明月院
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木の家ネット第10期総会・神奈川大会の報告


総会初日夜:上郷森の家でのミニ講演・宴会・分科会

鎌倉まち歩きを終え、夕方の大渋滞を抜けてようやく皆さんが宿泊する施設上郷森の家に到着しました。上郷森の家は、その名のとおり森に囲まれた敷地に建ち、宿泊や飲食、また陶芸や周辺の自然観察といった体験学習等を楽しむことができる公共施設です。内井昭蔵氏による設計で、氏の設計らしい、どこかあたたかく親しみやすい空間でした。

ミニ講演「鎌倉のまちなみを考える」
講師:比留間 彰氏

上郷森の家に到着するやいなや、施設内の「森のホール」に集合し、ミニ講演「鎌倉のまちなみを考える」を開催しました。本来ならば1時間以上も前に到着し、事務的な手続きや宿泊室の割り振りなどを行う予定でしたが、時間に追われていたので予定を変更し、到着後直ちにミニ講演を行うことにしました。

講師の比留間彰氏(八幡宮にて撮影)

今回講師の比留間彰さんは、現職は鎌倉市広報課ですが、前年まで都市景観課に属し、鎌倉市の景観行政に深く関わっていた方です。先ほどまで鎌倉のまちを歩いた皆さんの記憶がまだ新鮮なうちに、鎌倉の景観形成がどんな背景で成り立ち、またその中で行政がどのような役割を果たしてきたかをお話ししていただきました。

鎌倉は、かつてそこに都があったことから歴史的都市という印象がありますが、街並みという視点で見れば、確かに古い社寺仏閣等が散在しているものの、全体的には大半が関東大震災後に建てられた建物であり、実は特徴のある伝統的なデザインコード等があるわけではありません。一方で高度成長期から始まる宅地開発や各種商業施設の出店等により、落ち着いた緑豊かな鎌倉らしさが埋没しかねない危機にみまわれました。

それに対応して鎌倉の宅地開発問題を発端に古都保存法が制定され、また、市民と行政が協力して鎌倉らしさを維持する動きが生まれました。その中でも、法制化していないことも含め、行政が様々な規制や指導等を地道に行うことにより果たしてきた役割は、たいへん大きかったといえます。

そうした話を短い時間の中で分かりやすく説明していただきました。皆さんに書いていただいたアンケートを見ると、こうした行政の取り組みを評価するコメントを散見することができました。

  • 建物の高さ、色、形への規制などで鎌倉らしさの形成に頑張っている感じでいいと思う。
  • 住民意識を高めた町づくりがよい方向に向いていると思いました。
  • 街を歩いてみて見えてくる風景に、いつもと違う何かを感じ取れました。白いローソン、白い自販機など、見ていて分かった所、それ以外にもたくさん色の制限された看板などが意図的に造られているということがシンポジウムで分かりました。すごく地道な努力と細かな気遣いでここまで造っていくことはすごいことだなと思いました。
  • 行政の関わり方が重圧的でなく、事業主や市民の理解のためにとても真剣に応対されている様子がとても印象的でした。市民の声がまちづくりやまちの未来を左右する姿をまのあたりにし、自分の町と比べて考えさせられました。
  • 行政の取り組み方がまとまっているように感じました。高さ規制に看板、確かに威圧感がなく、効果が大きいと思いました。
  • 鎌倉の落ち着きが市側の熱心な取り組みのおかげと知り、意識の高さを感じました。
(日高 保)

12星座別に酌み交わした宴会タイム

森のホールでのミニシンポジウムの後、大広間に移動し、夕食・宴会を行いました。今回宴会を行うにあたり、宴会を会員同士の交流の場とするとともに、木の家ネット総会に初めて参加した人が、木の家ネットの雰囲気や所属している人を楽しく知ってもらう場としても考えてみました。いくつかの案の中から、あらかじめ12星座別に席を割り振り、星座に絡めて自己紹介をしてもらうという案で準備を進めました。あらかじめ席を決めておくことにより、知らない者同士が隣に座ることになるので、会員同士の新たな交流を生むきっかけになるのではという考えもありました。

ただ、当日は午前中から時間が押し気味で、宴会と夕食の時間が少々短くなってしまったため、加藤長光代表のご挨拶の後、新婚ご夫婦で参加の和歌山の西岡さんご夫妻に乾杯のご発声をいただいた後は、急遽自己紹介ではなく、各星座にまつわる占い等を星座ごとに司会者が紹介し、隣に座った人同士盛り上がってもらおうということで対処しました。

