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気候風土適応住宅のチラシができました!


5.
こんな要素のある住宅は
外皮性能達成困難と認められる

外皮性能基準がクリアできない住宅が、 なんでも認められるわけではない

大工1 でさ。本題に戻るけどさ。外皮性能満たせないからって何でも「気候風土適応住宅」になるってもんでもないんだろ?

大工2 もちろん違うよ。外皮満たせないのを全部「気候風土適応住宅ですから」として認めたら、ザル法になっちゃうからな。国のガイドラインで割とはっきりと「気候風土適応住宅として認められる要素」を打ち出してるよ。

国のガイドラインに示された
外皮性能達成困難な要素

外皮性能を満たせない住宅がすべて「気候風土適応住宅」になるかというと、そうではありません。国の方で「どういう要素を外皮性能達成困難と認めるか」という、ガイドラインを示しています。

  1. 縁側
  2. 野地現しの小屋組現し
  3. 土壁塗(内外真壁または外大壁)
  4. 落とし込み板壁
  5. 土壁以外の内外真壁
  6. 外壁両側木材あらわし(校倉・丸太組)
  7. 開放的な床下(石場建て・足固め)
  8. せがい造り、桔木、出し梁
  9. 面戸板現し
  10. 茅葺き屋根
  11. 地場製作の木製建具
  12. 下地窓、無双窓
  13. 竿縁、網代、簀子天井
  14. 土間(三和土)
  15. 下地板を用いない単層床板張り

これらは、伝統的な民家から継承されたものであり、景観をつくりだす要素となっています。「気候風土適応住宅」とは、長く愛され、将来の地域の景観として残っていくポテンシャルのある住宅だからこそ、このような「残すしくみ」ができたわけです。

民家にも通じる
伝統的な住まいの構成要素

大工2 おまえだったら、どこに○がつく?

大工1 そうだな。うちはお施主さんと小舞編んだり荒壁塗ったりする土壁の家づくりだけど、内外真壁じゃなくて外は板を張ってる。施主さんの要望があれば、土壁のチリ分だけ自然系の断熱材入れるよ。だから・・まず(3)に○がつく。あとは、(11)も。 地場製作の木製建具は、標準仕様だからな。あと、プランによっては(12) 下地窓、無双窓も、お施主さんが土壁だけじゃなくもっと結い作業したい!なんていう場合に(14) 土間(三和土)をやることもある。

大工2 伝統的な木造住宅の、民家にも共通するような構成要素がずらっと並んでるだろ?こういうような家が、新築でもそれぞれの地域に建ってほしい!よりよい景観を作ってほしい!という思いで「気候風土適応住宅」のしくみができているからな。

大工1 こういう要素がない場合は、外皮性能満たそうよ、っていうこと?

大工2 まあそういうことだよね。充填断熱や付加断熱が可能なつくりだったら、気候区分ごとに示されている外皮性能の数値って、実現するの、そうむずかしい数値でもないしな。

一棟ずつ良質な住宅を作る
地場の工務店のためにあるしくみ

大工1 その地の気候風土に合った家づくりってさ、全国どこでも同じように建てる量産型のハウスメーカーにはできない芸当だよね。

大工2 昔の民家もそうだろ? その地の職人が、その地の気候風土を読んで、その地にあるものを家をつくってきた。どの地方の民家にも共通するゆるやかな考え方はあるけれど、特に屋根の形状なんかには、その地ならではのローカル色にあふれてるよね。

大工1 それがその土地らしい風景にもつながってるわけだよね。

大工2 そんな、地域の気候風土に合った家づくりが昔からあったのさ。それを、これからも、地場の工務店や設計事務所が、施主との顔の見える家づくりで進めていくことが大事なんだって、国でも認めてくれたわけ。

大工1 嬉しいよね。あたりまえのことがいつのまにかなくなってくことが多いけど、こうやってあらためて取り上げられることで、盛り上がってく気がするな。

京都の町家の街並み

6.
省エネ計算は必要。
「外皮」と「一エネ」の二つの数値を求めます

「気候風土適応住宅」でも
省エネ計算は必要!

大工2 外皮性能を満たせないから気候風土住宅で通せばいいや!っていうんでもないっていうのは分かったろ?もうひとつ言っとかなきゃいけないことがある。「気候風土適応住宅だったら計算しなくていい!ん」ってことではないんだよ!

