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山への思いを受け継ぐ


人工林を更新させる目途が立たない

ミ じつは、再生プランがうまくいって当座のところ国産材が売れるようになっていったとしても、その先の林業が見えなくて困ってるんです。いまある木はどんどん育ってるわけですけど、その後を受け継ぐ若い山がだんだん少なくなってるので、将来のことを考えると心配なんです。

よ 若い山が減ってるって、そりゃあ植えてないってことかい?

ミ いまは皆伐をほとんどやりませんから植える機会がないんです。これまでだと60年生くらいにもなれば皆伐して、新しい山をつくるために植林してきたんですけど、皆伐して木を売っても丸太の価格が安いから、伐採や搬出の経費を差し引くと、植林する費用が残らないんです。だからウチも皆伐はしないで、少しずつ間伐しながらまわしていくことにしてるんですけど…

よ そうか、ミドリちゃんのとこの木は間伐材なんだな。間伐材って言ってもあんな立派な木もあるんだから、世間で思ってるのとはだいぶ違うよな。

ミ 間伐材イコール低質材っていう考え方はやめてほしいです。

よ そりゃあそうだよな。で、間伐でまわすことでの不安てのは何だい?

ミ もう10年くらいもそういうやり方をしてるんですけど、その間はまったく植林をしてないんですよ。間伐しながら大きな木に育てていくのはいいんですけど、若い木がないっていうのは不安なんですよね。大きく育った山もいつかは皆伐して新しい山をつくろうということになると思うんですけど、そのときには後を継ぐ木がなくてゼロからのスタートになってしまうのかもしれません。

楠 これはミドリちゃんのところだけじゃなくて、人工林全体の問題だよ。40?50年前に拡大造林でスギやヒノキを大量に植えたわけだけど、いま40?50年生に育ってきたその山に資源が偏ってるんだよね。

平成19年3月31日時点のデータ(林野庁業務資料)。8?10齢級(36年生?50年生)の林分が多く、若齢林が少ない(1齢級は1?5年生。以下、5年ごとに齢級が増える)

よ 木が安くて植え替えのメドが立たないってのが問題なんだな。

楠 本当は若い山から壮齢林と言われるような山まで、面積が均等になっているのがいいんだよね。そうすれば伐ったら植えるを繰り返しながら、継続的に木材を生産できるでしょ。

よ このままだとどうなるんだい?

楠 間伐を繰り返しながら、空いた空間に自然に生えてきた木を後継樹として育てるやり方もないことはないんだ。天然林に近い形で管理するわけだけど、人工林全部をそうするわけにはいかないだろうな。手をかけて良い木を育てる林業があってもいいと思うし、日本ではそうした技術をずっと受け継いできてるわけだしね。

よ となると、どっかで皆伐しなくちゃなんねえってことだな。

ミ そのメドが立たないので心配なんです。再生プランでは経費を下げることばかり言われてるんですけど、さっきも言ったように丸太の価格が下がってしまえば、いくら経費をカットしても林家の手元に残るお金は増えないわけですから、植林まではできない。こんな状況で、林業は持続可能だなんて言えるのかしらって思います。

よ 難しいもんだな。いったいどうすればいいんだい?

楠 うーん…

よ 唸ってねえで良い手を教えてくれよ。

楠 それが分かればね。でもはっきりしてるのは、木の個性を生かした使われ方がなければ、手をかけて木を育てる林業はやっていけないってこと。そういう使われ方が増えれば、良い木はそれなりの評価で売れて林家にも植林費用が残るだろうし、新しい山を育てようという意欲も湧くしね。

ミ 本当にそうです。親方さん、お願いします。

よ そういうことなら任してくんな。本筋の木の家づくりが増えるようにって、オレたちも頑張るからよ。

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山をおろそかに思わない人たちを大切にしたい

楠 もうひとつ問題なのは、山村がこれからどうなるかってことだよね。この間、あるシンポジウムに行ったときのことなんだけど、今の林業改革を進めている政府の関係者がパネラーをやっていて、「山村に林業は不可欠です」って言ってたんだよね。

よ そりゃあその人の言うとおりだろう。

楠 それはそうなんだけど、僕らの感覚だと「山村に林業は不可欠」だって言うより、「林業に山村は不可欠」っていう方がしっくりくるんだよね。ミドリちゃん、そう思わない?

