木の良さってなんだろう? 林業家や大工の思いは? 木のことが好きで好きでたまらない2人 -林業を志す若い女性と木組みの家づくりに携わっている大工- に熱〜く語り合ってもらいました。
家業の林業を継ぐお嬢さんと大工さん
ひさしぶりの巡りあい
よ 悪い、悪い、待たせちゃって。
楠 忙しいみたいだね。このご時世にうらやましいなあ。
よ 馬鹿言うない。内装の仕上げを念入りにやってたら、ちょっと夢中になっちまってさ。ところでお連れさんはと…、あれ、なんだい、若い女の子なんか連れて。きょうは確か林業家と一緒だって言ってたじゃんか。
楠 何言ってんだよ。忘れたの?ほら、スギさんところのお嬢さんのミドリちゃん。
ミ 親方さん、お久しぶりです。
よ ミドリちゃんて、あの山主のスギさんところのかい? いやあ、何年ぶりだろう。見違えちまったよ。
楠 去年、大学を卒業して、今はお父さんの見習いをやってるんだって。
よ てえと、山師になろうってのかい。そりゃあ頼もしいや。
ミ 駆け出しですけど、これからよろしくお願いします。確か今、建ててらっしゃる家にもウチの木を使ってくださってるんですよね。
よ おうよ。いつも通り、お父さんの弟さん、スギマル製材さんから入れてもらってよ。
ミ どんな家なんでしょう。見に行きたいな。
よ まあオレっちのやり方はいつもと同じさ。スギマルさんの天然乾燥材を手刻みにしてさ、こう木と木とをしっかり組んでいくわけよ。まあ柱も梁も色つやが良くてさ、それを木組みにしたとこなんか、我ながらほれぼれしちゃうぜ。しかし、お宅のお父さんとスギマルのオヤジ、兄弟そろってガンコオヤジだよな。とびきりの材を選んで寄こすから、まったく文句の付けようがねえや。よかったら明日、見においで。
ミ ぜひお願いします。
よ おう。しかし、あの女の子が山師の卵とはなあ。このご時世によく決心したねえ。
ミ どういうことですか?
よ だってさ、今は木が売れないでしょうが。あんなペラペラの家ばかりじゃ、スギさんの山だと、商売にならないんじゃないかなあ。
楠 まあ、そのへんの話は後にして。とりあえずビールでいいの?
よ おう。あのミドリちゃんと木の話を肴に飲めるなんて嬉しいじゃねえか。きょうはじゃんじゃんやろうぜ。さあ乾杯と行こう!
「間伐材=エコ。だから使いましょう」
って、なんだか違う・・・
ミ 親方さん、さっきの話ですけど、林業の将来をどうお考えになりますか。
よ いきなり直球で来たな。そりゃあ、おたくみたいに立派な木をたくさん育ててきた林家は、本来なら将来は明るいはずさ。だけど、オレたちみたいな家づくりばっかりならともかく、最近は地方でもハウスメーカーやらフランチャイズメーカーやらの家が増えてきただろ。木も売りづらいんじゃないかと思うわけさ。
楠 あれあれ、せっかく家業を継ぐって言ってるのに、のっけからそんな話をしなくてもいいじゃない。
間伐
森林が成長していく過程で、密集して来た木を抜き伐りすること。木を適切に育てるために不可欠の作業。林床にまで太陽が届くようになり、下草が適度に生えるので土壌の流失を防ぐことにもつながる。
社団法人全国林業改良普及協会
間伐のしおり(H21版)
ミ いいんです、親方さんの言うとおりですから。本当に今は集成材や合板とかばかりで家が建つようになっちゃって、イヤになるんですけど、でもそんな時だからこそ、林業に携わってる私たちがしっかり木の良さをアピールしなければいけないと思うんです。
よ いいこと言うねえ。まあ最近は国とか県とかが間伐材利用のPRなんかをさかんにやるようになってるしな。林業にも追い風が吹いてるって言ってもいいんだろうな。
ミ 待ってください。その間伐、間伐という掛け声にむしろ問題があるんじゃないかと、私は考えているんです。
よ へえ、そらどういう意味だい?
ミ だって、林業経営では、間伐は木を大きく育てていくための途中段階のことですから。
よ でも、おたくなんかだと、途中というより、立派に育った木だって間伐で伐ってるんじゃないのかい。だったら良いPRになると思うんだけどな。
皆伐
森林全体を一斉に伐ること。皆伐した後、植林をしない「造林放棄」が増えていることについては、こちらで!