乾杯の音頭をとった、西岡さんご夫妻

本来は神奈川総会準備メンバーと、新入会員および初めて総会に参加された方の挨拶等を行う予定でしたが、時間がないために翌日の総会時に持ち越しとなり、締めの和田善行さんの挨拶まで結構詰め気味の宴会となってしまいました。しかし総会に参加した会員の方の中には、星座での話が印象に残った方も多いのか、その後のお便りや、お話の中で、この時の宴会の話が結構出てくるので、司会者兼担当者としては、嬉しい限りです。スケジュールとしては少々無理が生じてしまいましたが、木の家ネット会員同士の交流を生むきっかけとなる宴会を、というテーマには沿った宴会を行えたのではないかと思います。

(星野 将史)

深夜まで議論白熱!
分科会

ここ数年続いていた伝統構法を未来につなげる運動が現・検討委員会の動きへとシフトしていることもあり、今年は自分たちの足元を見つめ直す4つのテーマに基づいて分科会を行いました。いずれの分科会も議論は白熱したものとなり、1時間半の時間では到底物足らなさそうでした。各分科会の様子は以下のとおりです。

「ひとを育てる」

どう次世代を育てていくか。家づくりはチームでするものなだけに、大きな課題だ。30-40代で工務店を経営している参加者が多く、50-60代の先輩が自らの経験を語り、アドバイスする形となった。来た人が伝統構法に向いているかは3年を目処に見極めるいう話、家業を継いで経営者となった場合の年上の人を使う立場になるむずかしさなど、さまざまな話が出たが、大切なのは、状況や思いの共有。「それぞれが現場に散る前に必ず朝礼をして、意思疎通、心の結びつきをはかっている」という経験談など、ためになる話がいろいろ出た。(座長 渡邊 隆)

「森を育てる」

輸出入などグローバルな問題から、小さなコミュニティの問題まで、同じ山の問題として認識できたことが、成果であった。また、良い森づくりを進めていくためには、直接山に関わる人、地域の人に、良い家づくりというものあお認識してもらう必要がある。そのためには、単体としての家づくりではなく、町づくり・地域づくりを意識した取組が必要になってくるのではないか。(座長 和田善行)

「おカネを育てる」

どのくらいの経費率設定が黒字経営なのか、きちんとした見積りを作成するためにはそれなりの人工がかかる、 施主参加のワークショップ形式での施工も、コストダウンのためではなく、営業のためと認識した方が良いなどの話が出た。これからは報酬を経費として乗せるのではなく、自分たちの仕事をきちんと評価し、技術料として見積りに明示するべき。見えないお金ではなく、きちんと説明できるお金とすることで、施主との信頼関係もより強いものとなっていくのではないだろうか。(座長 大江 忍)

「関係を育てる」

建物を作る際には、施主・工務店・職方・設計者・素材製造業者・役所・金融機関等と周辺住人の協力が必要となる。一方、この国の建設業界には長い間、施主を頂点としたピラミッド構造の上下関係が存在してきた。誰が上になるにせよ、いいものを残すためは、相手の存在を理解し工事に参加する必要があるという意見が多かった。設計者が頼りにならないので、申請書など必要な仕事のみを依頼するという大工の本音も聞かれた一方で、職方や素材製造業者が対等の関係で工事を進めているという、分離発注での経験談も話された。(座長 高橋 昌巳)

ミッドナイトシアター「幻風景」

今回の総会の目的の一つは、歴史的都市鎌倉の今を皆さんに知っていただくこと。午後約3時間にわたって鎌倉を歩き回り、夕方ミニ講演で景観行政の取り組みを聞き、そして深夜に、若手映像作家による「幻風景」の上映を企画しました。

「幻風景」は、鎌倉市街地内に建つ築80年の古民家が壊されるシーンから始まります。諸事情により仕方ないとはいえ、鎌倉らしい風景の一角をなす、まだ使うことのできる古民家があっという間に取り壊されていくさまは、今の鎌倉を象徴しているようです。また続いて、時を同じくして起こった鶴岡八幡宮の大銀杏の倒壊を巡る映像を映し出していましたが、これも人為的な仕業ではないとはいえ、これまで日常の風景の一角をなしていたものが突然なくなってしまう切なさを表していました。

そして最後のシーンは、こうした現状に戸惑い続ける主人公に対して、日本の伝統的な美の遺伝子を、子どもたちや若い世代の手により現代の感性で再生し、未来へとつなげていこうと問いかけているようにも感じました。 このメッセージは、鎌倉だけの問題ではなく、まさに私たちが手がける、数十年前まで各地で当たり前のように存在していた伝統的な木造建築文化とシンクロしているような気がしました。観賞した人たちはそのことを感じたのか、上映後映画制作スタッフを囲んでの討論は、更に夜更けまで熱く続くのでした。

(日高 保)

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