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「伝統木造のこれから」住宅瑕疵担保責任保険、伝統構法の扱いは?


問題の焦点は「真壁づくり」

保険に入れない??

「声をあげずにいれば、保険への加入や検査できっと問題が起きる」と感じたつくり手たちは、2008年12月頃から、自分たちが実践する木の家づくりと、保険法人の設計施工基準とがどう折り合わないかを具体的に洗い出す作業を始めました。

年が明けて2月には、2009年10月引き渡し予定の、ある物件が着工前の保険法人との交渉に入りはじめました。石場建て、土塗り壁、木製建具使用の伝統構法の住宅です。つくり手と保険法人との交渉の経過について木の家ネット内のメーリングリストやスカイプ会議で報告がありましたが、やはり交渉は難航。ある保険法人では「真壁では引き受けられない」と言われ、別のところでは延々と「回答待ち」の状態が続きました。

一方、強制加入を推進する国交省では「工法によって保険に入れないケースがあってはならない」と保険法人を指導「引き受けない保険法人があれば、報告してください」と、建築業者のための相談窓口まで開設しました。このつくり手はこの物件が進まないことを訴え、保険法人の基準作成担当者が現場にまで見に来ましたが、それでもなかなか事態は進展しません。

設計施工基準にないつくり方をする場合:
「3条申請」の実際

保険法人の設計施工基準によらない住宅を建てる場合にどうするか、設計施工基準の第3条に記載があります。

(本基準により難い事項) 第3条 1 第二章、第三章及び第四章に定める条項の一部において、当該事項により難い事項があり、財団法人住宅保証機構(以下、「機構」という)が本基準と同等以上と認めた場合は、本基準の該当する条項を適用しないことができる。

2 前項に定めるもののほか、本基準で予想しない建築材料又は構造方法を用いる住宅について、機構が 保険契約上、引受けることができると認めた場合は、本基準を適用しないことができる。

分かりにくい文章ですが、噛み砕いて説明した「3条確認の解説」という書類があるので、こちらをご覧ください。

第3条の1は「基準の工法と違っていても、性能は満たすととらえる」つまり「基準工法同様、保険金はおりる」というケース(これを「適用除外」と言います)、第3条の2は「構法特有の性質として、施工に問題が無くても(雨漏りなどの)不具合が生ずるので、保険金はおりない(保険会社はその項目について「無責」)」というケースです。「3条確認の解説」では、具体的に「丸太組構法(=ログハウスのこと)、伝統的な構法がこれに該当する」と明言しています。

「適用除外で保険金支払い」か「無責で保険金の対象外」かを保険法人が判断する手続きは「3条確認」と呼ばれ、次のフローによります。申込者が確認図面などをもって窓口に相談しに行くと、その内容が保険法人にあがり、そこで第3条の1にあたるか2にあたるかを判断、その結果を「3条確認書」として窓口を通して保険申込者におろします。この確認書に「この項目は適用除外、この項目は無責」となると判断した理由が書かれています。双方が納得したところで、保険申込の手続きへと進みます。


3条確認の仕組み(設計施工基準第3条解説)
出典:財団法人住宅保証機構のサイト内の「設計施工基準」よりリンク

今回の事例でも、かなりの時間を経て保険法人から「3条確認書」がおりてきました。確認書に構法特有の事象として「基礎の浮き上がり、水平移動に伴う礎石と柱のずれ」「サッシ下端からの雨水浸入」「真壁の土壁と柱や梁との間からの浸水」「土壁のひび割れからの浸水」が想定される、と指摘してありました。伝統構法の構造性能、防水性を「低め」に捉える保険法人の認識が浮き彫りとなった評価で、このつくり手は確認書に納得できない部分を指摘し直して保険法人に戻しました。

構法特有の事象として指摘された項目が「適用除外」なのか「無責」なのか。この件の最終的な結論は、いまだに出ていません。保険契約が成立する竣工時までには保険法人は結論を出すのでしょうが、保証内容が決まらないまま保険申込が受理されているというのも、おかしな話です。現場は進んでいるのに、保険法人側が伝統構法を知らないために答が出ず、先送りという状態が、今も続いています。

質問書と提案書を作成
それに対する保険法人からの回答

こうしたやりとりの傍らで、5/14の勉強会の下準備として、伝統木造の家づくりと設計施工基準とがかみあわない部分を表形式の質問事項にとりまとめ、保険法人になげかける作業が進められました。勉強会の前日に、保険会社から戻ってきた回答を含め、どうぞ保険法人に提出した質問書をご覧ください。

