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木の家ネット第10期総会・神奈川大会の報告


総会2日め:総会中の総会、会員の現場めぐり

創立以来十年の歩みをふりかえった
第10回総会

木の家ネットの歩みをふりかえる

朝食後、ホールに集まり、第10期総会を行いました。まずは、前夜の分科会の報告にはじまり、事務局から146名でスタートを切った10期メンバーの確認、会計報告があり、続いて、木の家ネット10年間の歩みをふりかえり、これからを展望しました。(これにつきましては、あらためてコンテンツとしてご紹介する予定です)

次に、会員からの報告ということで、自主活動としてメンバーが集まって行っている2つの活動と、木の家ネットと連携をしながら活動している「これ木連」、2010年度から新メンバーで始動した「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験」検討委員会からの報告がありました。

東京近辺つくり手集会

林美樹さん

発起人の林美樹さんが、経緯を報告してくれました。昨年1月27日に朝日新聞に掲載された、長谷川敬さんの投稿記事に喚起されたことがきっかけとなり発足に至りました。これまで、「子どもを中心とした住育が必要」「住宅づくりだけではなく、山づくり、産業も含めて物事を動かしていかなければならない」「都会でも木の家づくりができることをもっと広くアピールしていこう」といった意見交換がなされました。会合は3回目で休憩に入ってしまったので、仕切りなおし再開していきたいと考えています。

温熱環境勉強会

宇野勇治さん

宇野勇治さんからの報告。温熱環境について、体感だけではなく、科学的な裏付けをもとにした説明がおこなえるようにと勉強会が開催されました。勉強会では、岩波正さんによる気密測定の紹介や、宇野勇治さん、尾崎明仁さんによる講義、木と土壁の家(宇野勇治さんご自宅)の体感・見学がおこなわれました。今回の報告では時間がなく、まとめのみの報告となってしまいました。皆さん興味のあるテーマでしたので、サイトでの公開を考えようということになりました。楽しみにしています。

これからの木造を考える連

渡邊隆さん

もともと基準法に位置づけしにくい伝統木造建築が「改正建築基準法」施行以降、さらに建てにくくなった状況をなんとかしようと、住宅産業研修財団 優良工務店の会、職人がつくる木の家ネット、伝統木構造の会、緑の列島ネットワーク、日本民家再生協会、日本曳家協会の6団体が集まってつくったこれ木連から、直近の勉強会などの案内がありました。

また、これ木連の勉強会の案内や、過去の勉強会の記録などをまとめたWebサイトの案内もありました。こちらからご覧になれますのでどうぞ!

伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験 検討委員会

大江忍さん

年末から1月にかけて、E-ディフェンスで行われる実大震動台実験に向けての動きなど、検討委員会の最近の活動をご紹介いただきました。木の家ネットからも、多くの大工メンバーが損傷観察チームとしてボランティアで参加します。

情報公開を力を入れているとあって、E-ディフェンスでのすべての実大実験の記録映像をWebサイト上で公開するとのこと。すでに全て公開されていますので、こちらからぜひご覧ください。

(銭田 文・木の家ネット事務局/持留ヨハナ)

事例見学 その1

K邸(きらくなたてものや):
屹立する2本のヒバ柱の家

(左)神奈川の湯田左官さんが展示した左官の塗り見本 (中)K邸の模型 (右)藤間棟梁の几帳面なノート。実際の刻みの結果をチリまで全て記録するようになり、上棟の時の間違いがほとんどなくなったという。

参加者の約半数が参加してくださった、総会後の事例見学会。まずは、総会会場からほど近い、きらくなたてものや設計の横浜K邸へ。広いお庭と畑、そして山を背負った土地は、横浜とはいえ自然に囲まれたのどかな土地です。現在お住まいの母屋の隣にお住まいを新築しているので、建主さんには、大工さん、左官屋さんの仕事をはじめ、家づくりの過程を毎日見ていただくことができます。

里山の一角に建つ農家風のこの家は主に5寸角のヒノキを使い、重厚でありながら軽快なリズムを感じられる木組みの設計を試みています。また家族が集まる居間は、越屋根から光が注ぐ下で兄弟のように2本屹立するヒバの柱と、その周辺の遊び心のある木組みが印象的な空間です。

住宅の見学以外に、現場の一角には、K邸の左官工事を担当している湯田工業、湯田さんの左官壁見本や蔵壁の構造見本などの展示スペースを設けました。自然素材ながら色とりどりの壁見本、小舞壁の何重にもなった下地、様々な見本を一堂に見ることができたので、構造としての左官の技術、また化粧としての左官の技術を改めて認識することができました。

そして、次なる注目は藤間建築工房、この家の棟梁、藤間建築工房の藤間さんのノートです。藤間さんは、一本一本全ての構造材のアイソメ図を記録しています。建て方もほとんど間違えなく進んでいく正確な仕事の秘密は、この緻密なノートに表わされているようです。

