第13期より木の家ネット代表に就任した大江忍さん
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第13期木の家ネット総会 奈良大会


11月2日(初日)
美榛苑での分科会

分科会でのアンケート

ほかの団体の総会ではあり得ないことだと思いますが、木の家ネットの総会では、宴会で浮かれた後に「分科会」というマジメに勉強したり意見交換したりする時間が、就寝直前まで続きます。今年は、全体が4つのグループに分かれ、事務局から配られるアンケートへの回答をもとにしてのフリートーク企画。ということで、ほろ酔い気分のひとりひとりに、アンケートが配られ、しばし記入のための時間となりました。

Q材木調達について。国産材、それもできれば地域材を使うことに留意された家づくりをされていると思いますが、それをどの程度、どのように実現しているかについて、教えてください。

材木の調達はどのようにしていますか? (材木商から購入/製材所から/原木を買っておいて、製材所に持ち込むなどなど・・)

樹種は何を使うことが多いですか?部位による違いがあれば、それも教えてください。

国産材や地域材を使うことについてどのように実践していますか?

ここの地域の材を使っている、ということがある程度決まっている方はどこのものを使っているか、と、あなたとのその地域的とのつながりを教えてください。

家づくりチームの中で、どこの材を使うかというイニシアチブは、誰が(工務店・設計士・施主)とりますか?

材木関係のみなさんへ:どういう立場の人からの注文が多いですか? 伝統的な工法の受注は数量や金額で何割ぐらいありますか? 施工者や施主に伝えたいことなど

Q普段、実践している家づくりの温熱環境についてお伺いします

もっとも悩ましいと感じていることを教えてください。

夏はどの程度のしのぎ具合をめざしていますか? そのために工夫していることは何ですか?

冬はどの程度のしのぎ具合をめざしていますか? そのために工夫していることは何ですか?

よく使う断熱材の種類

土壁の仕事の割合と、土壁にした場合の下地〜仕上げを教えてください

Q東日本大震災 被災地の状況について、マイケルの話を聴いた感想をお聞かせください

  

会場から携帯でつないで
マイケルからの石巻報告

分科会の前は、総会直前に体調を崩して今回参加できなかった、石巻に居るマイケルこと杉原敬さんからのメッセージタイム。総会会場と石巻とを携帯電話でつなぎ、携帯の向こうから聞こえてくるマイケルの話にみんなが耳を傾けました。

携帯で石巻と通話。マイケルの聞き役は、マイケルが大好きな兄貴分の宮内寿和さん。池山さんが、携帯を鼻笛バンド演奏で使ったアンプにつないで、みんなに聴こえやすくしてくれました。

埼玉県飯能市で大工をしてきたマイケルは、東日本大震災以降、木の家づくりを通して復興に関わることを自分のテーマとしてきていて、今では石巻で大工として仕事をしています。これまでのコンテンツでも何回か取り上げてきましたが、ざっとおさらいしてみましょう。

モデル仮設住宅として作った
手刻み無垢材の9坪ハウス

まず、震災直後の2013年6月、マイケルは「手刻みの無垢の木の仮設住宅」を提案するために、どこからの依頼もない状態で、自分の作業場に、同じ木の家ネットの仲間の浜中材木店から木材を提供してもらって、9坪のモデルハウスを施工。その後、地元の防災関係のイベントでの展示、飯能市への地元西川材による仮設住宅をストックする提案などをしてきました。

もっと直接的に被災地の役に立つことにつなげたい!というマイケルの想いが具体的な形になっていったのは、彼が2013年10月に石巻で行われた総会に参加した時。自宅も津波に流されるという大変な状況の中で総会を主宰した石巻地元のササキ設計の佐々木文彦さんと知り合ってからのことです。

マイケルこと杉原敬と、飯能の作業場に試作をした9坪ハウス

「We Are One Market」の
子どもハウスに復興モデル住宅を活用

2014年2月、佐々木さんは、津波で壊滅的な被害を受けた白浜地区の住民だった佐藤さんという女性から、仮設住宅がたくさん建つ「にっこりサンパーク」の入り口に、日用品の買い物、学校帰りの子ども達が寄っていける居場所、地域の集会所を兼ねた「We Are One Market」を建設したい!という相談を持ちかけられました。

その計画に対して「自分が作った9坪ハウスを使ってもらえないか」とマイケルが提案。アメリカの Architecure for Humanity からの助成を受けて建設が始まると、マイケルはWe Are One Marketの木工事を担当し、特に子ども達が放課後の時間を過ごす「子どもハウス」を手刻み無垢材で施工することに力を注ぎました。このプロジェクトのために木の家ネットのメンバー有志からも、労力や寄付が寄せられ、2013年2月に竣工、今では地域の子ども達に使われています。詳しくは北上ふるさとプロジェクトのWebサイトをご覧ください。

