なぜ、この保険ができたか
2000年、10年間の瑕疵担保責任を
義務づける品確法施行
話は2000年にまでさかのぼります。この年「工務店・住宅メーカー・分譲住宅会社などの住宅供給者が、新築住宅の瑕疵保証を10年間にわたり行うことを義務づける新しい法律(品確法)」が施行されました。
「瑕疵」とは日常ではあまり使わない言葉ですが、「かし」と読みます。「ある物に対し一般的に備わっていて当然の機能が備わっていないこと。あるべき品質や性能が欠如していること」を指します。たとえば、コップには「水を入れても漏れない」のが、「一般的に備わっていて当然の機能」として要求されます。それが水を入れると漏るようにできていたらそのコップには「瑕疵」があることになりますね。コップだったら「交換」ができますが、家の場合はそういうわけにはいきませんので、瑕疵のある部分を「補修」することになります。
こうした「瑕疵担保責任」が住宅のつくり手(分譲住宅においては売り手)にあるのは、いわば当然のことのようですが、このモラルが守られない場合もあり、それが「欠陥住宅問題」を生んでしまったので、あえて法律として「最低10年間は、つくった住宅の瑕疵について住まい手に対して責任を負いなさい」と明文化したわけです。(ただし、品確法の瑕疵担保責任は住宅のすべての部分にかかるのではなく、構造躯体と雨水の浸入についてのみです。設備機器や仕上げ材などはそれまでどおり、民法での扱いとなっています)
品確法では10年間の瑕疵保証の義務づけのほかに、消費者の求めがあれば10~15万円程度で公的機関に住宅の評価をしてもらえる「性能表示制度」、住宅紛争処理機関として住宅リフォーム・紛争処理センターの設置も定めています。企業の競争原理のもとで、住まい手にとっての住宅の質よりも住宅産業の利潤が優先されがちになることに歯止めをかけようという国の施策でした。
2005年、構造計算書偽装問題が発覚
瑕疵担保責任が果たされていない現実があらわに
品確法は施行されましたが、住宅を取得した消費者は守られたでしょうか? みなさんの記憶にも新しい「構造計算書偽装問題」で、消費者が守られないケースがあることが露呈してしまいます。
簡単に経緯をおさらいしてみましょう。2005年11月、ヒューザーというデベロッパーの分譲したマンションに構造的な欠陥があることが分かりました。この欠陥はそのマンションを設計した設計士が構造計算書を偽装していたことにより、本来必要な構造性能をもたないマンションが何棟もできてしまったのです。そのため、建て替えを含む大規模な補修が必要となり、多額の費用がかかることになったのですが、それをデベロッパーの財産ではまかなうことができず、被害者であるマンションを購入した人にその負担がかかることになってしまいました。
そのマンションの住宅ローンもまだ払い終えていないのに、建替費用の負担まで背負い込んだ住まい手の姿に、いくら品確法で瑕疵保証の責任がつくり手や売り手に問われていても、つくり手や売り手に責任を負うだけの財力がなければ、ツケは住まい手にまわる、ということが印象づけられた事件でした。
国土交通省では、この構造計算書偽装問題事件で浮き彫りにされた問題の再発を防ぐために、2007年の建築確認・検査を厳格化する主旨の建築基準法改正、建築士法における4号特例の廃止案(それまで、4号建物といわれる小規模な木造住宅を建てるにあたり、その構造適合性についての判断は設計士にまかせるという特例があったのをやめようという案。まだ案止まりのまま)、罰則の強化など「きっちりするぞ!」対策を多面的に行いました。
2009年10月、住宅瑕疵担保履行法の施行
つくり手側への姿勢を厳格にする一方、消費者保護の側面も強めることを国は決めました。「よくわかる新法解説ガイド『瑕疵担保履行法』」(監修:国土交通省住宅局住宅生産課/総合政策局建設業課・不動産課 発行:財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター)にはこうあります。「住宅品質確保法により、売り主等に対し、10年間の瑕疵担保責任が義務づけられたが、売り主倒産時にこれが履行されず、住宅所有者がきわめて不安定な状態の置かれた」そこで、「住宅の売り主等の瑕疵担保責任の履行の実効性を確保するための保険や供託等のしくみを活用した資力確保措置の義務付け」を行うことにした、と。こうした流れにより、国会での審議を経て、2007年5月「特定住宅瑕疵担保責任の履行確保等に関する法律」が公布されました。
これは、10年間の瑕疵担保責任が履行できる「資力確保」をつくり手・売り手に義務づけるもので、具体的には、2009年10月1日以降に引き渡される住宅に関して(1)一定の保証金の供託(一戸の場合、2000万)または(2)瑕疵担保保険への加入のどちらかをしなければ、着工できないということになりました。これでようやく、品確法がめざした「瑕疵担保責任が履行される」道筋が具体的に確立した!わけです。