回答欄の多くに

「設計施工基準は一般的に多く用いられている工法・材料等を想定して制定しております。「古来からの技法を一方的に防水性がない」と決して決めつけてはおりません。同様の事例については3条確認で取り扱っております。

一般的に真壁は、その構造上、柱や横架材と壁との取り合い部分に隙間が生じやすく、採用された工法に伴い通常生じうる雨水の浸入は事故に該当しないものとしております。瑕疵にあたるかどうかの判断は、個別、具体的な事象により判断されることになります。


という文章が繰り返されるのが印象的です。

表形式の質問事項と別に、つくり手側からの5項目の提案もあげました。要点をかいつまんでいうと、次の通りです。

  1. 伝統構法の扱い以前に、設計施工基準の内容整備そのものが不十分。
  2. 真壁だと漏水に決まっているから「無責」というのは、単純すぎる。軒の出、庇などで漏水を回避する工夫をすれば、日常的な雨風での漏水は回避できる。台風時も濡れてはまた乾くという繰り返しで、もっている。
  3. 真壁を最初から無責とするのであれば、応分の保険料減額があってしかるべき。
  4. 施主との信頼関係をもとに、まじめに仕事をし、保険がなくとも不具合には当然対応してきている者が、瑕疵を起こす者のために保険料を払うのは不本意。
  5. 住宅の売り買いの場合は強制加入も納得できるが、工事契約の場合は任意でもよいのでは?

当日の進行と主な要点

5/14の勉強会は、質問書、意見書をもとに、第一部は国土交通省住宅局住宅瑕疵担保対策室の豊嶋太朗氏が、第二部は住宅保証機構技術管理部長の大澤敏明さんが中心となってお話くださいました。

第一部で国交省の豊嶋さんは「保険法人には伝統構法もどんどん引き受けるよう指導している」と繰り返し言っておられました。そして、伝統構法についての仕様を蓄積するためのアンケート用紙を会場で配っていました。


会場で配っていた回答例 クリックすると5枚を順に見ていく事ができます。

国交省住宅局住宅瑕疵担保対策室では「伝統的構法における雨仕舞の仕様・工法について」調査をしており、住木センターを通して実務者に協力を呼びかけています。1件あたり謝礼一万円!ダウンロードして、書いて、送りましょう!あなたの声が、伝統木造の未来を拓きます。書き方のサンプル(815KB)はこちら回答用紙はこちら(188KB)。送り先、締切等、詳しいことはニュース欄でご確認ください

また、瑕疵は出さなくても倒産、廃業という危険性がないといえないので「顔の見える建設業者だから保険加入は任意」とは単純化できないと断りながらも「まじめにやっている=瑕疵の少ない業者」や「瑕疵のでにくい工法」について、保険料の割引などを考えてもいいはず、現場検査が確認申請の検査と兼ねられるように合理化したいなど、積極的な姿勢を示していました。

第二部で住宅保証機構の大澤さんは「皆さんに手間はとらせませんので、設計施工基準にないことはどんどん3条申請してください」「3条申請を出していただくことで、われわれも伝統構法を勉強させていただいています」ということをさかんに言っておられました。より詳しいやりとりについては、当日の記録をご覧ください。

問題の焦点となっている真壁づくりを
なぜつくり手は採用するのか

質問書や提案書、保険法人からの回答、そして当日のやりとり。どこでもグレーゾーン(適用除外とも無責ともまだ決まっていない)となるのが「真壁づくり」です。では、真壁づくりを採用するつくり手はなぜ、そうするのでしょうか?

 

新建材の家では、外壁に防水性の高い素材を使いますが、木と土壁の家では素材そのものが水分を含んだり、放出したりする性質をもっています。これを木や土の「調湿作用」と呼びます。防水という尺度だけで測れば「自然素材は新建材より劣る」評価になってしまうかもしれません。しかし、新建材の場合、雨水は確かに表面を流れ落ちますが、新建材が劣化して中に雨水が浸透すれば、中に入った水分を吐き出すようにできていないため、湿気が内部でこもり、結露、蒸れ、腐蝕の原因ともなります。


