土佐漆喰黄土半付仕舞 (写真提供/松木憲司)
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こんな土壁つくってます?アンケート集計特集


だから、土壁の家づくり!

最後のページでは、前々回の「土壁の魅力」特集ともかぶりますが、木と土壁の家をどのように仕上げているのか、なぜ土壁を採用しているのか、どの程度採用できているのか、といった意識面での調査結果をまとめます。

塗り仕上げと土仕上げ
テクスチャーはさまざま

土壁の家といっても、内部の仕上げにも外壁のつくり方にも、さまざまなバリエーションがあります。まずは、内部仕上げから見てみましょう。

大きく分けると2つ。1つは、土壁のテクスチャーのまま仕上げとするやり方で、小舞に表裏から土をつけたままの素朴でワイルドな「荒壁仕上げ」、その上にもう一層、肌理の細かい土を塗り重ねて平滑な面を出す「中塗り仕上げ」があります。もう1つは、その上にもう一層、上塗りをするもので、漆喰、色土、珪藻土などのバリエーションがあります。これは複数回答しているケースばかりですが、全体で見ると、上塗りをするケースの方が多く、中でも漆喰の割合が多いようです。

外壁は板張りとの併用など、さまざま

回答数が100を越えています。というのは、一軒の家でも「内外真壁、腰板貼りで漆喰塗り」など、複合的な仕上げも多いし、場合に応じて、さまざまな外壁仕上げをしているからでしょう。

雨がかりする部分の雨漏りを未然に防ぐために腰板張り、板張りを併用することも多いようです。現代の住宅は2階建てが多いので、軒の出だけでは、台風など年に1度あるかないかの大雨はしのぎきれないかもしれません。

多くのつくり手が
土壁の温熱環境に期待している

「断熱材として」「蓄熱材として」「調湿材として」と、温熱環境がらみの回答を足し上げると、ダントツで、自由文での回答も多く集まっています。「断熱性能は高くないが、夏は調湿性能のおかげでさらりと涼しく、冬は蓄熱性能のおかげでじんわりあたたかく」というのが、つくり手が認識している土壁の温熱特性です。自由意見からいくつかご紹介しましょう。

「断熱についてはそれほど期待していません。冬季の蓄熱性能には期待しています。また夏季には湿度を吸収することで、室内の温熱環境について効果があると思います。真夏の木陰で涼むような感覚。これが好きなので、建主さんにも薦めています」「調湿性にすぐれていることが、夏場を過ごしやすくしている。梅雨時でもエアコンや除湿機に頼らなくても、快適に過ごせる」「特にエネルギーを使うことなく、働いてくれるところが素晴らしい」「土蔵や塗り屋の温度・湿度測定を夏冬行ったことがあります。土壁の室内湿度変化はとても緩やかです。熱源のない建物での測定であったので、真夏・真冬ともやや涼しく寒くない程度の結果でした」「夏の暑い日に、土壁の家に入ると「ほっ」とするけど、ビニルクロスの家は「むっ」とする」「軒の出などによる日射遮蔽、通風、それなりの気密、しつらえを含めたライフスタイルなどがあって、土壁の熱的な効果は充分に発揮されるもの」

土壁自体が断熱材を入れるつくり方ではもともとないので、今でも断熱材を入れない施工数の方が多いようです。場合に応じて断熱材は入れる、というつくり手の発言と工夫をいくつか。

「岡山県北部では外壁に断熱材を施工したが、南部では土壁だけで施工している」「蓄熱性能を発揮しようとするなら、外側に断熱材を設置することの効果が高いことは分かっているが、比較的温暖な関東の地域では、昔ながらの造り方で問題はないと現段階では考えている」「蔵や、大壁まで土をつけると、断熱性はとてもすばらしいと思うが、3寸ぐらいの土に断熱は期待できないので、外部に土壁とよく似た強度のフォレストボードで外部側柱間にはめ込みます」「土壁の断熱性能は低いのが欠点だと言われますが、何と比べて低いと言われるかというと、断熱材です。プラスターボードと土壁の断熱性能をうんぬんするならわかるのですが、断熱材を足したプラスターボードと比べるのはオカシイ話ではないでしょうか。断熱性能を上げたければ、断熱材を足せばいいだけであって、土壁自体の欠点とは言えないと思います。ただ、土壁に最も適した断熱材(費用対効果も含めて)が一体何なのかは模索中です」

