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「職人がつくる木の家」づくりを未来につなげるアンケート


この「アンケート中間報告」は、2009年12月18日(金)まで公開で実施しているこのアンケートと同内容のものを、11月14日?15日熊本で行われた職人がつくる木の家ネットの第9期総会で実施して得た回答(201項目)から抜粋・整理し、中間報告としてまとめたものです。

問題となっている分野
01 全体的な考え方

伝統構法が建築基準法に位置づけられていないへの不満が圧倒的に多かったです。

法律が妨げになっているために伝統構法が施工できず、人材育成もできず、困っています(滋賀県 大工)

日本が世界に誇る木造建築文化である伝統構法が、法律で建てられないということは日本の木造建築文化の崩壊につながります(岡山県 設計士)

あなたはどう思いますか? 世界最古の木造建築物である法隆寺も、古都京都や奈良にある歴史的な建物も、各地に残る伝統的な町並みも建築基準法では認められていない建物だということを…。

法律によって国の歴史的な財産を失うような愚かな政治を行うことのないよう、胸を張って伝統構法を建てられるようにしていただきたい(岡山県 設計士)

木の文化の国として現在のさまざまな法律は改正すべき(埼玉県 大工)
建物の安全性以上のことを言わないのは、建築基準法が最低基準であるためなのでしょうが、伝統構法を扱えていないがために、結果的には、自国の歴史文化を否定することになってしまっているのです。

多様性や地域性が認められていない、瑣末な規定が多すぎる、という指摘もありました。次のような方向性での改正が望まれます。 職人がつくる木の家(伝統構法)と最近主流のプレカットの家(在来工法)が同じ土俵にのっていること自体に無理がある。ゆっくりとでもいいから、少しずつ改善していって、職人にとって家をつくりやすい環境にしていってほしい (愛知県 工務店経営)

日本が世界に誇る木造建築文化である伝統構法が、規制の対象であるとは、おかしなこと。むしろ、国の法律で守るべきものでしょう(静岡県 設計士)

問題となっている分野
02 基礎について

石場建てを認めてほしい

建築基準法には「土台を設け、基礎に緊結せよ(建築基準法施行令第42条土台及び基礎)」「コンクリート基礎高は300mm以上必要(告示第1347号建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件 )という規定があります。

ところが、伝統構法では、土台を用いず、礎石(あるいは独立基礎)の上に直接柱を立てる「石場建て」(柱は礎石に載っているだけで、緊結はされない)という、建築基準法の仕様規定にはない独特なやり方があります。これを認めてほしい、という回答が回答数としては一番多く寄せられていました。

なぜ「石場建て」にしたいのか。 石場建ては柱と基礎とを緊結しないので、大地震動の時に上部構造が基礎からすれることで地震力の入力を軽減できる(多数) というのが、石場建てを推進するつくり手の考え方です。現代工法の「上部構造はがっちりと基礎に緊結する」というのとは正反対の考え方ですが、 「むしろ足元をフリーにしないと、強い地震には耐えられないと思う」(千葉県 大工) という感覚が、伝統構法に携わる大工さんたちにはあります。10月にE-ディフェンスで長期優良住宅仕様の3階建て木造建物を揺らず実大震動実験がありました。足元の金物をより強固にした長期優良住宅仕様と、通常の基準法仕様との2棟の実験棟を同時に揺らしたのですが、前者はひっくり返るようにして倒壊しました。予想外の結果と報道されていますが、石場建てを知る人には「さもありなん」というできごとでした。

10月にE-ディフェンスで行われた3階建ての実験です:
神戸新聞の記事です。
こちらから動画をご覧になれます。

なお、高温多湿な環境のもとでの耐久性という面からも、石場建てを推奨するつくり手は多いです。 床下の風通しがよくなり、湿気対策、シロアリ対策になる(多数) とあげる人が多かったです。コンクリートという素材の性質に着目した意見もありました。 自然石ほどにはもたないコンクリートの上に建てて、100年200年もつ木造住宅が出来るのか?(京都府 大工)