大工1 ええ〜〜っ!外皮性能を満たさなくてもいいけど、計算はしなきゃなんないのか・・

大工2 計算してみなきゃ、そもそも満たすかどうかも分からないだろ!

大工1 ううううっ・・計算、いやだ・・

大工2 計算のためにするんじゃない。自分のつくる家の温熱環境がどれくらいなものか、施主に説明できるというのは、プロとして当然のことだと思うけど??

大工1 そうだね。そう言われれば、そうだ。

大工2 だから、計算を覚えよう!

外皮性能の計算は
辻さんのソフトを使うと楽

大工2 まず外皮性能だけど、辻さんの計算ツールを使えば、そんなにむずかしいことじゃないよ。エクセルに断熱材の種類とか厚みとかを入力していけばいいだけだしね。

大工1 エクセルなら、見積もりの拾い出しに使ってるよ。

大工2 じゃあ、大丈夫さ!ただし、基礎で断熱している場合はどうとか、充填断熱の時はどうとか、さまざまな仕様に応じての解釈については、省エネ講習の設計篇を受けておいた方がいいな。

大工1 ああ。半日講習、やってるよね。俺も設計篇と施行篇と両方でて、テキストももらってきたよ。

大工2 じゃあ、外皮計算の数値を入れてく時に、疑問にあたったら、まずはテキストをあたって確認していといいよ。せっかく貰ったんだから!

一次消費エネルギー計算は
建築研究所のオンラインソフトに入力

大工2 「気候風土適応住宅」の場合にも、省エネ計算は必要。外皮性能の数値は出さなきゃなんない。そこまではいいよね。あともうひとつ、一次エネルギー消費量も算定しなくちゃいけない。

大工1 ええっ、もうひとつあるの??

大工2 ま、実際に計算するのは、主たる居室とそれ以外の居室、非居室の面積分けぐらいだから、そうむずかしくないよ。あとは、建築研究所というところで提供しているオンラインプログラムに、冷暖房、給湯、換気、照明、家電といった設備関係の仕様を選んでいけば、プログラムの方で設計一次消費エネルギーというのは、出してくれる。

大工1 へえ。じゃあ、そうむずかしくないね。

大工2 この設計一次消費エネルギーというのは、その家で暮らすと年間どれくらいのエネルギーになりそうかを、設計段階で見積もるという数字なんだよ。この数字も「外皮性能が悪いと、暖房エネルギーは余計に使う」という前提ではじき出される。つまり、伝統木造なんかは不利になる。

大工1 じゃあ、外皮性能は適用除外になっても、こっちで引っかかっちゃう?

大工2 一エネ計算の判定プログラムには通常の住宅版とは別に、守らなきゃいけない基準一次エネルギー使用量がちょいゆるめの判定が出る気候風土版っていうのがあって「気候風土適応住宅」で申請する場合には、そっちを使うよ。

大工1 なるほど。議員会館であった発表でも、設計一次消費エネルギー量がやたらと悪い数値出て、基準一次消費エネルギーを上回っちゃってNG判定になってたもんな。

大工2 だろ? しかも、実際に暮らし始めてからあとのエネルギーの年間使用料の統計をとってみると、設計値をも基準値をもうんと下回る、立派な成績が出るんだからなあ。

大工1 もうちょっと現実に近い評価が出てほしいよね。

大工2 そのへんも建築研究所の方で、そもそもの温度設定とか、薪ストーブの利用など、あっちこっちを改良していってくれてるらしいよ。

大工1 ま、多様な家づくりがある中で、どんな場合でもピタっとくる査定結果が出るようにプログラムつくるのって、大変なことだよな。ご苦労様です!!

