プレカット工場で刻み加工される材
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その木のふるさとを知る


プレカット工場が流通の核に

最近10数年で木材の流通は大きく変化しています。前項のチャートに新しい流れを加えてみました。青い矢印で表された動きが新しく台頭してきた流れです。山に近い上流(「川上」と言います)の方では、原木市場を通さない流れが生まれています。これは従来にはなかった大規模な製材工場が出現していることが背景にあります。国産材の製材工場といえば、多くは小規模で、1日に処理できる丸太の量も数十本とか数百本とかの工場がたくさんあります。ところが最近は、これまでになかったような規模の製材工場がいくつも出現しています。そうした工場では1日に1,000本以上、多いところでは数千本もの丸太が処理され、柱や梁といった製材品が次々と生産されていきます。このくらいの規模になると、原木市場が仕分けるロットでは間に合いませんし、山から丸太を直接仕入れ、自社で仕分けるといったことも当たり前に行われています。

ただ、流通の変化として、もっとも特筆すべき動きは川上ではなく、川下で起こっています。それを演出しているのが、プレカット工場の存在です。「プレカット」とは、大工が鋸や鑿を使って木材を刻むかわりに、機械が自動的にそうした刻みを行うことをいいます。大工の減少や住宅工法の合理化を背景に登場したプレカットは、平成時代に入るとすさまじい勢いでシェアを伸ばしました。現在は在来軸組工法で建てられる木造住宅の8割近くにプレカットが採用されていると言われています(全国木造住宅機械プレカット協会調べ)。プレカットの加工ラインも、当初は手作業を機械作業に置き換えた程度のシンプルなものでしたが、最近は図面を入力すれば、用途に合わせて木材を自動で刻む全自動タイプが主流です。プレカット工場数はここ10年ほど800工場台で推移していますが、その間もシェアが上昇し続けていることから、そうした全自動タイプが増え、加工能力が向上していることがうかがえます。

プレカット工場数と木造総戸数、プレカット率の推移
※プレカット工場数とプレカット率は全国住宅機械プレカット協会の聞き取り調査による。

このようにプレカット工場が部材加工の主要ポイントになったことで、問屋や市場からプレカット工場に木材が直接流れるようになり、それが工務店やハウスメーカーに供給されるために、材木店を通さない木材の流れが生まれました。さらにプレカット工場が製材工場や輸入商社から大量の木材を直接仕入れるケースも増え、問屋や市場、材木店といった流通業者をまったく通さずに木材が流通することも珍しくなくなりました。大きなプレカット工場の場合、1カ月に数100棟もの刻みを手がけていますから、それだけの量の住宅建築情報がプレカット工場に集中することになります。そうした具体的な情報を抱えていれば、木材を仕入れる力も必然的に強くなります。チャート図の中では、青い矢印がいくつもプレカット工場を出入りしていますが、そのことはプレカット工場が木材流通の核として機能していることを示しています。当然、問屋や材木店といった従来型流通の担い手は大きな打撃を受け、最近は経営規模を縮小したり、転廃業を余儀なくされたりしているところが少なくありません。

無垢の木をスライスして接着剤で貼り合わせた集成材。無垢の木よりも狂いが少ないため、プレカット工場では集成材が主力となっている。

「木の家」と「鉄の家」の見分けがつかない?

プレカット工場が台頭し、木材の流通構造が変化したことによって、私たちが住む家にはどのような影響がもたらされているのでしょうか。プレカットは大工が手で刻むのとちがって、1本1本の木材の個性に対応することはできません。加工する木材には鉄やプラスチックのような高い精度と安定した性能が求められます。その結果、無垢の木材は敬遠され、薄い板を接着剤で貼り合わせた集成材ばかりが使われるようになりました。接着剤という化学物質が添加されてしまえば、もはや100%自然素材とは言えなくなってしまいます。家の寿命が来て、最終的に廃棄されるときも、プラスチックなどの石油製品に比べれば小さいものの、環境に負荷を与えることが避けられません。

合理化されたステレオタイプの木造住宅が増えたという変化も見逃せません。集成材で建てられる家は、柱が壁の中に隠される大壁構造がほとんどです。外壁もサイディングで仕上げられることが多いので、どんな材料で建てられているのか、見ただけではわかりません。木造なのか、鉄骨造など他の構造なのかが見分けられない。そうなると建物は単なる箱でしかありません。その箱に空調設備を備え付け、システムキッチンやシステムバスを入れ込み、それらのスペックの性能が家の品質を決定付ける。そんな木造住宅が増えているのです。

昔から「木の文化」が育まれてきた日本では、住まいといえば「木造住宅」であり、「木の家」には根強い人気があります。ところが、構造上は確かに「木造」でも、見ただけでは「木の家」なのかどうかがわからない家が増えているのが今の現実なのです。これでは、よほど想像力に長けた人でも、自分の家に使われた木材のふるさとを思い浮かべようという気にはならないでしょうし、「木の家に住みたい」という、私たち日本人の思いにこたえることはできません。

木の家は「顔が見える」のが当たり前

最近、各地で「近くの木で家をつくろう」という取り組みが行われるようになってきました。それらの多くは、無垢の国産材を利用した「木の家」らしい木造住宅を建てることにこだわり、ステレオタイプの合理化された木造住宅づくりとは一線を画しています。もともと「近くの木を使おう」という発想は、木を適切に利用することを通じて、森をよくしようという思いがベースになっていますから、自然素材としての木材の特性を大切にするのは、当たり前のことだと言えます。大工が手刻みで部材を加工することが多いのも、無垢材の個性を生かそうという考え方によるものです。

私たち木の家ネットのメンバーが手がけているのも、木を知る職人の技術を生かし、無垢の木材をふんだんに使った「木の家」らしい木造住宅づくりです。そこに登場するプレイヤーは森林所有者や森林組合、製材工場、大工・工務店、そしてコーディネーターとしての建築家あるいは産地木材業者といった「つくり手」たちです。ひとつひとつの規模はそれほど大きなものではありません。しかし、すべてのプレイヤーの顔が見えるという点で、山の木と住まい手を確実につなぐことができます。このホームページでも、山と住まいとの「つながり」に対するメンバーの思いを随所でご紹介しています。ぜひ「つくり手ページ」をご覧になり、そうした思いに耳を傾けていただきたいと思います。

「近くの木」を使った「顔の見える木の家づくり」は、実は特に真新しいものではありません。もともと各地の木造住宅建築はこのような形で行われてきたのです。今でも、裏山の木を自分たちで伐採し、製材は地元の賃挽き工場、建築工事は地元の大工が中心になり、そこに大勢の親戚や友人たちが加勢して家を建てるといった習慣が残っているところがあります。祖父母あるいはもっと前の世代が植え育てた木を子孫が使って家を建て、その後に植えられた木がまた何代か後の家づくりに使われる。自然を身近に感じ、つくり手の「顔が見える」というのは何も特別なことではなく、ごく当たり前のことだったのです。「近くの木で家をつくろう」という取り組みは、こうした本来の「木の家づくり」を取り戻そうという試みでもあるのです。


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