掛川総会
静岡会員物語で予告していた第16期 職人がつくる木の家ネット総会が、2016年10月22〜23日、静岡県掛川市の「ヤマハリゾートつま恋」で開催されました。
ヤマハリゾートつま恋の本部棟にあたる「スポーツマンクラブ」入口
ヤマハといえば、明治時代にオルガン製作で創業して以来、楽器、バイク、半導体など多角的な経営で知られる、静岡を代表するメーカー。今回の総会会場となった「ヤマハリゾートつま恋」は、ヤマハが主宰するリゾート施設。中島みゆき、長渕剛、チャケ&飛鳥等、そうそうたるメンバーのデビューにもつながったポピュラーミュージックコンテストの開催地としても知られます。
自然豊かな広大な敷地に、ホテル、カンファレンス棟、野外コンサート会場、スポーツ施設などが点在する、ゆったりとした心地よい場所でしたが、残念ながら総会開催二ヶ月後の2016年12月に42年の歴史を閉じ、営業を終了したのが心残りです。
ヤマハリゾートつま恋の全体マップ。里山の自然がまるごとリゾート施設になったような素晴らしい施設でした。
地元静岡をはじめ多くの人に愛されてきたこの「つま恋」に、平成27年10月22日のお昼過ぎ、木の家ネットのメンバーが続々と集まり、午後一番から、カンファレンスルームで総会がはじまりました。
全国で活躍する会員の
情報共有と意見交換の場
木の家ネットの総会は、普通のNPOや任意団体でいう、会の運営方針をメンバーに諮り、事務報告などをする総会とは、様子が大分違います。「自分は今、こんなことをしている」と語る人。「このことについて、自分はこう考えるけれど、みんなはどう?」と投げかける人。全国から駆けつけた会員が前に出ては、伝えたいことを語り、次の人に替わり・・ということが順繰りに続くのです。
木の家づくりに関わり、それぞれの職種、地域でがんばっているメンバーが一同に会して情報交換する。伝える人が居て、知らなかったことを知る人が居て。そのようにして、木の家づくりをよりよく続いていくために必要なことが、広まったり、動き始めたりするのです。
「人材が宝」である木の家ネットのすばらしさ、面白さは、総会に参加してこそ分かります。ここで全ては伝えきれませんが、一端をご紹介しましょう。
新しい顔ぶれによる
自己紹介の時間
左から、大阪工業技術専門学校の荒井圭一郎さん、丸晴工務店の濃沼広晴さん、鈴木工務店の鈴木直彦さん、潤建築の横山潤一さん
荒井 圭一郎さん
大阪工業技術専門学校(大阪府大阪市)
大工技能学科で、大工になりたい子たちを教えています。ひとつの事を追求する力、創造的作業をする体験が乏しい今の子たちに、大工技能を通じて自分たちを表現し、社会と関われるような実習を多くさせています。
左:学生たちが考え、施工した木組みのあずまや「農園たわわ」 右:間伐材を実習に使用するために、吉野まで材を引き取りに
濃沼 広晴さん
丸晴工務店(神奈川県 川崎市多摩区)
宮大工出身の親方が、その技術を地元の家づくりに活かしたいという思いで工務店を興しました。大工歴60年の親方は大工育成に特に力を入れていて、見習いから育てた19才〜70才の社員大工8人で、木の特性を最大限に活かす家づくりを手がけています。
左:丸晴工務店の大工一同 右:様々な手法で木をふんだんに使った丸晴工務店の施工例
鈴木 直彦さん
鈴木工務店(山梨県 北杜市)
親子三代にわたり「木造り」と「手仕事」を大切に、木としっかり向き合い、住む人に長く親身に寄り添う家づくりをしています。山梨の持続可能な林業を見据え、四寸角の県産材を多用したモデルハウス「八ヶ岳 杜の家」も造りました。
左:建前の時の鈴木棟梁。手前に大径木の曲がり梁が見えます。 右:総会の翌週が完成見学会だった再生古民家。現代的なセンスが光ります。
横山 潤一さん
潤建築(山梨県 北杜市)
大工になって以来「ぬくもりのある木の家づくり」を指向してきましたが、木の家ネットや大工塾での交わりの中から、持続可能な社会を担える家造りに意識がシフトしてきています。子ども6人の大家族の暮らしで、現在、作業場を建築中です。
左:2月1日から15日にかけて、熊本震災の復興応援大工として、現地で作業してきました。その時の記念写真。 右:兵庫で取り壊しになった古い小学校の合掌屋根の廃材を、建設中の作業場のトラスに使う予定。
静岡の会員
次に、総会を実現するために動いた静岡のメンバーが発表をしました。まずは、家づくりに携わる大工3名、設計士1名。
左から、中川建築の中川孟さん、木ごころ工房の松村寛生さん、アトリエKAYA一級建築士事務所の山本康二朗さん、大工 北山の北山一幸さん
中川 孟さん
中川建築(静岡県牧ノ原市)
工務店の四代目で、貫工法、梁あらわしで、木のよさを活かし、木を積極的に見せる家づくりをしています。特には桧風呂まで作ってしまうことも!父も弟も、そして嫁も!大工。みんなで、手刻みはもちろん、大鋸で材を挽いたりや手斧でハツったり!
