独立電源=オフグリッドの家
住んでみて、どうですか?
自分のところで使う電気を 「まかなえている」暮らしぶり

独立電源の家での暮らしも2回めの夏を迎えますね。
実際に住んでみて、どうですか?
黒田さん 生活の便利さという点では、まったく問題ないです。夏の昼間、ずっとエアコンをつけていても大丈夫ですよ。
薪ストーブは熱量の小さめのものを採用したためか、部屋全体があたたまるというほとではないので、寒い日は石油ストーブと併用、朝一番や留守にして帰って来た時は点火の早いガスストーブを短時間ですが、補助的に使っています。ただし二階は、一日中薪ストーブを焚いていると、部屋の隅っこでもあったかいです。
それに何より、火にあたるというのはいいですよ。焚き火が一番の趣味である僕にとって、薪ストーブは癒やしの極みです。

黒田さん 住んでみて確実に変わったのは、電気に対する意識。「これは、我が家で太陽光で発電している、原発とは無縁の電気だ」というのは、気持ちのいいものです。
住み始めた当時、バッテリーの電圧計の数字を、よくチェックしてました。晴れの日の日中は13.53Vあるのが、日が沈んで無発電状態になると12.96Vにまで下がるな、とかね。

黒田さん 夜、減った分も、翌朝、太陽が照り始めると、ちゃんと補充されて、満充電になっていくのは、しみじみと嬉しいものです。
そういった上がり下がりをリアルに実感する中で、自然と、掃除や洗濯は日のあるうちにやっておこうとか、生活面での工夫も出てきました。ケチケチ切り詰めて節電する、っていうほどのことでもなくね。
どのくらいの設備で、電気をまかなえているのですか?
黒田さん 使える電気容量は、パネルの枚数と、それを蓄電するバッテリーの数で決まります。どんな機器の組み合わせで、どれだけの電力を自給するのか、そのシステムは、日本にもう25年住んでいるドイツ人、エコライフラボのオスカー・バルテンシュタインさんに組んでもらいました。

黒田さん バッテリー、インバーター、配線など、すべてが普通の家づくりではやらないことなので、どこに何を設置して、ケーブルをどう床下に這い回すかなど、ひとつひとつが「1から考えること」となります。
その点では、池山さんや、もう独立されましたが、当時、一峯建築に居て棟梁をつとめてくれた丹羽怜之さんが、バルテンシュタインさんとの打合せを重ねながら、丁寧に考え、おさまるように施工してくれたことに、心から感謝しています。

自分たちの生活に合わせて、システムを決めた
どのようにして、黒田家の電力自給システムを作っていったのですか?
黒田さん まず、普段の生活で電気を使うものを、すべて列挙するように言われました。24時間使うもの、一日何分間かでも毎日使うもの、季節によって使ったり使わなかったりするもの、たまにしか使わないもの。いろいろありますよね?
常時電気を使うものとしては、合併浄化槽のブロアモーターと冷蔵庫。日々、一定の時間使うのは、洗濯機、掃除機、ガス給湯機。パソコンや携帯電話の充電も使う。お風呂上がりにはドライヤーも。テレビは、たまにDVDを再生するくらい。冬はガスファンヒーター、夏はエアコンも使うな。電子レンジは使わない・・
そんな具合にリストアップして、それぞれの規格電力と使用時間をかけ算して合算するエクセルのシートに入れていったんです。

生活の総ざらいですね!
黒田さん そうやって積算した総電力使用量を、雨や曇りの日があっても蓄電量が下回らないように余裕を見ながら、バルテンシュタインさんが、うちに合ったシステムの設計をしてくれました。
発電量に合わせて生活を切り詰めて、ガマンして暮らすのではないんです。自分たちで設定した生活レベルに合わせて、それが自給できるシステムを設計したのです。それが今の無理のない暮らしにつながっています。
といっても、リストアップして決める、というだけでも、無駄にダラダラ使うのではなく、使う電気の総量を小さくすることに確実につながっていると思いますよ。
「掃除はほうきしか使いません!煮炊きは薪!」とまで切り詰めていったら、我が家でも続かないし、まわりにも「へえ、すごいね〜、とても私にはできないなぁ・・」と引かれてしまって普及しないですよね。無理なく、無駄なく、実現できてこそ、僕らの生活がまわりに発するメッセージになり得ると思うんです。