現在の建築基準法では、「石場建て」は仕様規定からはずれるため、限界耐力計算という構造計算で安全性を証明することが求められます。2007年の改正基準法以後、この計算法を使うと「ピアチェク送り」といって、高層ビル並に審査に多くの時間とお金がかかるルートをとらされることになってしまっています。そのあおりで、改正基準法以来石場建ての施行例は激減。「石場立てを認めてほしい」という声は、切実です。

過去の記事をご参照ください:
「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる?」
2007年の改正基準法以降の石場建てをめぐる状況を分かり易く解説しています

「つくり手インタビューvol.26 古川保さん」
なぜ熊本で石場建てがおすすめなのか?気候風土から考えてます

「つくり手インタビューvol.31 綾部孝司さん」
埼玉で石場建ての家をつくる綾部さん。大工としての使命感をもってやっています。

ほか、火打土台は必要ないのでは?という意見も多数ありました。

問題となっている分野
03 接合部について

建築基準法では金物接合が前提。木組みの場合、必要のないところには金物を使わなくてよいように、してほしい

建築基準法に「構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は、ボルト締、かすがい打、込み栓打その他の国土交通大臣が定める構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない。(施行令第47条 構造耐力上主要な部分である継手又は仕口)とあります。「そして第47条第1項の規定に基づき、木造の継手及び仕口の構造方法を次のように定める木造の継手及び仕口の構造方法を定める件告示(告示第1460号)で、どんな金物を使うべきかを規定しています。

これに対して 金物絶対主義をやめてほしい(福岡県 設計士)

この金物はなぜつけなければならないのか?というような、現実の使い勝手とあってない、現場から見れば不要としか思えないような金物を要求される(滋賀県 大工)

とにかく金物を減らしたい。仕口継手をきちんとする場合は免除されるなどしてほしい(東京都 設計士)
というのが、実務者の言い分です。伝統工法では部材接合部において地震による変形時におたがいにめり込み合うことで最終的な耐力を発揮するようになっていて、短いホゾと金物に頼り接合部での耐力は全く見込めない一般的在来工法とは全く異なるものです。

つまり、金物接合を前提とした、在来工法の細いプレカットの柱梁とちがう、こちらはしっかりした材を手刻みで加工しての木組みなのだということを考慮してほしい、ということです。基礎は石場建て、接合部は木組みというのは、伝統構法の2大特徴とでもいうべきものですから、当然といえば当然です。

N値計算をするなどして、接合金物を極力減らしているが、引き抜き力に対するホールダウン金物等は、なかなかはずせない(北海道 設計士)

N値計算とは、接合部にかかる引き抜き力を実際に求めることにより、先ほどの告示1460号で規定するより安全側に書いてある金物の指定をはずせるという計算方法です。(先ほどご紹介した告示1460号の二にただし書きとして書いてあります)具体的には、告示1460号そのままでいくと金物をつけなければならなかったところが、長ほぞなどで済むというような工夫を、つくり手はしているのです。まだまだ整備途上ではありますが、住宅木造技術センターで木造住宅耐力要素データベースをつくっているので、その値も活用していけそうです。

それでも、前の項目で紹介した「建物には土台を敷く。土台と基礎とは金物で緊結する」ということは、必須のこととして決まっていますので、仕様規定の基礎でいく限り、それは省くことができないのは悩ましいところです。

大工さんと話していると「木と木は(込み栓や楔など)木で締めるべき。金物で締めると、木の悲鳴が聞こえてきそう」という感覚をもっているのがよく分かります。経年変化を考えればいずれ金属は錆びていくこと、木と金属という異素材同士の組み合わせに大きな力がかかれば金属が木を破壊してしまうということなのですが、そんな理屈以上に、日々、木を触っている大工さんには、木への特別な思いがあるのです。 火打梁が必要ないような木組みでも入れなくてはならないのが困る(多数) との回答も多かったです。どちらにしても、木組みであるという伝統構法の特徴が、基準法で正統に扱われていないことが問題です。