数値合わせのための計算でなく、
設計をより磨いていくための計算

大工2 今まで感覚的にやってきたことを、計算したりなんだりっていうのは、正直面倒だよね。構造にしてもそうだよ。石場建てなんかしようと思ったら、限界耐力計算して、適判にまでまわさなきゃなんないもんな。どうにかなんないかと思うけどさ。けど、構造にしても省エネにしても、伝統木造とはまったく違うような考えでの家づくりと並ぶ中で、耐震性能はこう、省エネ性能はこう、って説明できないと、なかなか残ってかないよ。

大工1 まあなあ。家を欲しい人だって、比較検討するしなあ。

大工2 目の前の施主さんに「建ててもらう家は、どれくらいの光熱費になりますか?」ってことだって、省エネ計算してれば、大体分かるようになるしね。

大工1 そっか。そう考えると、言えた方がいいよな。今時、クルマだって燃費がいくらだから車本体は高くても買おうとか、考えるもんね。

大工2 それにさ、数値を満たすかどうかが融資とかローンと助成金とか、関わることもあるだろ? 今まではそういうの、高気密高断熱タイプのことって思ってきたけどさ、地元の信用金庫とかで「地元の景観づくり応援 気候風土適応住宅ローン」とか、できたらいいと思わない??

大工1 それ、いいな!なら、俺、計算でもなんでもするよ!!

大工2 辻先生のソフトみたいな、計算をサポートしてくれるツールもあるしな。ここはひとつ「計算、いやだ〜」ってハードルは、越えようよ!俺に分かる範囲のことは、教えてやっからさ!

「気候風土適応住宅」でも
省エネ計算そのものは求められます

省エネ基準には、「外皮性能」と「設計一次エネルギー消費量」という二つの数値を計算し、確認申請時にその提出を求めらます。また、その数値が、国が示す基準値内におさまっている「適合義務」も発生します。

ここで注意しなければならないのは「気候風土適応住宅」で適用除外になるのは「外皮性能の適合義務」だけであって、計算値の提出と、一次消費エネルギーの適合義務はある、ということです。

外皮性能計算に用いるツール
おすすめは「環境デザインサポートツール」

「外皮性能」は、その家で使っている断熱材や開口部の仕様を拾い上げ、その性能と面積をもとに計算していきます。そのための計算ツールは、独立行政法人建築研究所や、建材メーカーから提供されています。ただし、建材メーカーの計算ツールでは、そのメーカーの断熱材やサッシの技術情報しか入っておらず、建築研究所の計算ツールでは、各メーカーの技術データは、自分でカタログなどを調べて引っ張ってこなければなりません。

そこを、みんなが使っている断熱材の技術データを集め、断熱材や開口部の種類さえ選べば、あとは厚みを入力するだけで壁・床(基礎)・屋根(天井)の各部の外皮性能の数値が出るように工夫したのが、辻充孝戦先生の「環境デザインサポートツール」です。考え方は建築研究所やメーカーで出しているものと同じですが、使いやすさが格段にちがいます。

「環境デザインサポートツール」は、辻先生の講演会に出席する人にしか入手できないことになっています。2020年の義務化に先立ってこの計算のスキルをつけようという意識のある地域では、辻先生を招いての勉強会が行われています。

設計一次エネルギー消費量を
算出できるオンラインサービス

もうひとつ求められるのが、一次エネルギー消費量(一エネと略されることがあります)です。これは、新築する家がどれくらいのエネルギー消費量になるか、冷暖房、給湯、家電、換気、照明など、さまざまな場面で消費するであろうエネルギーの年間に使用する総量を、設計段階で見積もるというものです。

設計一次エネルギー消費量は、建築研究所で提供しているオンラインのサービスを用いて算出します。具体的には、冷暖房、給湯、家電、換気、照明に関するその家の仕様を、用意されている選択肢から選んでいくと、使用量の計算はソフトの方でやってくれます。

設計一次エネルギー消費量は、特に冷暖房に関しては、外皮性能と連動する計算になるので、気候風土版というものがあり、通常版よりも基準一次エネルギー使用量の設定がややゆるめになっています。

7.
「ずっと残したい」と思われるような
魅力ある家づくりを!

平成の古民家を作る

大工2 俺、思うんだけどさ。気候風土適応住宅っていうのは、早い話が、時代が変わっても残る価値のある住宅ってことなんじゃないかって思うんだよ。あと100年経った時に『平成の古民家』って言われるような、ね。

大工1 兄貴、『平成の古民家』ってフレーズ、好きだよね〜 レジェンドってさあ、後の時代の人が決めることだろ?

