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「職人がつくる木の家」づくりを未来につなげるアンケート


この「アンケート中間報告」は、2009年12月18日(金)まで公開で実施しているこのアンケートと同内容のものを、11月14日?15日熊本で行われた職人がつくる木の家ネットの第9期総会で実施して得た回答(201項目)から抜粋・整理し、中間報告としてまとめたものです。

問題となっている分野
05 木材の扱い

なんでもかんでも乾燥材というのは、疑問。伝統木造に乾燥率15%?20%の木材を求めると、かえってよくない。

建築基準法の仕様規定の範囲内にあっては、木材の品質は「構造耐力上主要な部分に使用する木材の品質は、節、腐れ、繊維の傾斜、丸身等による耐力上の欠点がないものでなければならない。(施行令第41条 木材)というゆるやかな規定しかないのですが、壁倍率によらず、構造計算によって構造安全性を証明する場合には、「構造耐力上主要な部分である柱及び横架材(間柱、小ばりその他これらに類するものを除く。)に使用する集成材その他の木材は、次のいずれかに適合すること。(告示第1898号?構造耐力上主要な部分である柱及び横架材に使用する集成材その他の木材の品質の強度及び耐久性に関する基準を定める件)という、木材の品質についての規定がでてきます。製材については「含水率15?20%」という文字が並んでいます。それについて、 20%以下という含水率は、高温乾燥でしかできない数値。ところが、高温乾燥では内部割れなどがおきたりするので、伝統構法の木材には適さない。法律を守るためには、伝統構法にとってはよくない材を使わなければならなくなるという矛盾がある。(千葉 大工)

高温乾燥材は、割れが表面に出づらいが、構造材でいちばん重要な「ねばり」が極端に落ちるという弱点があり、自分は使わないようにしています。天然乾燥材も評価できるようであってほしい。(静岡 大工)

という意見に類するものがたくさん寄せられました。

プレカット材であれば、木材同士は材の表面側に釘やビス打ち、あるいはボルト締めした金物で接合されます。しかし、手刻みの場合、仕口・継手と呼ばれる木組みの接合部が木材の内部になりますので、そこに割れがあったり、カサカサでねばりがなかったりすれば、構造上の欠陥になってしまいます。大工が高温乾燥材を嫌うのは、高温で無理矢理乾燥させると、接合部にとっては致命的な内部割れが起きやすくなるからです。特に、表面に割れが発生していない高温乾燥材には、要注意です。

含水率は、無垢の木については20%以下である必要はないのでは? 刻む時には30%ぐらいでちょうどいい。(滋賀 大工)

内部割れがなく、刻むのに刻みやすい含水率は30%前後。となると、自然乾燥や低中温乾燥がよいことになります。これが大工さんたちのおよその共通認識のようです。

ところで、この告示には、含水率をいつ測ればよいのかは明記されていません。D15、D20とよばれるJASのドライ材というのは、製材工場出荷時の含水率であらわされています。

伝統木造の場合、刻みから竣工までに時間がかかる。刻み時に30%程度であっても、上棟、造作工事と時間を経て、ゆっくりと気乾状態へと向う。ドライ材にこだわらず、最終的な含水率でよしとするだけで、大分ましになるはず。(東京 工務店経営) 「構造計算する場合には含水率20%?15%以下」と法律で定めるのにも訳があります。木というのは、伐採後にも多くの水を含んでいますが、含水率30%の上までは「細胞間水」といって、細胞と細胞の間にある水が抜けていくだけで、木そのものは変形しません。ところが、30%を来るあたりから、細胞そのものの中にある水が抜けていくので、木全体「ねじれ」「反り」「割れ」などといった変形が起き始めます。そして、気乾含水率といって、最終的には空気中の含水率と同じ15%ぐらいま乾いていって、落ち着きます。

構造計算をするのに、まだ変形途中の材料では扱えない、というのが「構造計算する場合には含水率20%?15%以下」と決められた根拠のようです。この施行令改訂の流れを追ってみますと、もともとは集成材、積層合板など、木質系工業製品しか、構造計算には載せることができなかったようです。それを製材にまで広げたのは画期的なことなのですが、工業製品と同じように「それ以上に変形しない」ものまでに制限しているわけです。自然素材である木を数値で扱うことのむずかしさがあらわれています。

一方で、大工さんたちは、生きた材料である木について、刻んだ後、どう変形していくかまで想定に入れて刻んでいます。これがよく「木のクセを読む」と言われることなのです。

木材は一本一本特製が異なるので、適材適所は現場判断となる。より現場重視の規定にしてほしい。(埼玉 大工)

天然乾燥材の使用について、大工の器量が活かせるようにしてほしい。(東京 設計士)
という意見は、こうした「生きた材料のクセ」まで活かすことのできる大工に、木のことは任せてほしい!という気持ちのあらわれでしょう。

