石場建てにかかる費用を解剖!
石場建ての坪単価がそれなりに高いわけ
ヨハナ ところで、石場建ての家って、コスト面で大変ということをよく聞きます。予算が決まっているのに、大工さんの持ち出しがちになってしまうというような話も。なかなか具体的には語られないそのあたりを、ぜひ突っ込んで聞かせてください!
川端 (川端建築計画 川端眞)土塗り壁に石場建てだと、どうしても、施工の工数がかかるんですよ。
ヨハナ 乾式工法と比べて、土塗り壁に費用がかかるというのは、小舞を編んで、塗っては乾き待ちという工程を何回か繰り返すわけですから、分かるんですけれど、石場建てであることで、どのような工程が増えるのですか?
川端 石場建てにする場合、石に載っているだけの柱同士が地震の時にバラバラに動いしまっては困るので、建物がある程度一体となるよう、柱同士を「足固め」と呼ばれる材で、横に縫うような形で必ずつなぎ合わせるんですね。

ヨハナ なるほど。柱ごとに、足下近くでこの「足固め」を設ける。となると、木組みですから、仕口加工が必要になるというわけですね。
川端 ちょっと想像してもらうと分かると思いますが、上下左右、直交する位置で隣り合う、周りの柱すべてから、足固めが刺さってくるわけです。となると、建物の隅にある柱では接合部が二方差し、外周なら三方差し、内側なら四方差しになるわけですよ。
ヨハナ なるほど。土台敷きだったら、土台側に柱を真上から受ける仕口が一カ所あれば済むし、簡単に済ませるなら、加工が楽な蟻継にしたって成り立つ。けれど、石場建てとなると、足固め部材の先端を柱に刻んだホゾ穴に通して、その向こう側にある足固め部材ともクサビでつなぎ合わせて・・と、複雑な形状になりますよね。
川端 柱にもそれだけの断面欠損が出ますから、それなりの太さが必要となります。水野さん宅では四方差の柱は6寸角にしています。
大工にとって、石場建てとは?
宮内 寿和(宮内建築)
石場建てって、やってる人がなかなかおらんから、やろうと思ったらいろんなハードルがあるし、実際、手間もうんとかかるんやけど、それでも、大工としてはやってみたいものなんですわ。やればね、大変なのに、不思議ですよね。けど、実際にやってみるとね、普通の布基礎の上にでんと横に寝かせた土台に柱を差すような建物の時とは、まったく違う感覚になる。これにハマるんやなあ。
石の上に柱をトンと直接建てる時にね「ああ、日本の家って、これなんのやな」と実感するものがあるんですわ。木のいのちを使わせていただくという大工の心もちからすれば、重たいコンクリートに横に寝かせた土台に柱を縛り付けるんでなしに、木がかつて山にあったのと同じように、立てて使いたい。諏訪には御柱を立てる風習があるけど、柱を立てるというのは、そこの土地の神様にちょっとこの場所に住まわせてください、という自然に対する謙虚さのあらわれというような意味もあるんやと思う。
このあいだの大震災の津波の跡には、住宅が並んでいたあたりに基礎のコンクリートだけが残っている光景が広がっていたけどな、あれは、建物はコンクリート基礎の上に建てて、地面と緊結するという風に法律で定められて以降のもんなんよね。石場建ての家は、住まなくなったら、土地をけがすことなく、跡形もなく片付けられる。「やがて無になる、朽ちてく美しさ」というようなこの感覚が、大工にはピーンとくるんですわ!
ヨハナ 柱が基礎の石に直接のっかるのだから、土台敷きの場合よりは、柱の長さも長くなりますよね?
川端 全体で見ると、木材の量も増えますし、柱や梁を覆わずに目に見えるようにする真壁づくりになると、材を加工する大工手間も含め、坪あたり10万はアップになりますね。基礎石が自然石で、柱の足下にひかりつけが必要となれば、なおさらです。
水野さん ひかりつけって?
川端 石の表面が平らでない場合は、柱の足下を、石の表面の形状に合わせて加工しなければならないでしょう? それをひかりつけといいます。

水野さん うちの場合は、ベタ基礎の上にタイル状の石を並べたので、そこまではないですけどね。
ヨハナ ほかに、通常の確認申請のルートには乗らない石場建ては、構造適合性判定(以下、略して適判)という手続きに出さなければならないのでしょう?
川端 適判にまわった場合には、審査料だけで18万円ほどかかります。適判に提出するための計算書が、A4の用紙を積み上げて厚さ3センチぐらいあって、それを作成する費用も、ぼくがもらう設計料に上乗せとなります。ぼくの場合、限界耐力計算という構造計算も自分でするので、石場建てという時点で通常の設計料プラス20万円をお願いしています。
ヨハナ 建物そのもの以外にも、いろいろかかってくるんですね。
川端 だから「小さくまとめましょうよ」とぼくは言うんです。それで狭苦しい感じにしなければいいんですから。ただ「18坪の家」と聞いたら「せまくて4人家族は無理やろ」と思うのが普通でしょう。けれど、それをそうじゃなくすることだってできるんです。
ヨハナ そこがまさに「設計の妙」なんですね。水野さんのお宅は18坪ですが、室内と屋外とをゆるやかに結ぶ「縁空間」や、吹き抜けにロフト、三方にあるデッキなどといった設計のおかげで、建坪以上の空間のゆとりを感じます。
川端 生活上必要な空間が確保されていれば、それが必ずしも「部屋」である必要はないんですよ。水野さんの生活感覚も「シンプルでいい」という基本からブレていないところがあって「こんだけで、ええやん」とおっしゃる。そこが合致してこの「18坪の石場建て」が実現したんです。

水野さん 打ち合わせが進んで、最初に工事費の見積もりが出た時には、それはドキっとはしましたよ。ああ、やっぱりこんだけかかるんだ、って。けれど、冷静に考えれば、総額としてみれば、普通にハウスメーカーで新築したって、よっぽどのローコスト住宅でもなければ、1800万はかかる金額でしょう? それで土壁も石場建ても実現できるなら、いいじゃないか!と。
ヨハナ 単価100万と聞くと目が飛び出しそうな金額ですが、総額1800万なら出せる範囲、という方は、少なくないでしょうね。
川端 坪100万!されど工事費総額1800万!その総額を用立てられれば、実現はするんです。
水野さん それで、この住み心地ですからね!部屋数が一つ二つ多いよりも、ずっと心地よい暮らしができていると思いますよ。

石場建ての家での
日々の暮らしに感謝
ヨハナ 日々暮らしていて「石場建てでよかった」ということはありますか?
水野さん いや〜、普段は特に意識しないですね。床下に下駄箱ができるとか、植木鉢なんかをしまえる?という位でしょうか。
ヨハナ 安心安全というのは、その意識しないで済むぐらいがいいのかもしれないですね。
水野さん むしろ、日常的には、無垢の木のよさというのが大きいです。木の香りや床が足にあたるやわらかい感じなどがよくて、入居したての頃は「こんなに幸せでいいのだろうか?」とおそれ多いぐらいでした。慣れてきた今でも、木の床を拭き掃除しながら「ああ、幸せだな〜」としみじみ思いますよ。
川端 その幸せが、ずーっと長く続くというのが、無垢の木の家のよさですから!木の色に深みが出てくるよさを、年々かみしめてくださいね〜
水野さん ほんとにね。こんな家づくりがあることを、みなさんにぜひ知ってほしいです!
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