大工2 おうよ。けどさ、考えてみよろ。今「古民家」って言われてる家だって、建った時代には新築だったんだろ? だから、今、俺らが建ててる家が、俺らの子孫が「これは残す価値のある家だよね」って思ってくれれば、将来「あれは平成に建った古民家」って言われるようになるさ。

大工1 物理的に残るかどうか以前に、後の人が「残したい」って思ってくるかどうか、だよね。美しい家でなきゃ、いくら性能がよくたって、残らないだろうな。

大工2 時間が経てば経つほど味わいを増して、時代が変わっても風景になじんでるような古民家なんか「これつぶしちゃうの、もったいないな・・・」って、思うよね。お前が作ってる家も、そうなってくかもしれないんだぞ!

大工1 かもじゃねえよ。そうなるだけのものを考えて、作ってるよ!そうでなきゃ、大きなお金を使って俺に賭けてくれてる施主さんにも、山で長い時間育って来た木にも、申し訳ないだろ!!

大工2 ・・お前に頼む家づくりは「賭け」なのかよ!!

大工1 まあな、賭けてみなよ、俺に。人生、変わるよ〜

ポイントは飽きのこない意匠、可変性、
長寿命を裏付ける維持管理のしやすさ

将来の景観に寄与する美しさをもち、環境負荷も少なく工夫された家であれば、時代を越えて残っていく可能性が高くなります。時代を越えるということは、住まい手が変わっていくことが前提です。あまりにも個性的な、時代性の強いデザインの家だと、維持されていくことがむずかしくなりかねません。意匠面でも「百年後にも住みたいと思われる家となりえるか」を考えることが大切です。

また、古民家に住んでいる人でさえ、江戸時代のままの状態で暮らしているわけではなく、現代の生活に合わせて住みやすくする改修を行っているはず。人々のライフスタイルの変化や設備関係の進化などに伴って、あとからの間取り変更や設備の改修がしやすい構造であることも重要です。木造軸組工法は、その点では、有利といえるでしょう。

改修とまでいかなくても、日常のメンテナンスがしやすいことも、将来の景観となるぐらい長寿命の家には必須の要素です。伝統木造のつくり手には、大壁にして断熱材を入れることについて懐疑的な人も少なくないのですが「中のつくりが見えない」ということが、維持管理のしにくさにつながるのではないかと危惧しているのです。

伝統木造住宅も、新しい家づくりも
多様な家づくりを認め合おう

このような景観にも配慮し、気候風土に合った環境性能をもった家づくりは、伝統木造だけとは限りません。サスティナブルな技術や意匠を取り入れながら、外皮性能はしっかりと満たしつつ、将来に残していくべき価値のある新しい住まいも生まれています。

左:新居建築研究所の仲南町の家、中央・右:大角雄三設計室の大山の家 (写真は共に、それぞれのWebサイトより)

「気候風土適応住宅」は、外皮性能を満たせない伝統木造住宅の受け皿になりますが、「気候風土適応住宅」だけが気候風土にふさわしい住まいであるわけではありません。外皮性能を満たしつつ、気候風土に合った家づくりもあるのです。

景観、環境、意匠、長寿命性といった、価値のある家づくりが、外皮性能を満たす作り方も、満たせない作り方も併存できる多様性が大事ですね。

8.
地元の建築士会とつながって、
まずは話をしたり、勉強会をしたり
官民恊働で動いていきましょう

「気候風土適応住宅」の認定基準は
各都道府県でつくる

大工2 気候風土っていうからには当然、地域性があるからね。認定基準を、各都道府県で決めることになったんだ。

大工1 そりゃあ、そうだ。青森と新潟と高知と沖縄じゃあ、大違いだからな。

大工2 「気候風土適応住宅」を各都道府県で作るんだけど、その内容について分かってるのは…

大工1 みなまで言うな!俺たちつくり手だってことだろ!そりゃそうさ〜〜

大工2 だから、俺たち実務者が、各都道府県の地方行政の、確認申請をおろす担当部署に掛け合って「うちの県では、こういうのが気候風土適応住宅といえる」ということを伝えてくのが一番なんだ。

大工1 なるほどね。国にパブコメ書いてた時をくらべると、先が見えてる感じで、嬉しいな!