We Are One Market 外観。中央の木壁部分が子どもハウス

他所者として
石巻の復興に関わる

「We Are One Market」完成後もマイケルは、引き続き、津波で流されてしまったササキ設計の新社屋や住宅建設などに携わりながら石巻に残り、以来、ほかのいくつかの復興現場に関わっています。「他所者として復興にどっぷり関わる」という立場から見た被災地の現状を総会で語りたいと望んでいながら、来られなくなってしまったマイケルの話をみんなで聞こう!ということで、携帯から聴こえてくるマイケルの話に耳を傾けました。

二年半経っても、まだ高台移転が実現していない集落も多く、仮設住宅に住み続ける世帯がたくさんあります。建築工事の需要は多くあるものの、慢性的な人材不足、資材不足で復興は進まず、補助金制度を活用するために「着工したものの、竣工までは至らず、野ざらし」の現場もあるとか。現地に居なければ知り得ない、深刻な状況があることが分かりました。

マイケルから寄せられた2013年11月現在の十三浜の写真 左/津波で家が流された浜辺には、家は新築できない。漁業用の施設が少しずつ再建されつつある 右/わずかに残っているのは家だったところの基礎部分のみ

木の家ネットとしても、東京オリンピックモードで被災地への関心が薄れていきがちな世相に対して、何ができるか以前に、せめて「被災地を忘れない」ということにはこだわりたいと思います。石巻で踏ん張っているマイケルが、木の家ネットと被災地とのかけ橋となってくれているので、今後もコンテンツでの情報発信を通して、被災地と具体的につながっていけたらと思います。

その後、アンケートへの回答をもとに、各グループでの意見交換が行われました。時間が足りなくてすべてのテーマについては話し合えませんでしたが、改正省エネ法がどうなっていくかという懸念と関心の高さからか、木の家の温熱環境についての話がもりあがったグループが多かったようです。

11月3日(2日め) 木の家ネット第13期総会

明けて二日目の朝8時半から、これまでの一年をふりかえり、これからを考える第13期木の家ネット総会が行われました。早くから始まる総会に間に合うよう、前の晩遅くに到着した東京の高橋昌己さん、当日の朝駆けつけた兵庫の米谷良章さん、岡山の和田洋子さん、新潟の長谷川順一さん、ありがとうございました。吉野の山への遠足への出発が10時に迫っているため、駆け足の進行となりましたが、充実した内容の話し合いができたと思います。

まず、会計担当の衣袋和子さんから、恒例の会計報告。新旧の運営委員の交代とともに、会計も新しい方に引き継ぐことになったので、創立当時から木の家ネットの財布を預かって来た衣袋さんにとっては、最後の報告となり、会場からはお礼の気持ちを込めての拍手があがりました。衣袋さんは一級建築士として蔵の改修などの設計監理などに携わっていますので、今後はつくり手会員として、末永くよろしくお願いいたします。

放っておけば、勝手にできてしまう改正省エネ法 だったら、何とかした方がいい!

前夜の各グループでの話し合いの報告があったあと、高橋昌己さんから、改正省エネ法に向けての裏話がありました。高橋さんは、木の家ネットの中にできた温熱環境チームを牽引し、木の家ネット内での温熱環境調査を実施する一方で、伝統的な木の家づくりの温熱環境の位置づけを決めるためにJIAや国土交通省で行っている調査にも深く携わっています。これまでの温熱チームの調査の成果については木の家ネット温熱調査 中間報告としてまとめていますのでご覧ください。

高橋さんからの話で印象的だったのは「伝統型の木の家の温熱環境についても、なんらかの基準ができていくであろう。いったん決まってからそれを覆すのは容易ではない。それなら、基準ができていく時期に、つくり手側から積極的に提案していくことが大事」という発言です。伝統型の木の家の基準が決まっていくプロセスに関わりながら、まともな家づくりが束縛を受けるような不幸なことになっていかない流れを、自ら積極的に作っていく方が、実りは多いでしょう。通常の業務をこなしながら関わって行くのは大変なことですが、木の家ネットという人的な資源をうまく活用しながら、良い形で必要なことを提言していけたらと思います。

シティ環境設計の高橋昌己さん

「木の家ネット温熱環境設計コンペ」で
難ありの冬をどう乗り切るか?のアイデアを出し合う

そしてもうひとつ木の家ネット温熱環境チームより「木の家ネット温熱環境設計コンペ」開催について、簡単に説明がありました。木の家の温熱環境は「夏は優等生、冬は難あり」ということが分かっています。「難あり」の冬に対して、どう構えをしていけばいいのかが問題になるわけですが、ここがつくり手によって、意見に幅が出るところです。あえて「ひとつの結論」に収束するのではなく、つくり手ひとりひとりの温熱的な考え方やこれまで実践してきている温熱環境調整技術を具体的に示してみようのが、このコンペの意図です。

