地改良を行政にお願いするというが、解明されていない液状化に対策はないし、土地改良には膨大なお金がかかる。近見・日吉地域から逃げてどこに行くのか。南阿蘇や益城に逃げるのか。日本国は災害天国なので、安全な場所はどこにもない。地震、雷、津波、土砂崩れ、大雪、大雨、洪水、竜巻等の災害がある。しかし、よく考えると、その中で液状化は命を奪わない一番安全な災害(?)だ。

液状化は防ぐことはできないが被害対策を事前に準備して少なくすることが出来る。そういう話を明日は住民にしようということでした。

6月4日(土)

付加断熱材
震度6強を体験した壁の中で防湿シートはどうなっている?

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最近、超高気密・高断熱の家が多くなった。窓を小さくするのも断性能は上がるが、断熱材の外に更に断熱材をいれる付加断熱工法も増えている。壁が厚いので中が見えにくい。断熱効果が高くなればなるほど結露が発生しやすくなるので、内側の防湿層(ビニールシート)は完璧な施工でなければならない。

高性能断熱の家は、熊本では少ないが、今度の地震みたいに揺れが1/30(10cmのずれ)おきたらどうなるだろうか。柱は折れずに元に戻ることが多いので、損傷の判断は付きにくい.。しかし、障子は残留変形が残る。障子の紙は揺れに追随できない。防湿層は障子みたいに壁の中で、炸裂していると推測する。

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高気密・高断熱を薦めている学者の皆さんへ。1/30の傾きは決して想定外ではない。地震は専門外と逃げずに、防湿層の被害を、実験して検証すべきだ。(ルーフィングはボロボロに破れている)

「震度6強が起きる可能性がある地域での高気密・高断熱の家の建築は建てるべきではない」と言えば袋叩きに合いそうだ。

6月2日(木)

断熱材
断熱材は何色をしていたか

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熊本での断熱材はグラスウールが主流である。施工マニュアルには「隙間なくきっちり施工のこと」と書いてあるが、熊本のモジュールは955㎜が多い。910㎜モジュールでは寸足らずで、メーターモジュールでは余る。またサッシュも多様で柱との隙間は空いている。断熱すると結露が発生しやすくなる。「隙間なくきっちり施工し、室内側の防湿材を3㎝重ねれば結露は発生しない」ことになっているが、被災現場をみるとそうなっていない。結露が原因でカビが生えている。昔の断熱材は黒色だったのかと疑いたくなる。一つの現場の話で、断熱材論ではないので、意見は不要。

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6月1日(水)

かわしり復興集会
住民の意思を第一に

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熊本のお城は言わずと知れた「熊本城」である。川尻地区のお城は「瑞鷹酒造」である。

6月1日19時より、住民主催による「かわしり瑞鷹酒造を復興させよう!」の決起集会が開かれた。110名の参加者だった。慣れ親しんだ川尻の街並みが4月16日に無残にも被害に会った姿に涙したと数名が報告した。まずは情報発信と募金から始め、そのうち何かアイデアが出るだろうと、肩苦しくない発足式だった。行政の援助があるかもしれないが、住民が要望することがまず一番であると前市長の三角保之氏が全体を締めた。見慣れた風景が無くなることは、思い出が無くなることである。

5月31日(火)

地割れ
気になる基礎近くのヒビ

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活断層の近くの地割れはすごい。割れ目は震源地の10㎞下まで続いているのだろうか。

活断層の近くではなくても地割れが起きている。地盤が軟らかく、基礎が揺られ、その先に擁壁などの硬い物があれば、基礎の横揺れで、地面にヒビが入っている。ヒビの深さは基礎の深さと同じであるから、多分そうだろう。ヒビの間の土はどこに行ったかの疑問はあるが、土が横に締め固まったのだろう。ヒビの間は、土か砂を詰めれば良い。

5月30日(月)

またまた液状化被害相談窓口開設
相談したい方はご予約を

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高森洋が、又、液状化地区にやってくる。

先月18日、19日と南高江地区で相談会を開催したが、大盛況だった。帯状に液状化被害が出た日吉地区の人からの再度の開催を要求され、6月3日、4日、5日に再来する。大阪から自費での来熊である。本当に頭がさがる。相談したい方は予約の連絡をしてほしい。私も連絡先になっている。

5月29日(日)

排水ヘッダー
動く家の配管方法

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建物の床下にはガス管、水道管、給湯管、排水管などの設備配管がたくさんある。建物が動くとそれらの配管は壊れてしまう。ガス管、給水菅や給湯管は最近フレキシブル状態なので自由に動くが、問題は排水管だ。排水管も少し動くように排水ヘッダーを採用している。30㎝移動の建物では排水管の破損はあるが、10cm以下の移動では被害はない。

しかし、ヘッダーを嫌う行政が多い。例をあげるとM行政、K行政だった。ヘッダーだと管理がうまくいかないというのだ。排水の不具合があった場合、施主は施工した工事店に連絡する。行政に文句を言う人はまずいないのに、排水ヘッダーを採用する場合は、設計者と施工者が責任を取れと念書を書かせる。念書まで書かされるならヘッダーの採用をあきらめる人は多い。

5月28日(土)

瓦5
瓦の耐久性

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熊本はセメント瓦の発祥地である。よってセメント瓦が多い。本物の瓦が土葺きだったころ、瓦に釘穴を開け台風に強い瓦として売り出した。セメント瓦は耐久性が短い。電着塗装だって耐久性は20年で、再塗装が困難である。普通のセメント瓦だと10年毎の屋根の塗装が必要だ。