黒田家の暮らしは、どのくらいの設備でまかなえているのですか?
黒田さん 屋根には、1100mm × 1300mmの大きさの、一枚あたり120Wの発電能力の太陽光パネルが24枚載っていますから、全体の発電能力としては体で2.88kwp(ワットピーク)となります。ここから、いったんチャージコントローラーという機械を通して電圧を制御しつつ、バッテリーに充電します。
使用するバッテリーは、直流12Vの照明器具を使うのと、メンテナンス時の入手しやすさを考え、容量が2000Ahの12Vの鉛バッテリーで組みました。
バッテリー満充電時での電圧が12.96Vで、よく晴れた日の日中には、このバッテリー電圧の上に、さらにその瞬間に発電されている電気が上乗せされて、13.5V以上になることも珍しくありません。
曇りの日が続いたり、電気を使い過ぎたりして、この電圧が11.8Vを切らないようにしています。11.8Vを切るようなことがあると、バッテリーの寿命が短くなるので、大きな電力を要する家電の使用は控えるようにバルテンシュタインさんからアドバイスを受けているのです。が、実際には、日中にクーラーを使っていた夏の日の夜でも12.7Vまでしか落ちたことはないので、システムとしては余裕があることがわかりました。
メンテナンスのことも考えて、バッテリーの置き場は、家の中心の床下に作りました。

黒田さん バッテリーから取り出すことのできる電気は直流です。12Vの直流電源を使うLED照明以外は、すべて100Vの交流電源が必要なので、インバーターにかませて交流に変換した上で、家中の普通のコンセントに流すようになっています。

黒田さん インバーターからは電磁波が結構発生するので、健康面を考え、生活空間より一段下がった、人が滞留しない、風呂場への通り道の脇に設置しました。
初期投資とランニングコストはどれくらいかかるのでしょうか?
黒田さん 最初の機器を揃えるのとセッティングをするのに全体で230万ほどかかりました。その後は、ランニングコストとして、およそ8年と言われているバッテリー寿命ごとに交換の費用がかかります。太陽光パネルの寿命は、バッテリーよりもうんと長くて20〜30年かな。
一生を通じて払う電気代と、電力自給システムを構築するための初期投資やランニングコストとを天秤にかけると、収支はトントンといったところでしょうか。今後のバッテリーやパネルの技術革新や、電力会社の値上げを考えれば、おそらく、割安になっていくのではないかと思います。

「電気は自給したほうが断然安い」というほどでなくても、採用する意味がある!と僕が思うのは、災害時に家族を守れるという点です。地震などの災害で電力会社からの電気が停止しても、わが家は電気に困ることはない。これは大きなメリットですよね?「家族を守る」ためには、有効な投資だと思いますよ。
これから家づくりをするのに、太陽光発電を考えている人もいると思いますが、せっかくだったら電力会社に売買電するのでなく、自分のところで作った電気を自分で使う「電力自給」も選択肢に入れて、考えてもらえたら!と願っています。
最後に池山さん、黒田邸を手がけて、どうでしたか?

太陽光パネルとバッテリーでの電力自給は、現段階では、パネルやバッテリーの寿命が来ると有害な廃棄物になるとか、まだ問題点はいろいろとあると思います。「オフグリッド」は、まだ最適解が定まらない過渡期の状態です。けど、東日本大震災と原発事故が起きた時に「中部電力につながない家をつくりたい」と思った黒田さんの気持ちを、その時点で、黒田さんの家族に合った形でかなえる方法として、この家づくりは「あり」だったと思いますね。
今回の「結い」の作業がより深まっていった結果として「地域での電力自給」が、これから生まれるかもしれない。そうなったら面白いですよね。黒田さんの家は、家族だけでなくいろいろな人が集まれる場所にもなってますからね。この場から何が生まれるのか、楽しみにしています。

オフグリッドで自立への一歩を!
電力会社につながない「オフグリッド」でも、十分、快適な生活ができることを、みなさんにお伝えしたいです。何しろ、うちの家族にも出来ているんですから!
巨大なインフラに頼らなくても生活を守れることこそが、本当の「危機管理」ではないでしょうか。他人に守ってもらうのでなく、自立に向けて、一歩を踏み出しませんか?
これから家づくりをする方に「私もやれるかも?」「やってみたいな」と思ってもらえれば。そして、オフグリッドの家が2軒、3軒と増えていったら、嬉しいです。
次号では、この黒田さんの電力自給の家を作った一峯建築の池山琢馬さんの「名言集」をお届けします。