木材には、乾燥率以外にもヤング率、破壊強度、D特定樹種、D1特定樹種など、木材の強度や耐久性をあらわす数値や評価基準がいろいろあります。性能規定による確認申請や、長期優良住宅など最低基準以上をめざす線引きがなされる場面では、よくこういった数値やランクが取り沙汰されるのですが、実際には、木は同じ樹種であってさえも、一本一本が違った個性(クセともいいます)をもっていて、それを手で触って、目で見て分かるのが大工にとってもっとも大事な能力のうちのひとつなのです。

学者さんは「大工さんにすばらしい経験知があることは分かりました。それを数値であらわすとどうなりますか?」と言うのですが、「数字にはあらわせない」としか言いようのない世界は、やはりあるのです。客観的な評価基準を定めにくいところです。材料のこととなると、木を愛する大工さんたちはいつも、熱くなるのです。

基準法の仕様規定内で家づくりしている分には、乾燥率等、木材の性質を数値で制限される場面はそ多くはうないのですが、「木は乾燥材の方が優れている」ということが安易に流布していることも問題です。

木材に便乗規定が多くて困る。たとえば公共工事で木材を使おうとすると、乾燥材を求められる。「県産材○本分、プレゼント!」といった地元材利用促進キャンペーンでもそう。さまざまな場面で乾燥材やJAS材が条件にされる。(熊本 設計士) 「乾燥材こそが良材」「JAS材のシールが貼ってないものはダメ」ということが社会通念として固定化するのはいかがなものでしょうか。材料のよしあしも工法に応じて変わるものなので、工法の多様性に応じて、判断基準のものさしも変わるべきでしょう。

ところで、JAS材を出荷できるのはJAS認定工場だけであり、零細な製材所ではこのJAS認定を取得すること自体が、かなり困難です。そのことについて、次のような意見も複数ありました。

地域に根ざした木材流通を考えれば中小零細の製材所が元気になるべきで、JASや高温乾燥の標準化などを無理に進めれば山は荒廃し、地域文化はズタズタになってしまう。(三重 大工)

過去の記事をご参照ください:
「山側から提案する家づくり TSウッドハウス協同組合 和田善行」
ページの一番下に、葉枯らし・天然乾燥材の生産現場での、乾燥率推移のグラフが出ています。

問題となっている分野
06 防火関連

木材は必ずしも燃えやすいわけではない。木材をあらわしで使える条件を、もっと増やしてほしい。

これは以前よりは、建物外部に関しては、大分よくなった項目です。少し前までは、延焼のおそれある部分である軒裏に、無垢の木をあらわしにできなかったのが、今では、準防火地域までであれば、木材の太さや厚みなど、一定の条件のもとで可能となっています。

過去の記事をご参照ください:
「伝統構法の復権 vol.2 火の用心1」
木材は十分な太さがあれば、表面が炭化することで燃えにくくなる。「燃えしろ設計」で、準防火地域の外壁の軒裏あらわしが可能に。

「伝統構法の復権 vol.3 火の用心2」
蔵の町川越の土蔵造りなど、伝統的な防火構造を具体例で紹介

室内については、人が集まる公共施設の内装や火を使う台所などについては「内装制限」と呼びならわされている内装の制限を受ける調理室等は、その壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを不燃材料又は準不燃材料でしなければならない。施行令第129条という規定があります。たとえば、台所の仕上げ材には、準不燃材料以上を使わなければならなず、木材は使えないとされてきました。

しかし、つい最近のことですが、2009年2月に準不燃材料でした内装の仕上げに準ずる仕上げを定める件 告示第225号が出て、この火気使用室の内装制限も一部緩和になったりました。

これにより、ガスコンロやストーブから一定の範囲内を特定不燃材料でつくれば、その他の部分に「難燃材料またはそれに準ずる仕上げ」にしてよいことになり、木材を使うことは可能となりました。しかし、それは嬉しいとしても、こんな声も。

薪ストーブ、ガスコンロの内装制限がかなり緩和されましたが、条文が読みにくくて、どうしても理解できません(福岡県 設計士)

この条文をどう読めばいいか、申請窓口で尋ねたところ「私たちにも分からないんです」と言われてしまいました(愛知県 設計士)


たしかに条文が難解で、理解しづらいです。しかも、審査側でも分からないなどということが、あってよいのでしょうか!? 分かり易くして、みんなが使える法律になることを希望します。

ほかには、200平米以上の住宅の排煙設備条項の緩和を求める声も複数ありました。

問題となっている分野
07 既存不適格

古い家を増改築するのに、既存部分まで現行基準での耐震改修を求められては、増改築は実質無理。既存不適格建物については「法の不遡及の原則」にのっとってほしい。

今後、人口減少、高齢化の流れの中住宅着工数は落ち込み、逆に、既存住宅の空きストックはますます増えてきます。

ところが、2006年6月、既存不適格建物の増改築については、面積の1/2を超える増改築であれば、既存部分も含めて1981年にできた新耐震基準の仕様に適合させるように、という規定ができました。(第137条の2 構造耐力関係)