ミ 確かにウチでは、皆伐で全部伐るのは木が育ち切ってからということにしてるので、それまでの生産は全部間伐です。でも、それは生産手段が抜き伐りだというだけなので、今、盛んにPRされている「エコ」としての間伐とはちょっと違うと思うんです。
楠 ミドリちゃんが言いたいのは、今の間伐材PRは、手入れ不足で荒れた人工林を再生するためという意味合いが強いわけだけど、彼女の山はそうじゃないってことだよ。
よ そりゃあそうだな。間伐材って言うと、なんか品質はイマイチだけど、山の手入れを進めるために使ってください、みたいなイメージだもんな。それと一緒にされたら、たまらないよな。
・5カ年を1齢級とし、林齢1〜5年生までを1齢級、6〜10年生までを2齢級、以下3齢級、4齢級という
・林野庁発行「林業白書」H20年版より 100万ha以上の部分に着色
ミ と言うか、山をやってる立場で言わせていただくと、間伐材がすべて低質材っていうイメージを持たれること自体、しっくりこないんです。確かに、以前のまだ若い木ばかりのときなら、間伐して出てくる木は細い物ばかりだったので、そういうイメージに近いものはあったんですけど、いまはもう、かなりの太さに育った山が多いので、間伐材って言っても、それなりの太さのものが出るんです。
楠 要するに今はだいたいどこの地域でも、山から出てくるほとんどの木が間伐材なんだよね。皆伐で全部伐っても、今の丸太価格では後の植林費を差し引くと、ほとんど手元にお金が残らないから、とりあえず間伐でまわしていこうというわけさ。
よ なんだい、山から出てくるのがみんな間伐材なら、間伐材のPRでいいじゃんか。
ミ でも消費者の方が「間伐材はエコ」みたいに思ってくれてるのと、ちょっとずれちゃうと思いません?
よ そりゃあそうだな。
ミ 品質だって、同じ間伐材でもいろいろあるんですよ。
よ 全部間伐材ってことなら、そりゃあ良い物も悪い物もあるよな。
ミ だから、何というのかな、「間伐材だから使おう」という掛け声は、まあ悪い事じゃないんですけど、それが長い目で見て林業のためになるかと言うと、ちょっと違うんじゃないかなって。
木を「品質本位」で見てほしい
楠 たぶん、彼女が言いたいのはさ、木材をもっと品質本位で見てほしいってことなんだと思うよ。「間伐材」って言う先入観で見るんじゃなくて、良い木は良い木、悪い木は悪い木。これでいいじゃんってことじゃないかな、ね、ミドリちゃん。
ミ そうなんです! 私たち、山をやってる側としては、やっぱり良い木を育てようとしてるので、伐り方が間伐だから、皆伐だからということじゃなくて、ああ、良い木だなあって見てほしくて。そうじゃないと、林業をやってる甲斐がないと言うのか、なんか今の間伐材ブームだけでは、林業が良くなるとは思えないんです。
よ なるほどねえ。確かにさ、木は個性もあるし、品質本位で見るのが筋だよ。間伐材だからどうとかじゃなくて、「この木を見てください!」ってことだよな。オレら大工にすりゃあ、その方がよほどすっきるするよ。実はオレも「間伐材、間伐材」って聞かされて、なあんか違うなとは思ってたんだよな。
楠 親方が言ってるのって、こないだの研修会のことかな?
よ おうよ。ほら、県のお役人が「間伐材をよろしく」みたいなことを盛んに言ってたじゃんか。あの県の材をオレもよく使うけど、実際、品質はきっちり見て仕入れてるわけだし、多少、質が落ちてるのだって、それなりの使い方はあるんだ。適材適所って言うかな、こちとらきっちり木と向き合ってやってるのに、「間伐材だから使いましょう」ってのは、雑音みたいで、なんかうざってえやって思ったもんな。
ミ 山をやってる立場で言わせていただくと、だからおじさんみたいな大工さんたちに頑張ってほしいんです!
楠 おいおい、ミドリちゃん。おじさんじゃないだろ、親方だよ。
ミ あ、ごめんなさい。つい子どもの頃の気分になっちゃって。父がよく言ってたんです。親方さんみたいな大工さんに使ってもらうのが、木にとっても幸せだなって。
楠 そりゃあ、木の嫁入り先として、親方のところは最高だよ。あんなに大事にしてくれるんだから。
ミ そうなんです! 父も同じ言い方してました。
よ おいおい、なあんか、くすぐったいな。オレは当たり前のことをしてるだけだぜ。そう持ち上げるなよ。
楠 そういえば、親方の息子さん、いまどっかで修業中だったよね。そろそろミドリちゃんみたいなお嫁さんがほしいんじゃないの?
よ え? 馬鹿やろう、それはまた違う話だろ。ミドリちゃんが赤くなってんじゃんか。しょうもないこと言うなよ。