大工2 地方行政にかけあっていくっていっても、バラバラに個々人ではたらきかけても、効果は期待できない。建築設計にかかわる実務者の団体として、各都道府県の建築士会があるよね。そこが行政とわたりあっていく窓口になっていくよ。

大工1 俺は建築士資格は二級をもってるけど、入ってないな。ときどき一緒に仕事してる設計士が入ってたっけな。

大工2 まずはこのちらし使ってさ。その人と話すことから始めてみてよ!

地方行政にはたらきかけて
認定基準を作ってもらいましょう

気候風土は、地域によって違うので、実際の「気候風土適応住宅」の認定基準は、国のガイドラインを元に、全国の都道府県ごとに議論して決めることになります。

「気候風土適応住宅」認定のしくみを作るかどうかも、地方行政に任されているので、そのようなしくみが欲しい!と思うなら、実務者から都道府県にはたらきかけて「作ってもらう」アクションをとることが必要です。なにもしなければ、せっかく「作っていい」と言われているものが「できない」ことになってしまいます。

県の確認申請を受理する担当課に出向いて「この地域の気候風土適応住宅」を認定するしくみを作ってほしいと、要望しましょう。いっしょに要望をしていける仲間をつくりましょう。

各都道府県での認定基準づくりは、
建築士会が窓口となると動きやすい

地方行政にはたらきかけるといっても、どうはたらきかけていいか、よく分からないですよね。

「気候風土適応住宅」というしくみができるまでの経緯で、大きく動いて来たのが、建築士会連合会です。建築士会は、各都道府県にあり、設計者が都道府県とコミュニケーションをとる上では、既存の組織として、地方行政から見ても、アクセスのしやすい存在です。

建築士会連合会とは、この各都道府県の建築士会を取りまとめる立場にある組織で、「気候風土適応住宅」の認定基準策定に向けて、実務者と行政との連携がうまくいくよう、地方行政担当者と国交省の間をつないだり、全国でこのことで動いている実務者同士が連絡をとりあえる場をもうけるといったサポートをしています。

建築の自由度、多様性を
守りたいという想い

大工2 建築士会やJIAの人たちで実際に伝統木造の家づくりをしている人は、実際には多くはない。それでも、日本の木の家の文化をこの世代で途絶えさせてはいけない、という意識は持ってくれている。

大工1 職人がつくる木の家ネットは、建築士会とは直接の関係があるわけではないけど、これまでパブコメを出す時にも情報交換をしたり、温熱環境調査への伝統木造の事例提供をしたり、協力関係にあるよね。

大工2 建築士会としては、伝統木造に限らず、建築の自由度とか多様性とかが認められるべきっていう思いがあるんだろうと思うよ。

大工1 耐震とか省エネとかコストパフォーマンスとか、いろいろお得とか性能とかで追い込んでくと、言っちゃ悪いけど、性能抜群でも真四角でつまんないハコみたいな家になりがち。それじゃあ、建築士って、何のためにいるの?ってことになっちゃうもんな。

大工2 その家が建つのが九州であっても北海道であっても、外の自然環境がどうであれ、ハコの中はおんなじような環境を提供する。そんな性能ありきの家を工場で量産したパーツを組み立てて作っているから、全国おんなじ町並みになっちゃうわけだよな。それじゃあ、つまんないよね、っていう思いは、設計をなりわいとしている建築士も俺らも同じさ。

大工1 この場所に、この家族が住むための家を、一棟ずつ作ってるというありかたは、同じだもんな。地元で建築士会の連中と話をしながら、県の窓口とかけあってけばいいんだな!

大工2 そういうこと。あとね。全国でも活発に動いているところをみると、まずは「勉強会」から入ってるところが多いね。

勉強会形式がお勧め

地方行政に気候風土適応住宅の認定基準策定をお願いする、といっても、いきなり「申し入れ」をするよりは、ゆるやかな方法として、勉強会形式がお勧めです。地方行政の審査担当者としても「省エネ義務化?かと思えばこんどは、気候風土適応住宅??」と、理解以前に戸惑いを感じている現状もあるようですから、ともに理解しあいながら、ゆるやかに進めていくのがいいように思います。

以前にお伝えしましたが、4月には川越の喜多院会館で木の家ネット・埼玉のメンバーによる「気候風土適応住宅勉強会」が開かれました。出席者の大半は埼玉県内外の実務者でしたが、中には、特定行政庁の担当官も参加していました。その後、担当官とのやりとりがスムーズになっただけでなく、参加した実務者の多さから、ニーズの高さや熱意も伝わったようです。