具体的には、冬の寒さが厳しい山梨県北杜市、八ケ岳南麓の標高960mの地にあるモチドメデザイン事務所(木の家ネット事務局を担当)の築70年の古民家(ほとんど無改修)の温熱環境改善のためのアイデアスケッチを描き、プレゼンテーションし合うというものです。コンペは2014年の1月31日から2月2日にかけて、合宿形式で行います。

左:山梨県北杜市にある築75年の古民家。ここが木の家ネットの事務局 右:主暖房はレンガを積んだ蓄熱・輻射系暖房のペチカ

12月から、室内外の温度測定値を記録するロガーも設置しているので、その結果を見ながら、現状把握と予算の概算付きでの改修提案をします。総会から今までの時点で、シティ環境建築設計の高橋昌己さん、きらくなたてものやの日高保さん、ストゥデイオ・プラナの林美樹さん、ビオフォルムの山田貴宏さんの4名が参加を予定しており、あと2名の枠が残っています。これからでも、参加したい方は、ぜひMLでの意思表明をお願いします。詳しくは、ニュース欄に掲載した記事をご覧ください。

「1985アクション」と 「原発ゼロシール」の紹介

同じ温熱環境設計というテーマについて、兵庫の米谷良章さんから1985アクションについての説明がありました。「家庭でのエネルギー使用量を1985年時点に戻せば、原発はいらなくなる」とのが会の主張で、そのためにどうすればよいかということについての啓蒙活動を行っているそうです。木の家ネット以外での活動の紹介をすることで、会員間での情報共有や視野の拡大につながるのも、木の家ネットのよさですね。

続いて、高知から初参加の沖野建築の沖野誠一さんから「原発ゼロ」シールの紹介がありました。このシールの特徴は、団体名などの記載が一切ないこと。「原発をゼロにしてから死ぬのが、大人の責任だと思う」という文言も、主義主張がそれぞれに微妙に異なっても「この点については合意できる」という最大公約数をうまく表現しています。2013年に「原発はいりません」と公に表明した木の家ネットの会員の心持ちとも重なり、多くの人がシールを持ち帰りました。中には「これから吉野に行くのに、前のクルマとはぐれないためのいい目印になるね」と言いながら、クルマの後部の窓に貼る人も多かったようです。

沖野建築の沖野誠一さんと、木の家ネット会員の車に貼られた「原発ゼロ」シール

木の家ネットサイトの
大リニューアル間近!

最後の話題として、モチドメデザイン事務所の持留和也から、木の家ネットのサイトの大リニューアルについての予告がありました。木の家ネットのサイトは、少しずつ増改築を繰り返して来て今の形になっています。いわば、本館に別館や新館を継ぎはぎして使いにくくなった旅館のような状態であり、スマートフォンやタブレットで閲覧した時に見にくかったり、コンテンツの数が多いだけに過去のいい記事が埋もれてしまっているといった、弱点をも抱えてしまっています。そこで「抜本的なリニューアル」を手がけることにしました。

新デザイン、新機能に切り替えるからには、過去の記事もその新しいフォーマットに「乗せ換える」作業が必要となります。これが結構な大仕事なのですが、じつは、夏頃から、モチドメデザイン事務所と関わりのあるプログラマーの協力を得ながら、着々と準備を進めています。2014年の前半にかけて、段階的なリニューアルをしていく所存ですので、どうぞお楽しみに!

来年の総会は岐阜県加子母で!
大江新代表から発表

総会の最後には、前の晩の宴会の席で発表されたのと同じように、代表が加藤さんから大江さんに新しく交代すること、運営委員は「若返り」をテーマに次世代に渡していくことが確認されました。これで、新旧代表の交代は、総会の場で正式に承認されたこととなります。また、来期の総会が2014年10月18-19日に、岐阜県中津川市加子母で開催することも大江さんから発表されました。伊勢神宮に用材を提供する「神宮備林」や、大江さんが耐震改修工事に携わっている地歌舞伎小屋「明治座」の見学など、充実した内容になりそうです。

岐阜の大工 各務博紀さん(左)と各務さんの紹介で入会した設計士の水野友洋さん(右)

同時に、今回の総会に岐阜の各務博紀さんの同伴者として参加した、岐阜で設計事務所を営む水野友洋さんが、新会員として紹介されました。来期総会の幹事県となる岐阜メンバーなので、活躍が楽しみです。


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総会のワンシーン。「Facebookのアカウントを持っている人〜」の質問に挙手で答えています。