左:中川建築の施工例。 右:たくましいお嫁さん。一級建築士で一級技能士で一級建築士、一級施工監理士でもあります。
松村 寛さん
木ごころ工房(静岡県周智郡森町)
月一回、磐田市の旧・見付学校そばにある築150年の長屋を「木遊会」の大工仲間や地域の人たちとで改修するプロジェクトを進めています。柱や土台を替えたり、竹小舞を編んで土壁を塗り直したり、ゆるゆると楽しみながら、やっています。
左:木遊舎のロゴかっこいいです。 中:土壁作業の様子 右:見付学校と改修中の民家。
山本 康二朗さん
アトリエKAYA(静岡県静岡市)
依頼を受けて、石場建ての設計に挑戦、通り土間をはさんで事務所と自宅とで棲み分ける家ができました。構造屋さんと相談しながらの設計、日本建築専門学校での土壁破壊実験など、検証するほど、日本の家づくりの発想や知恵のすごさに驚かされることが多かったです。
左:土壁破壊実験の様子。 右:石場建ての家、上棟。
北山 一幸さん
大工北山 (静岡県沼津市)
竹小舞かき、土壁塗り、三和土の土間づくりなどの施主さんが参加する家づくりを、ワークショップ形式でやっています。リピーターが結構居ますよ!「みんなで作った家」という目に見えない想いが、その家の中身を作ります。今日は、施主会の会長が、総会に一緒に来てくれています。
左:北山さん作の熱海の住宅。 右:屋根瓦は、一枚一枚手焼き。
静岡県の西部は、諏訪湖を源流とし長野・静岡の県境を経て遠州灘に注ぐ天竜川が流れ、その流域の山間部に産する天竜杉は、良質な「赤身(あかみ)」が非常に多く、耐久性や耐水性にも優れていることで知られています。
天竜杉のよさを最大限に活かす製材をし、大工たちに供給する立場の会員から、そして、天竜材を公共事業に活かす取り組みを進めている静岡県の職員の方からも続けて発表をいただきました。
寺川さんの写真を山口さんの02の写真に取り替える:有限会社アマノの天野徳重さん、静岡県庁の早瀬和之さん、有限会社アマノの山口好則さん
天野 徳重さん
有限会社アマノ(静岡県周智郡森町)
最近、父から代替わりしました。天竜杉の天然乾燥材づくりを積極的に継承し、取り組んでいくよう、がんばります。天竜杉の植林は「あばれ川」だった天竜川の治水のために始まっており、80年生の杉が主力です。一本の木が美しい肌の材になるまでの長いプロセスに丁寧にこだわり、上質な木づくりを心がけます。
山口 好則さん
有限会社アマノ(静岡県周智郡森町)
山側でいくら良い材を生産しても、それを使える大工が居なければ、成り立っていきません。山で育てた木を、大工が適切に用いて家を建て、人が住む。そのサイクルをよい形でまわしていけるよう、天然乾燥材の特質を、そのメリットもデメリットも含め、使う人が広めていってくれたら嬉しいです。
左:アマノ本社。 右:アマノ事務所内。
早瀬 和之さん
静岡県庁(静岡県静岡市)
県が関わる施設には、天竜地域の潤沢なスギ資源を活かす。そのために、県庁の木造化にはじまり、公営団地の越壁にスギ板張り、集会場や体育館の木質化などに取り組む一方で、天竜杉を適切に使える設計者を育成するための「しずおか木造塾」も開催しています。直近では、富士山世界遺産センターが自慢です。
左:ふじのくに千本松フォーラム プラサ・ヴェルデ(沼津市) 右:富士山世界遺産センター(富士宮市):設計 坂茂