11/4には、山梨県北杜市でも別の勉強会が開かれます。第一部では「八ヶ岳らしい家を、省エネ計算を取り入れて設計する」と題して岐阜県立森林アカデミーの辻充孝先生が、第二部では「気候風土適応住宅とは?」と題して東京建築士会環境部会気候風土WGの高橋昌巳さんが講演をします。伝統木造に限らず、地域で一棟ずつ八ヶ岳の地の気候風土と住む人のライフスタイルに合った家づくりに取り組むつくり手が共に学んでいるのがこの地域の特徴です。

「山梨の気候風土景観住宅を考える会」が主催する勉強会のちらし

こうした勉強会に、行政関係者にも来てもらったり、勉強会を通してそこの「地域らしさ」を考え、まとめたことを報告しにいったりというところから、官民合同でその土地特有の気候風土適応住宅認定基準を作ることができるといいですね。

熊本県や愛知県では、実務者と行政担当者との会議を数回重ねるところまで状況が進んでいるようです。このような先駆的な地域での進行状況を地元の行政に伝えていくことも、コミュニケーションを進めていくことを加速することにつながります。

9.
「気候風土適応住宅」を含めた
暮らしやすさ、美しさ、環境性能を
備えた著寿命の家造りを推進しよう!

「気候風土適応住宅」の
マークをつくろう!

大工1 今日はさ、いい話がいっぱい聞けて嬉しかったよ。こういう家づくりがあるってことを、そもそも知らない一般の人も多いしさ。まずはそこからだよな。

大工2 このちらし、バンバン使ってよ!話のきっかけつくって「こういう家づくもできるのね」って思ってもらうことが、最初の一歩だよ。

大工1 だよね。住宅展示場もないし、テレビコマーシャルひとつ、打ってないんだからな。だから、メーカー住宅に持ってかれちゃうんだよな。

大工2 そこは工夫が必要だよね。なんかいいアイデアないかな…

大工1 そうだ。この木の家ネットの特集でも持留さんが急ごしらえではあるけど、マークつくってくれたじゃない?

大工2 ああ。お日様の光が射し込んでたり、風が抜けたりしてるような絵ね。

大工1 あの越屋根はご本人の家のパクリだよな…

大工2 そこかよ!けど、あのマークね、俺もいいと思ってるよ。厳しい自然を遮断するシェルターみたいな家っていうんでなく、自然に対して家を開いたり閉じたりすることで陽射しや風を取り込んで暮らす家っていうイメージあるしな。もっとみんなで揉んで、いいマークを考えるっていうのもアリだね。

大工1 たとえばさ、気候風土適応住宅に認定されると、あのマークがつく!っていうようなのがあると、高気密高断熱のBELSの★★★とかと対抗できるよね。

大工2 ま、対抗する必要もないけどさ。選ぶ方からすると分かりやすくはなるよね。

「気候風土適応住宅」より
もうひとつ広い視野でのくくりを

大工2 けどさ。「気候風土適応住宅」っていうのは、あの例の伝統的な要素がで作っていて、外皮性能を満たせない家を指すわけだけどさ。実際には、外皮性能満たすけど、ちゃんと気候風土のこと考えて、材料とかも自然材料とか地域材にこだわって、エネルギー消費の少ない家づくりって、あるわけじゃない?

大工1 ああ、そうか。外皮性能が適用除外となる「気候風土適応住宅」だけをフィーチャーしちゃうと、そういう家づくりと別のものに見えちゃうよな。

大工2 だからさ。ひろい意味で「気候風土に配慮して、景観にマッチするような、環境性能のいい、暮らし文化を継承する家づくり」というあたりを、くくれる概念があるといいんだよな!