総2階で内外土塗り真壁で1階の雨がかりが心配かな、という場合は、1階を板張りにするなどします。

一方で、木や土の調湿作用があるおかげで、湿気がこもる問題がないだけでなく、室内の空気はエアコンや24時間換気なしでも、梅雨にはさらりと、冬にもカラカラになりすぎない状態に保たれます。こうした「自然な住み心地」という長所を生かすために、水を含む=水の浸透という短所を、さまざまな知恵や工夫でカバーするのです。具体的には、軒を深くして雨がかからないようにする、2階建ての1階部分など軒でカバーでしきれないところは下見板張りにする、土壁の下部に板金で水切りをつけるなど。防水シートを使う場合でもアスファルト系ではなく、水は通さずに湿気(水蒸気)は通す「透湿防水シート」を選びます。

このように、建物のつくり、土地の気候や風の方向性などに応じた施工法を選択することで、雨水の浸入は、通常の雨程度ならきちんと防ぐことができます。万一、台風で雨水が浸入することがあっても、台風一過の強い陽射しで、水分は一日で放出されます。「真壁づくりを望む施主には、台風の時に柱と土壁の間からの雨水浸入の可能性をあらかじめお話します。台風直後と、台風一過2日後の状態の写真を並べて見せた上で、真壁を採用するかどうか、本人に判断してもらいます」と、あるつくり手は言います。しかも「最初の台風の直後には電話して様子を訊き、雨水の浸入があれば必ず見に行き、説明」というフォローもしているそうです。「瑕疵保証責任」というほど大げさなことでなく「つくった家を守る責任があるのはあたりまえ」という感覚でそうしているのです。


左は台風の当日。柱と土壁の間から水が浸みている。右は、数日後の様子。すっかり元通りに。  

真壁づくりや木製建具は
雨水の浸入がありそうだから「無責」!?

「真壁づくりであっても、雨水の浸入を受けにくいような施工をきちんとしていれば、通常の雨での浸水はない」と言うつくり手。「一般的に真壁は、その構造上、柱や横架材と壁との取り合い部分に隙間が生じやすく、採用された工法に伴い通常生じうる雨水の浸入は事故に該当しないものとしております」という見解の保険法人。両者のとらえ方には、まだまだ開きがあります。


台風の時の雨水浸入の様子。横殴りの大雨だと、このように木と土壁の接面にしみがでることがあります。けれども一週間程経つと、土壁のしみは乾いてほとんど見えなくなり、壁内の木部もきちんと乾燥します。

「真壁であっても、台風の時しか雨水の浸入は受けない」としましょう。台風で雨水の浸入があったとしても、もともと台風は「重要事項説明書」にある「免責」のケースにあたり、工法にかかわらず保険金は支払われません。「通常の雨では、雨水の浸入はない」のだから「真壁づくりは無責でしょう」とするのは矛盾するのでは?というのがつくり手側の主張です。もちろんここでは「きちんとした施工」が大前提となります。「きちんとした真壁施工とは?」という最低限のラインを示せれば、それが「瑕疵」を生まないための設計施工基準となるのでしょうが、保険法人にはそこまでの判断基準がないために「まとめて無責」と安全側にとってしまうのです。

勉強会で保険法人の見せた姿勢は「伝統構法は、不案内な部分も多く、想定外の工法扱いとせざるを得ないのが現状。みなさんの方からあがってくる申請内容を見ながら、勉強させていただきます」というものでした。伝統木造についての情報がないために「真壁=雨水浸入=無責」と現状では言ってしまっているが、本当はどういうつくり方をすれば「通常の雨での雨水の浸入を防げる」のか(=瑕疵を防げるのか)ということまで分かった上で、伝統木造についての基準もつくっていきたい。そのために「みなさんから上がってくる3条申請でまずは情報収集を」というのが、保険法人の今のスタンスのようです。

これで本当に10月から施行するの?

保険法人が「通さないぞ」という強面ではなく「きちんと保険対応します」という姿勢であることが分かり、ほっとした面もありますが、一方で「これから勉強するという状態での10月からの本格施行にはかなりの無理がある」という感触は残りました。

そもそも、日本に古来からある工法が設計施工基準では「想定外の工法」となってしまうということ自体が、どこかおかしい。住宅瑕疵担保責任保険がなくても、不具合が発生すれば現場に飛んでいって直すのがあたりまえと思っているつくり手や、新建材ほどの防水性の高さがないことは納得して真壁を選ぶ施主には、何がこの保険制度のメリットといえるのだろう…?という気持ちは、ぬぐいきれません。

住宅瑕疵担保責任保険が「なくてはならない」ように言われる今の時勢に対するつくり手の思い、そもそもつくり手と施主の関係性は?と、今回のコンテンツに書ききれないことがたくさんあります。また機会をあらためて別の形でお送りしたいと思いますので、どうぞお楽しみに!


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