その点、いぶし粘土瓦は凍害のない地域では100年の耐久性がある。価格面ではセメント瓦が100とすればイブシ粘土瓦は95である。どうして、みんな本物の瓦を使わないのだろうか不思議だ。イブシ瓦は少し反りがありほんの少し手間がかかるだけのこと。

施工地震対策でまとめて瓦をストックして置いた。30枚ほど盗まれた。一言いってくれれば差し上げたのに。

5月27日(金)

応急処置終了
風景の修復もたいせつ

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川尻4丁目、瑞鷹通りの瓦屋根の塀が倒れ悲惨な状態だった。4mの距離をブルーシートの応急処置の状態が続いた。見てくれはよくないが、緊急性のない塀の修復は後回しになる。1年以上もブルーシートのままではいけないので簡易な板塀をつくることにした。基礎は酒タンクの下に敷いてあるコンクリートブロックだ。その上に置いただけの木の塀をつくった。転倒防止のために番線で止めておいて、解体転用が楽に可能なようにした。一応の対処工事はこれで終了。なにもなかったような風景に戻った。これからは復興の始まりだ。

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5月25日(水)

地蔵堂の被害
誰が地蔵堂を直すのか

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川尻町の町内ごとに地蔵堂がある。地震の被害を受け傾いた。2町内の地蔵堂は小さいので、私たちの手で修復可能と思い昨日行った。(川尻まち復興基金による修復工事)。

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改めて建立年をみると大正4年であった。貧しい時代に建立し、裕福な時代に修理ができないとは嘆かわしい。

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地蔵堂は全部で7〜8か所あるが、川尻町の風景の一部となっている。1町内の地蔵堂も被害に会っているが直す余裕がない。

5月24日(火)

瓦4
費用対効果を考えよう

友人から瓦屋根替えの相談があった。築後40年の建物で、イブシ瓦の棟が落ちた。瓦が重いと地震に不利なので、板金かスレートに替えたいがどうだろうかという内容だった。確かに屋根を軽くすれば1割近くは地震に対して有利になるのは事実である。しかし、イブシ瓦の耐久性は凍害のない熊本では80年ぐらいもつ。まだ半分しか減価償却をしてないのに張り替えるのは勿体ない。

私は言った「屋根を替えれば200万円の費用を掛けて、屋根の寿命が短くなるのは勿体ない。屋根は瓦のままにして、壁や建具で耐震壁補強を1割増やした方が、費用は1/4ぐらいですみ、賢くない?」と。

5月23日(月)

瓦3
瓦の家の被害が多く見える理由

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瓦屋根の家が、被害が多いと受け取られる理由を分析してみる。

  • 1950年代の家
    ほぼ100%瓦の屋根 65年経過して現存
  • 1980年代の家
    90%が瓦の屋根、10%が軽い屋根 ほぼ旧耐震基準
  • 2000年代の家
    60%が瓦の屋根、40%が軽い屋根 ほぼ新耐震基準

{計算式}

  • 瓦の家
    65年×1+35年×0.9+15年×0.6=105棟の内9棟が新耐震(1割)
  • 軽い屋根の家
    35年×0.1+15年×0.4=10棟の内6棟が新耐震(6割)

瓦の家は1割しか健全でないのに対し、軽い屋根は6割が健全である。軽い家の健全さが目に映るが、学者は視覚判断をしてはいけない。8月に建築学会による被災状況発表の予定であるが、適切な判断を期待する。

被害の大きさは屋根の仕様ではなく、耐震基準が問題なのだ。

5月22日(日)

瓦2
法規制ではなく自主基準がよい

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阪神大震災のあと、瓦組合による自主基準である瓦施工ガイドラインができた(2000年ぐらいかな)。施工方法のマニュアルだ。そのガイドラインによる施工の瓦は落ちていないと断言できる。それより以前の施工は、屋根の端の2枚だけ止めていた。今回の地震でも端の瓦は落ちずに中央の瓦は落ちているので理解できる。瓦が地震に弱いのではなく、瓦の施工がまずかったのだ。

瓦業界の自主施工基準というのは良い。法律だと厄介だ。法律だとぎりぎりを狙う。建築基準法の場合は箸の上げ下ろしまで細かく法律化されている。例えば防火網は2ミリとある。その2ミリに議論が走る。違反違反と攻められるから、法の条項の細部に目が行き、本来の目的を失ってしまう。ガイドラインみたいな緩やかな自主基準がよい。

施主の要望に即し、その部分を強くしたり、普通にしたりすればよいのだ。台風に強い家、液状化に強い家、断熱が優れた家、地震に強い家、火山噴火に強い家、竜巻に強い家、津波に強い家、等好みに合わせて強化すればよい。全てに満足する家を望まれる方には、中古の潜水艦の購入をお勧めする。

5月21日(土)

瓦1
瓦屋根は本当に地震に弱いのか

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瓦屋根の被害が多いという報道が多い。困ったもんだ。

1つ目、瓦の家が多いから、瓦の家の被害が多い。
2つ目、耐震性の無い昔の家はほとんど瓦の家だ
3つ目、100年経過し、賞味期限を過ぎて、瓦の替え時の家だ。

瓦が重いから、被害が多いという専門家がいるが、よく考えて欲しい。瓦葺だと確かに5〜8%ほど家は重くなる。よって耐震壁は5〜8%多く入れる。建築基準法も、そのような計算である。屋根が軽かったら、設計者は軽い分耐震壁は減らす。軽い屋根も、重い屋根も地震対策上入れる耐震壁の割合は同じで、安全のために余分にいれるか入れないかの差はある。

瓦屋根の方が地震に壊れやすいという建築士はモグリだ。


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