大工1 わかる、わかる!「断熱材入れればいいのに」とか「断熱材入れるからだめだ」みたいな、ちっちゃな話にとどめないでね。

大工2 そこで大事になってくるのが「この場所でこの家族のために作る」っていう一棟づくりという生産体制だと思うんだよね。しかもそれが、その時のその家族にとどまらず、将来その家に住むかもしれない人のことも考えている。あるいは、エネルギーのことにしても、この豊かな日本のことだけでなく、大変な暮らしをしている世界中の人々とのバランスも意識する。とかね。

大工1 話、大きくなってきたな。俺、そういうの、好きだよ!「自分ひとりが幸せになるだけでは、世界の幸せはありえない」とか「七世代あとのことも考えて今の行動を決める」とか「地域社会で行動することが、地球規模のことを考えることにつながる」とか・・そういう感じ、ね!!

大工2 そんなことをさ「気候風土適応住宅」というしくみをサカナに、あれころ話したりできれば、すっごくいいと思うんだよね!

大工1 分かった!まずは、今のお施主さんや、契約まだだけど、打合せに来てる施主候補さんに、ちらし見せながら話してみるよ。あとは、地元の同級生の設計士にも。

大工2 ああ。そうやってみんなが動くと、世の中、少しずつ変わってくんじゃないかと思うよ。

大工1 いつものごとく、まとまんない話だけど…

大工2 まとまんないまんまの大風呂敷、広げっぱなしで、今日の話はおしまい!

総合的な環境性能と
地域性豊かな暮らし方の実現

「気候風土適応住宅」は、自然と共生するライフスタイル、長寿命性、製造・廃棄時エネルギーの小ささなど、光熱費のみに注目する狭義の省エネよりも幅広い視点で見た時に、資源循環型の持続可能な社会を積極的につくりだす、すぐれた環境性能をもってます。

また、その地域の気候風土に根ざして作られており、全国どこにいっても同じ造りの規格型住宅と比べて、地域の独自性や文化を体現するものでもあります。

気候風土適応住宅の性質が、どのように環境性能の優位性としてとらえられるか、いくつかの観点でひとつひとつ、みていきましょう。

[ 地域材の利用 ]
住んでいる地域の上流の木材を使うことで、山に還元される結果、山は健全に維持され、鉄砲水や山崩れのリスクが減ります。
[ ライフスタイル ]
「開放型」の住まいでは、四季の移り変わりを肌で感じることができます。大きくあいた窓から向かいの山を愛で、庭先の家庭菜園で育てた野菜を土間に取り込んだりといった、自然と親しむ暮らしは、自然環境との共生の感覚を育みます。

また、人とつながりにおいても、わざわざ玄関から呼び鈴を押して室内に招き入れられるというほどでなく「野菜ができたから」と持って来る人に縁側や玄関土間で一休みしてもらう、近くの子どもが家にあがらず、そのまま濡れ縁やウッドデッキで遊んでいくなどといった、半屋内半野外の緩衝地帯があることで気軽にコミュニケーションができ、人との交わりを豊かにします。
[ 長寿命 ]
「無垢材を使い、金物を使わない木造軸組の構造体は樹齢以上の耐久性をもつ」などとよく言われています。適切な維持管理がなされれば、100年以上住み継がれる古民家ともなり得ます。構造材の状態が点検できる、木組をあらわした作りは、維持管理のしやすさにつながります。

また、軸組構造であることから間取りの可変性が高く、生活スタイルの変化に追随しやすいので、世代を越えて住めるという寛容性があります。20〜30年で建て替えられることが多い量産型の住宅と比べて、うんと省エネです。
[ 自然素材 ]
無垢材、土壁、竹、和紙、など、自然素材での家づくりは、製造や廃棄のエネルギーが少なくて済みます。

木の繊維や羊毛など、自然素材の断熱材は、外皮性能においてはグラスウールやスタイロフォーム、ネオマフォームなど、石油化学製品の断熱材ほど高い数値は出ません。

しかし、水分や空気が出入りできる透湿性や吸湿性があり、さらりとした空気で自然で心地よい室内環境をつくりだす結果、機械空調に頼ることが少なくてすみます。
[ 薪ストーブ利用 ]
太陽光発電が省エネの代表選手のように言われますが、間伐材などを積極的に薪として利用することも、化石燃料や電気によらず暖をとるので、省エネです。

間伐材をそのまま森に放置しておくよりもCO2削減にも寄与すると言われています。薪ストーブがもたらす温感は輻射熱によるため、エアコンなどの空気暖房であたたかいと感じる室温よりも2〜3度低い温度で満足を得られることも知られています。

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