伝統木造のつくり手は、古い民家の改修を頼まれることがよくあります。改修にあたって、既存部分まで直さなければならないとなると、経済的な負担が大きくなり、増改築自体をあきらめ、古いままで住み続けるか、古い家を潰して新築するかということになってしまいます。個人の財産である住宅を、多額のお金を注ぎ込んで現行法規に合わせて直すのでなければ、いじることすらできないというのは、民法にも抵触しているのではないでしょうか。

既存部分も耐震補強しなければならない点が、高齢者が長年済んで来た手を入れて使いやすくしようとする際に、非常に障壁になる。大きな工事をやるほどの予算がないことがほとんどで、増築自体をあきらめざるを得ない。(三重 大工)

既存不適格建物は耐震改修の費用が大きくなるため、もともとは増改築したかった物件でも壊して建て替えるようになってしまわざるを得ず、町並みが変わってしまう。(福岡 設計士)

古民家の再生をしていますが、構造部をあたると既存部分まで現行法にあわせなければならず、しなくてもよいことまでしなくてはならなくなる。これでは100年以上もっているような古い家が残って行かない。構造的には古い家の方がしっかりしているのに、と思う。(佐賀 工務店)
そのために、 古い家の改修については「壊す」か「届け出をしない」かしか、選択肢がない。(岡山 設計士) という状況になってしまっています。もちろん、住まい手の人命を守るためには、耐震改修が必要な場合もあるでしょう。それについては、 古い建物を今の法規に合わせろという考えがまちがい。まずは保存を前提にどこをどの程度、安全性を高めたらよいのかというところに改修のポイントとすべき。(東京 設計士) という論点もあげられています。

過去の記事をご参照ください:
「伝統構法の復権 vol.5」
このまちにずっと残っていてほしいあの家も「既存不適格」?

問題となっている分野
08 建築確認や検査

改正建築基準法の再改正以前に、まずは「運用の正常化」を

2007年の改正基準法のポイントは「運用の厳格化」でした。耐震偽装事件への反省から、「つくり手は放っておけば悪いことをするかもしれない」という性悪説に転向し、建築士という資格を付与しているにもかかわらず、「つくり手の良識と判断にまかせる」という信頼にもとづく前提を取り払ってしまったのです。 求められる申請書類や添付書類は膨大になり、記入すべき事項は瑣末なことにまでわたり、それまでは建築主事とつくり手との間の話し合いで納得づくで臨機応変に対応できたことが硬直化してしまいました。 建築主事に権限がなく、交渉の余地がない。(滋賀県 設計士)

今の役所の窓口の方々はサービスの心で対応してくれるようになっているのに、建築指導課の人たちはどうして感じが悪いのでしょうか? 性悪説にもとづいており、取り締まることしか考えていない。本当によい建築、よい環境をつくるためにどうすればいいかではなく、法規の文章の読解をするだけが仕事になっている。今の建築基準法に準ずることばかり考えていては、よりよい建築は実現できない。大胆な改革が必要な時期に来ている。(東京都 設計士)
しかも、確認をおろしたことの責任を問われることをおそれ、仕様規定外のケースについては受理して検討するよりも、「受けられません」といって民間検査機関にまわしたがるケースもあるようです。そこで、 検査機関によって手続きがバラバラ。複雑。(滋賀県 設計士) という混乱も起きています。通常の4号物件(住宅規模の建物)でさえ、上記のような声があがるのに、仕様規定におさまらず、性能規定で構造安全性の証明をしなければならない伝統構法の場合は、「限界耐力計算を使えば、適判(ピアチェック)送り」となるので、苦労はひとしお。そのために多大な労力と時間と金銭をさかなければなりません。それが建物そのものをよくすることにはつながらない、申請のための努力にしかならないとしても。 「構造設計の申請手間が増え過ぎ。自由な創意工夫をさまたげている。」(東京都 設計士) Q1の基礎に関する回答にもありましたが、 限界耐力計算を使った4号物件の適判送りはやめてほしい。(多数) これは具体的には、石場建ての木造住宅をさしています。適判(ピアチェック)送りとなることで、審査時間は数ヶ月増え、建て主が払う費用はピアチェックの申請料と構造計算料、申請書類作成料等で、総額で100万円以上の負担増となってしまいます。 日本で古来から脈々と培われて来た石場立て基礎が建築基準法の仕様規定からはずれるため、4号建物であっても適判に送られる。このことが、希望があっても件数減につながっている(岡山 設計士)

運用の厳格化が、石場建ての伝統構法の着工数を激減させ、かつ、国民が望む工法をするために多大に不均衡な負担を強いる結果となっていることを、国交省は重く受け止めるべきでは。なるべく金物を入れたくないので、N値計算して極力減らすようにしているが、ホールダウン金物だけは減らしようがない。(東京 設計士)

運用の厳格化が、石場建ての伝統構法の着工数を激減させ、かつ、国民が望む工法をするために多大に不均衡な負担を強いる結果となっていることを、国交省は重く受け止めるべきではないでしょうか。


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