ミ ああ、何となくわかるような気がします。

よ ええ? なんだかややこしい話だな。ちゃんと説明してくれよ。

楠 言葉通りの意味さ。特にミドリちゃんの家みたいな自伐林家の場合はさ、山村に暮らしているからこそ山への思い入れも湧くし、林業を一生懸命やろうとするんじゃないかと思うんだよね。スギさんが山にはたくさんの汗がしみ込んでるからとか、たくさんの足跡があるからとか言って林業を頑張ってるのも、自分が山村で暮らしてるからこそなんじゃないかなあ。

ミ 私たち自伐林家はみんなそうだと思いますよ。

楠 そういう人たちは山村の重要な構成メンバーでもあるわけだよね。彼らがいないと林業、つまり山づくりは成り立たないし、彼らがいることで山村も継続できる。今の山村が過疎高齢化で疲弊しているのは事実だけど、山を良い形に保つには山をおろそかに思わない人たちが暮らす山村がどうしても不可欠なんだと思う。だから、山村に暮らしてる自伐林家をもっと大事にする必要があるんだよ。

よ さっきの話だと、自伐林家が新しい何とか計画でどう扱われるのかがわからないってことだったよな。お前さん、そこが今回の改革で不満なところなんだな。

楠 例えば所有規模が小さくて林業単体では食べていけなくても、農業をやったり、勤めに出たりしながら、林業に一生懸命携わってきた人たちはいるんだよね。そういう人たちが規模が小さいからと言って、集約化の流れの中に組み込まれてしまって、自分の山に対するイニシアチブが取れなくなるのはおかしいと思うんだ。

ミ 山への意欲がなくなっちゃうかもしれませんよね。ウチなんかも、そうしたら都会に出て勤めでもした方がいいやってことになっちゃうかもしれないな。

楠 さっきの繰り返しになるけど、新しい経営計画の制度が、集約化によるコストダウンだけを画一的に目指すのでは、山に携わることに思い入れを持つ人たちの地域離れを誘発しかねないということを行政や森林組合にはよく考えてほしいな。

自伐林家が所有林の経営に携われるようにしたい

地域づくりが森づくり、国づくりにつながる

よ なあるほどなあ。お前さんたちの考えてることがだんだんわかってきたよ。つまり、あれだろ、家庭には子どもが不可欠かって言われればよ、お子さんがいない家庭もあるし、そこはいろいろあらあな。だが、子どもに家庭は不可欠かって聞かれれば、そりゃあ不可欠に決まってる。怒る時も、かわいがる時も、ある意味で容赦しないような関係があってこそ、子どもはちゃんと育つってもんさ。林業と山村の関係もそれと同じことだろ。

楠 そうだよ、親方、わかってるじゃん。

よ よせやい、くすぐってえや。だが、今の社会をつらつら見るとだ。かつては家庭や地域で担ってきた子どもを育てたり、お年寄りの面倒を見たりといったことがなかなか難しくなってるって現実もあるよな。だから、社会がそれを担おうってんで、保育や介護のシステムを作り上げて、そこにビジネスの考えを持ち込んでくる。それが必要ないとは言わないけどよ、あくまでも足りない部分を補うものであってさ、大事なのはやっぱり家庭や地域が担うってことであるはずなんだよな。ところが、そっちの方が難しいってんで社会のシステムに委ねようとする。なんか林業と似てないかい。

楠 ホントだね。林業も所有者が自分の手には負えなくなってるからって、ビジネスとして成立させる枠組みを政策的に作り上げて、それにすべてを委ねようとする流れが確かにあるな。

ミ 家庭や地域がよくなるにはどうするかって視点がやっぱり必要ですよね。それってビジネス的な損得勘定だけでは解決策を見い出せないんじゃないかしら。

楠 だから山の場合は効率化を進めるだけじゃなくて、山に思い入れを持つ人たちやその人たちが暮らす山村を大事にしようという視点が不可欠なのさ。熱心な自伐林家のイニシアチブを確保するのはもちろんだし、例えば教育や医療の充実を図って暮らしやすい環境を整えたりということも林業振興に通じるし、国づくりにもなるんだと思う。森と人との関係を良くして、それが受け継がれることになるんだから。

よ だな。オレたちも及ばずながら力になるぜ。消費者の人たちに山のことや木のことをもっとわかってもらってよ、山のみなさんの思いをおろそかにしないような木の家づくりがどんどん広まるように頑張るぜ。

ミ ありがとうございます。

楠 こういう輪が広がれば、必ず良い方向に行くよね。親方、また山に来てよ。誘うからさ。

よ おうよ。今度は仲間やお客さん、お客さんにしたい人たちも引き連れて大勢で押しかけるぜ。楽しみにしててくんな。

ミ お待ちしてます!


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