昔の家といえば「すきま風がひどくて、寒いのでは?」というイメージをもつ方に、びしっ!とこう答えた回答もありました。

「真壁程度では、断熱性能の高さは期待できないが、かつてのように隙間風があるような造りではなく、施工工程も何段階にも分けて仕事のグレードは高いこと、サッシを使った開口部周りの仕様もあり、昔の建物のイメージより気密性は明らかに高い」

よさがきちんと伝われば、
土壁の家づくりはこれからもっと広がるはず

「ほとんど土壁」「必ず土壁」の数が、「半分以下」というつくり手の数を上回る結果となりました。土壁の家づくりに熱心なつくり手からの回答が集まっているということでしょうが、「木と土壁の家づくり」を確信して実践し、住まい手の人にも納得して採用していただいているというのは、頼もしい限りです。

土壁にしにくい理由として多くあげられているのは「工期の長さ」「コストの高さ」の2つでした。これから長い間住み続けることを考えると、その工期やコストは耐用年数で割ると十分納得できると思うのですが「安い」「早い」「簡単」な住宅を求める建て主さんが多いという現実も垣間見えました。昔は、代々住み継ぐものであった「家」ですが、核家族化とも関係して、家に対する考え方が変わり、それが土壁の衰退に繋がっているという事情も見えました。

しかし「ほとんど土壁」「必ず土壁」と答えている人は、あらかじめあげた選択肢とは別の理由をあげているのが印象的でした。

「過去の印象と認知度の低さ」「意識の無さ」「古いという先入観」「説明不足」「工費が高い・工期が長いなどは土壁を行わない理由にはなりません。ほんとうにいいものなら、建て主も理解してくれるものです」

土壁にしにくい理由を外的要因に求めず「きちんと説明すれば、もっと広まるはず」と認識しているのです。つくり手がよいものの「よさ」を伝え、住まい手がそれを主体的に選ぶ、というのが、望ましい姿といえるのではないでしょうか。このところ3ヶ月間連続でお届けしている土壁コンテンツが、その一助となることを願っています。

また、この土壁アンケートをきっかけに、木の家ネットのつくり手会員の間で、自主活動として、温熱環境研究グループが生まれ、土壁の性能を客観的に評価することや、土壁を評価する価値観の根っこについての深いディスカッションも始まっています。ある程度成果がまとまれば、コンテンツとしてご報告もできると思いますので、どうぞお楽しみに!

最後に、洋子さんの土壁自慢を!

先月末に内外真壁+杉腰板(断熱材なし)の住宅をお引き渡ししました。密かに「この猛残暑だもんな…暑くないかな」と心配していました。 家具の搬入があり、立ち会いに行った時のことです。奥様が「アパートではエアコンをかけて寝るのが当たり前だったので引っ越した夜もかけて寝たところ、夜中に寒くて目が覚めました。昼も窓を開け放しにしておくと風が通って、エアコンを使わなくてもいいので驚きました。アパートでは考えられません」と、おっしゃって下さいました。このお宅は田んぼの中にポツンと建っています。そのため、昼間、風がある日に窓を開け放していると音をたてて風が通るのを確認していましたし、風の通り道には職人さんたちがそれぞれお昼寝場所にしていることも知っていたので、風の通りについてはちょっと自信がありました。しかし夜は蓄熱性能が悪い方にはたらかないかと不安だったので、驚いたのは私の方です。「こんな猛暑だし、寝室は2階だし、西面に面しているのに、本当に夜暑くないのですか?」と聞くと「全然。暑がり夫と“エアコンかけると寒いね”と話をしたくらいです」 これは土壁の蓄熱(冷)性能のなせる技だと思うのですが、土壁だけの功績ではなく、窓(対面方向に窓)や軒(2階の桁高さが低く軒が深いので、西日も直接はあたらない…はず)も貢献していると思うのですが、“土壁派”としては、嬉しい感想でした。家具を作って下さった職人さんご夫妻も「居心地いいな。帰りたくないな。やっぱり土壁はいいですね」と、土壁を誉めて下さいました。 土壁派の私としては、嬉しい限りです!


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「さすがに今年は暑くて寝苦しいいんじゃないかな〜」洋子さんもちょっと心配した2階。
けど、実際には猛暑の夜も快適でした。開放的なプランと土壁の調湿・蓄熱性能のおかげ!