2/8 京都大学生存圏研究所での北守顕久先生の講義
2/8(木)の午前に、京都大学生存圏研究所 北守顕久先生に、伝統木造の柱・梁フレームや仕口の「壊れ方」について、豊富な実験や解析の経験をもとに、ご講演いただきました。Facebookでの非公開での呼びかけで周知された講演にもかかわらず、全国から多くの大工、設計者、材木関係者、学生などが80人以上も詰めかけ、講演会場を予定していたよりも大きなホールに急遽変更しなければならなくなるほどでした。
北守顕久先生は2015年に「木造伝統構法の理論化に向けた構造要素の解析で、林材関係の優れた研究に与えられる大熊賞を受賞、2016年「雇い竿車知栓留め柱-梁接合部の引張性能評価式の提案」日本建築学会奨励賞を受賞。これからの木造伝統構法を科学的に解析する動きの最先端を担っていく新進気
鋭の研究者です。
今回の講演を北守先生に依頼したのは、宮内建築の宮内棟梁。常日頃、先生の研究の試験体のディテールについて実務者として助言をしたり、試験体を製作したりしている関係で「仲間に聞いてもらいたい」と、宮内さんからお願いした次第。
講演前、集まった大工たちに「強く作りすぎたら、あかん!大工はどうしても胴付きよくぴったりと作りたいもんや。けど、強く作りすぎると、それが柱を折って、倒壊に至ることもある。強さと変形性能とのバランスを考えなあかん」と熱心に語る宮内さんの姿、カッコよかったです!
断片的になりますが、講義やその前後の話の中から、印象に残ったフレーズをいくつか。
伝統木構造は、コンクリートや鉄骨と比べればやわらかい材料で作ること、柱よりも太い梁を横に差したり架けたりすることなど、イレギュラーで難しい課題をはらんでいる。
日本で建てるので、地震を想定しなくてはなりません。昔は「また建てればいいさ」という諦念もあったかもしれませんが、人命や財産の尊重という点から、今ではそういうわけにはいかない。
「ごくまれ地震」までは土壁の耐力でかたく耐えつつ、「想定を超える大地震」には、土を落とし、貫や仕口がめり込み合い、摩擦することで変形性能を発揮しながら、層間変位角1/15くらいまでは倒壊することなく持ちこたえなくてはならない。
「強さとしなやかさを兼ね備える」という、相反する要素をどのようにバランスさせるのか、柱と梁の寸法バランス、木同士を組む仕口の選定など、大工には多くの判断と工夫が求められます。
などなど・・。会場からは大工たちからの質問が飛び、それに生き生きと答える先生の姿が大学の研究者と実務者とのこれからのあり方を示唆しているようで、印象的でした。
講義では、実際に加力試験をしてみると「どのように壊れるのか」これまでに先生が関わってきた実験結果のグラフや写真を見せていただきました。次の写真は、柱と梁をつなぐのに「雇い」入れ「車知栓」で止めるケース。
この写真では、車知が破断しつつも、破断したピースの摩擦で、柱と梁とをつなぐ雇いの抜けを防いでいる様子がわかります。襟輪の深さがもう少し欲しいところ、かもしれません。どのようにして車知栓が潰れるのか「襟輪」の位置や深さの寸法が、それにどう関係するのか・・・大工たちには、写真をみるだけで「ああ、こうなるのか!」と腑に落ちることがたくさんあったことでしょう。
講演の後は、加力試験をする研究所内の施設見学もさせていただきました。
Eディフェンスでの、伝統構法の性能を検証する実大震動台実験から7年。
http://green-arch.or.jp/dentoh/experiment_edefense_2012.html
損傷観察要員として「どう壊れていくのか」を見た大工たちは「どうつくってはいけないか」「どう造れば良いか」を突きつけられました。
途絶えていた石場建てを新築で施工する事例も増えて行きている中で「強さと変形性能とのバランスが悪く、危険な事例も見受けられる」と宮内さんは言います。「また実大実験せな、あかんな」と。
昔は「地震でどう壊れるか」を、観察、検証、解析することはできませんでした。今はそれを、実大震動台実験、加力試験、要素試験などで科学的に検証できる時代です。
より安全性の高い設計とは?施工とは? これまでやってきたこと、親方から習ったことを無条件に鵜呑みにするのでなく「これで本当にいいのか?」と自問自答することが、次の工夫をうむのでしょう。
そのような姿勢で当たることで、常により良く変革しながら、伝統木造が未来へつながっていくことを願います。
最後に、生存圏研究所で目にした面白いものをご紹介しましょう。木の自転車です!なんでも木で作ってみよう!ということなのかな・・。プラスチックや金属が、木で置き換わっていったら・・日本の山にとってはいい話ですし、温かみがあって、素敵ですね。