問題となっている分野
04 耐力壁について

伝統構法の構造安全性は、壁量計算だけでは、はかりきれない。

建築基準法には「構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあつては、すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない。施行令第46条 構造耐力上必要な軸組等) とあります。条文の後半には、壁倍率計算の根拠となる表があげられており、筋交いをたくさん入れたり、構造用合板を用いるものには、高い倍率が与えられます。

壁量計算に入れられる要素が少なければ、要求される壁の長さを満たすために、壁をたくさんつくらなければなりません。そこで、こんな意見もありました。 下がり壁、小壁、太柱差し口などが壁量に算定されない。(余力としてではなく、令46条の要素を充実させたい)(埼玉県 大工)


貫や土壁の壁倍率が少な過ぎませんか?(東京都 設計士)

伝統構法の家はもともと、壁が少ない、開放的な間取りが特徴です。与えられている壁倍率が適切かどうかということ以前に、 「伝統木造を壁倍率だけで評価すること自体に疑問をもつ」(愛知県 大工) という意見もあります。伝統木造は、がっちりとした木組みの軸組でもっている。それをカウントせずに壁だけで評価すること自体が疑問ということです。現在の建築基準法で規定している木造住宅は、在来工法、ツーバイフォー、プレハブ工法、いずれをとっても「壁でもたせる」つくりなので「壁の量」が耐力の基準になっているのもしかたないのかもしれません。しかし、現行法にない建築疎外するのでなく、建築の多様性を認めるのであれば、それぞれの本来の性質に合った評価の方法があって当然でしょう。伝統木造が壁以外に耐力をもつ性質をもっているのであれば、それを評価するしくみがあるべきです。

また、接合部というよりは木組みの構造全体の扱いについて、大改正にならずにできることとして、次のような提案もでています。 建築基準法では、建物の損傷限界は1/120まで、安全限界は1/30までと定めているが、伝統木造については、損傷限界1/60まで、安全限界は1/15まで認めてほしい(徳島県 林業)


伝統構法の構造的な特筆すべきなのは「変形能力と復元力特性」。平行四辺形のように変形しても、またしなやかに戻るというのが大きな特徴です。

専門用語になりますが、高さに対する傾きを変位角(単位はrad=ラジアン)と言います。つまり、地震などで建物が地面に対してどれくらい斜めになるかという「傾きの度合いを」さしています。

建築基準法では建物の変形について、中地震程度においては軽微な直しで済む程度の損傷ですむ「損傷限界は1/120まで、大地震においては建物の中にいる人命を確保できる「安全限界は1/30まで」と規定しています。

伝統構法の建物は、ほかの現代工法の建物とくらべると、変形はしやすいのですが、最終的に大きな変形をしても倒壊せず、粘り強くがんばるのが特徴です。現代工法のかたくつくる建物とくらべると、より変形量が大きく、やわらかい建物といえます。ところが、伝統構法の建物を、よりかたい現代工法の建物と同じように「損傷限界を1/120、安全限界を1/30」と限られてしまうと、伝統構法のやわらかさを発揮できないのです。

これは仕様規定ではなく、性能規定で、限界耐力計算を用いる時に関係してくることなのですが、どこまでの変形を認めるかということが建物の構造設計における安全性の可否の分かれ目になるので、ここは重要なポイントです。

過去の記事をご参照ください:
「伝統構法の復権 vol.5 探ってみよう、伝統構法の底力」
層間変位角、変形能力と復元力特性など、伝統構法の構造的な特徴を解説しています。

「伝統構法の復権 vol.4 新潟地震調査ボランティアの報告?被災住宅に見る古い道理と新しい道理 」
新潟県栃尾市半蔵金の被災住宅に、伝統構法の粘り強い構造の原点を見る!

壁量計算ではなく、限界耐力計算で構造計算をすることで構造安全性を証明する道もありますが、そのハードルがとても高くて困る、ということは前項でも触れました。壁量計算にかわる評価法が求められています。国交省では、2008年度から、伝統木造住宅の性能検証・設計法構築事業が来年度までの3カ年事業で進めています。伝統木造の性質に合った、実務に使える方法ができるとよいのですが。


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