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木の家ネット第六期総会・三重大会レポート


車座で語り合った夜の分科会

三重大会のもうひとつの目玉企画が、「夜の分科会」。午後9時から4つのテーマごとに部屋に分かれて、侃々諤々お酒の勢いも加味されながら腹を割っての話が繰り広げられました。深夜12時を越えるころまで深くふかく話が続けられ、翌朝眠そうな目をこする参加者たちが多く見られましたが、そんな中にもどことなくすっきりとした雰囲気があり、年に一度の顔を合わせる場ということで、普段抱えている問題や個人的に考えていることなどをぶつけあう、よい機会となったことがうかがわれました。それぞれの分科会で語られたことの概略と翌日のプログラムについてご報告します。

第1分科会:「木材の流通について」(座長:田上紘吉@田上材木)

現在一般的に出回っている木材は100℃を超える高温の機械乾燥が主流になっているのですが、この木の家ネットには日本各地で地元の杉・檜・松などの木を自然乾燥させている林業や製材業の会員が多いこともあり、使う側の大工や設計側からの意見を交えて活発に話し合われました。

コスト的には外国産の木材に押されている現状の中で、国産材なおかつ余計なエネルギーコストをかけない自然乾燥材を多く使っていくには、さまざまな工夫がいるようです。

ただ数字ばかりの乾燥度を追うのではなく、大工が使いやすいくらいのもの、住んでいて気持ちのいいものをつくっていくことがこれからの時代必要とされること。そして和辻哲郎の「風土」をとりあげてその土地土地の気候風土に合った材料を使うことがもっともふさわしいのではないかという意見が交わされました。

第2分科会:「住まい手の求める家とつくり手のつくりたい家」(座長:中村武司@工作舎)

家づくりを進めていくときに多く見られる兆候として、際限なく膨らんでいく住まい手(施主)の要望となかば強引に自分のつくりたいようにつくろうとするつくり手(大工・設計士)のエゴがぶつかるということがあります。普段の仕事の姿勢を反省もしながら大工・設計士のそれぞれの思いと施主とのギャップを出してもらい、そして7年前に自宅を建てられた松阪市に住む中村さんご夫婦をお招きし、住まい手の立場から家づくりを振り返ってもらいました。

奥様のほうから建設の際に出された具体的な要望と出来上がった結果に対しての反省などの話があり、参加した会員が実際直面した実情も交えて、意見の食い違いにどう対処していったかという意見が交わされました。

雑多な住まい手の要望の中には勘違いや全体のバランスから見て不必要なものもたくさんあり、そういった情報を整理して必要十分な木の家をつくっていくのがつくり手の本分であるということ。ただ住まい手がそこまで求めていないのに・・というつくり手の自己満足をしないようにという気持ちは忘れてはいけないようにという自律の念はもちたいものです。そして「信頼関係」を早く築くことこそ良い家作りの秘訣だという結論に達しました。

第3分科会:「職人と設計士のかかわりについて」(座長:池山琢馬@一峯建築設計)

住宅建設の現場では往々にして大工などの職人と設計士がぶつかることがあります。普段は表に出さないで影でこそこそ陰口を・・・という話も聞きますが、ここは「木の家ネット」ですからお互い正面から意見を戦わせてみましょう。という企画です。お酒も程よく回って活発な意見が飛び交っていました。

コスト的に、技術的に無理を押し付けてくる設計士もいて、泣かされている大工や工務店もある現状を現場側の率直な意見が次々と出されました。施主も巻き込んでのトラブルもあるようでそれぞれの職能において立場が違うだけに思いも違うようです。

ただ参加した設計士と大工たちの間では極端に意見が違うことはなかったようです。良い木の家づくりをするには「よい大工」と「よい設計士」とがチームを組むことが必要で、住まい手も含めての「信頼関係」をもちお互いの立場を理解し尊重する事が一番大事であるという話となりました。設計者(描く人)、大工(つくる人)、施主(お金を出す人)のだれがエライということでなく、三者がフェアに役割を果たして最後には「みんなよかったね」と終われる関係になれたらいいね、という声も上がりました。

第4分科会:「左官の立場から家づくりを考える」(座長:松木憲司@蒼築舎)

木の家ネットには日本各地の左官職人さんがいますが、賓日館で発表したさまざまな左官技術を見た後でもあり、元気さあふれる話し合いとなりました。左官は古くから確立されている伝統的な技術でありながら新建材の出現で、一般的な住宅現場ではあまり見られなくなってきています。しかし昨今健康志向の自然素材を使ったライフスタイルが求められるようになり、左官仕事が再び求められるようになってきました。

会員の左官のメンバーは皆本物の技術をもっている職人たちで、それぞれ地方によって技法や材料の違いはありますがそれぞれが交流し合い、技術の研鑽をしているようです。割った竹を網状に編んでつくる「木舞」を下地に土壁をつけていくことは今では珍しいかもしれませんが、そういった仕事を普通にしながら木の家の本来の姿を求めているようです。

たくさんの技術的な話が出されそれに聞き入る大工や設計士たちでしたが、ここでもよいチームワークが必要なこと、また水を多く使うため雨季乾季や気温の寒暖など季節を考えて家づくりをしていかないといけないということを改めて思いました。また、現場に職人の「粋(いき)」を残してくるのが左官の仕事であるという言葉が印象的でした。

二日目のプログラム:「木の家ネット」のこれからに向けて

二日目の朝は総会です。会計報告が衣袋和子さんからあり、事務局の持留さんから運営状況の説明がありました。あわせて設立から五年経ったという事で「木の家ネット」の心である主旨文が皆の前で朗読されました。サイトの奥のほうにも書かれていることなのですが、あまり読まれることもなくつい忘れがちなものですが、仲間や施主とともによい木の家づくりをするために肝に銘じておく大切な言葉を改めて心に置くいっときでした。

朝方からの鉛色の空は旅館を出るころにはぽつぽつと降り出し、伊勢神宮内宮に着くころには本格的な雨となりました。まずは、神宮内にある松下幸之助氏が寄進された茶室の見学。回遊庭園をまわりながら洗練された姿を楽しみました。十分に水を吸ったスギゴケがとても美しく、参拝客で賑わうすぐ横で静けさを堪能しました。

社殿参拝を終え、神楽殿に移動して「木の家ネット」と会員ひとりひとりのこれからの発展を祈願してご祈祷の神楽を奉納していただきました。ほの明かりの中、黒光りする檜舞台の上での舞いはこの伊勢ならではの幻想的な情景で、三重大会の締めくくりにふさわしい演出となりました。正午を過ぎ、実行委員長の有機的建築晴吉の田上晴吉さんから、全国から足を運んでもらったお礼と、来年の徳島での総会にエールを送りながらの傘を差しての散会となりました。

その後、雨に濡れた石畳が続く参道からおはらい横丁へ。会員は思い思いに伊勢の味を楽しみながら、全国各地の家路につきました。じゅうぶんに水を吸い込んだ草鞋を脱ぐころ、それぞれの「旅の想い」がまた一段としみわたる夜であったことでしょう。


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