葉山一色の家 (studio PRANA):
屋根架構の工夫で広い空間を実現

(左)上棟直後の葉山一色の家(右)シンプルな空間を実現するための、パズルのような複雑なおさまり

続いて、場所を移動し葉山へ。横浜から葉山への車中、登場したのが池山さん作の「鼻笛」。ベトナムの楽器をもとに、ヒノキなどで作っているそうです。一見楽器には見えないけれど練習すると2オクターブまで出てしまうところ、演奏している表情が真顔なのにちょっと力の抜ける音色を出すところ・・・など、なぜか大人をも虜にしてしまう「鼻笛」のおかげで、総会2日目のちょっと長い移動時間も楽しく過ごすことができました。

葉山最初の見学は、studio PRANA林美樹さん設計の「葉山一色の家」。車を降り、建物が見えてきた頃、「なんだ!なんだ!!」の声。建て方が終わったばかりのこの建物で、最初に目を引くのは屋根の架構です。内部に柱の無い大屋根は、図面で見ても模型で見ても、実物で見ても、複雑な納まりに圧巻でした。勾配のついた軒桁、矩の部分が無い垂木、2階に上がったきり降りてこない皆さんに、「時間です!」と声をかけるのが心苦しくなくなるほど、なかなか離れられない、皆さんの興味が尽きない建物でした。完成したらどんな内部空間になるのか、是非また見学させていただきたいと思いました。

今回の総会の思い出として、欠かせないのがこの「鼻笛」。林美樹さんとは何の関係もありません

山口蓬春記念館

(左)細い鴨居が垂れてこないように、障子の合わせ目で隠れるように釣り針金が仕込まれている。(右)建具の工夫で、外と一体になった空間を実現したアトリエ

吉田五十八が増改築の設計を手掛けた、日本画家山口蓬春の自宅兼アトリエ(現在は記念館として開館)の見学では、一般公開されていない茶の間、桔梗の間を見学することができました。建具の納まりや、床板の貼り方など、無駄な線が出ないよう計算され尽くされたディテールに、皆さん食い入るように見入っていました。アトリエでは、天井いっぱいまで伸びる大きな建具に線の細い框が使われており、作り手からするとかなり大胆なデザインですが、目の詰まった素性の良い材があってこそと、素材の良さや技術に皆さん感心されていました。途中、案内をしてくださった係の人も「初めて見た」という欄間障子の納まりを発見したり、建具の開閉によって変わる空間に驚嘆の声が上がったりと、終始賑やかな見学となりました。そして、やはりここでも「移動します!」の声が響くこととなったのでした。見学後、一次解散となり、遠方からの方を駅へとお送りしました。

事例見学 その2

南葉山の家 (studio PRANA):
海を臨むおしゃれな別荘

林美樹さんの設計の美しい幾何学ワールドと、それを形にする都倉大工の正確な仕事に感嘆の声があがる。

日が暮れ始めた頃に残ったメンバーで「南葉山の家」へ移動しました。「南葉山の家」は、「葉山一色の家」同様、studio PRANA林美樹さん設計の竣工後6年ほど経つ別荘です。山の中腹に位置し、玄関を入ると海に向かって解放された空間が広がります。薪ストーブの火の燃える音が静かに響く、とてもゆったりとした時間が流れる空間でした。

別荘という、住宅とはまた違った性格を持つ建物ということもあり、空間と生活がお互いを引き立て合うようにしっくりとなじんだ、とてもおしゃれな別荘でした。皆さんからも「おしゃれだな〜」の声。2日間を駆け足で過ごしてきたせいか、空間のおかげか、久しぶりにとてもゆっくりとじっくりと過ごせたような気がします。全てのお部屋を快く見学させてくださった建主さんに改めて感謝いたします。

ピスカリアで打ち上げ
お疲れさまでした〜

ピスカリア

夕食は神奈川総会スタッフの打ち上げも兼ね、4年前に竣工したきらくなたてものや設計のシチリア料理店「ピスカリア」へ。七寸×尺の柱梁と尺三寸角の栗の大黒柱で構成された空間に、素材の味を活かしたシチリア料理。2日間を振り返りながら、話は来年東北での総会へと進み、湘南の夜も更けていったのでした。そして、貴重な2日間の休日を、「両親の都合で」(と日記に書いていました…)神奈川で過ごすこととなった持留家の次男、2年生の光くんが、宿題の日記を書くために難しい名前のシチリア料理をメモできた頃、各々何とも言えない充足感に満たされ、帰路に着くこととなりました。

(銭田 文)

次回は、宮城県登米市で会いましょう!

いつももりだくさんな内容で、会員さんひとりひとりが心待ちにしている総会、次回は「第11回木の家ネット総会・宮城大会」として「宮城の明治村」と呼ばれるほど古きよき建物が歩ける範囲で今にまで残る登米(とめ)市で開催予定です。宮城県のメンバー、ササキ設計の佐々木さん、アトリエ樹音の往見さん、古遊工房遊佐建築の遊佐さんが幹事としてすでに動きはじめてくさだっています。宿泊は追分温泉、アフター総会は鳴子温泉の泊まりもできるということで、期待が高まります。

今回の神奈川総会の幹事を引き受けてくれた、きらくなたてものやの日高保さん(右)と、次回、宮城総会の幹事、ササキ設計の佐々木文彦さん。

来期は、宮城でお会いしましょう!

(木の家ネット事務局/持留ヨハナ)

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ピスカリアでの打ち上げ。日高さんの音頭で、乾杯! お疲れ様でした!