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工務店・西條正幸さん(ビオプラス西條デザイン):北海道で無垢の木の家づくり


誰もが「安心して住める家」づくりへとシフト

一番身近で大切な家族のことがきっかけになって取り組んだ無垢の木と自然素材の家づくり。手がけてみて、これこそ、今後やっていくべき仕事だ、という確信をもつに至ったのです。「『住宅は病んでいる』ということを、子どもが身をもって教えてくれたような気がして、病んでいない家、本物の家づくりをしようと決めたんです」

Bio(ビオ)とは、体と健康にやさしいオーガニックな自然派商品の意味。「厳選された自然素材だけを使用し、 人も地球も元気になる、ナチュラルライフスタイルを目指します」ということを打ち出し、無垢の木と自然素材による家づくりを始めた西條さんのところには、シックハウス症候群、子どものアトピー、電磁波障害など、さまざまな側面において「病んでいる家」のために苦しみ「安心して住める家」を求める人がやってくるようになりました。

過敏症の伊藤さん宅を訪れてみました

ビオプラス西條デザインで家を建てた、札幌市の伊藤さん

西條さんに頼んで札幌市に家を新築した伊藤さんもそのひとりです。伊藤さんは、電磁波、化学物質、電気など、現代の暮らしを便利にしているさまざまなものに、身体が反応し、数々の症状を引き起こしてしまう強度の過敏症です。「夫の仕事の関係で、いくつか官舎を転々としてきたのですが、いつもイライラして調子が悪く、そのうち歩くのもつらいほどになってしまいました。病院に行っても『何でもない』と言われ、精神科では欝病と診断され、出口のないような日々が続きました。情報を集め、勉強していくうちに、電磁波が原因かも?と思い至るまで、長い道のりでしたね」

伊藤さんの場合、携帯電話や電子レンジだけでなく、家庭内の電気にも反応がでました。「ある日、ブレーカーを落としてみたら、うんとラクになったんです」電話を黒電話にし、蛍光灯をやめ、使う電気製品を必要最小限におさえていくうちに、症状が軽くなっていきました。「誰に頼めば、私達が安心して暮らせる家をつくれるのだろうか?」伊藤さん家族が家づくりを考え始めた時にもっとも悩んだのがこの点でした。「私達家族のライフスタイルを理解してもらえるつくり手を探すのに、苦労しました。雑誌や本で見ると『なんとなく自然っぽい』というところはたくさんあるんですが、実際に会って話してみると、徹底していないことが多く、あきらめかけていたのですが・・・」

家づくりだけでなく
暮らしをトータルに考える

ある雑誌を通じて「化学物質を最小限にした家づくり」を掲げる西條さんに、ようやくゆきあえた。「素材にこだわる。自然に還るもの、ゴミを出さないものしか使わない。北海道の木を使う。ご自身も畑をやっていて、食べ物にもこだわっている。そんな西條さんの、暮らし全般にわたる本物志向にピンときたんです」

西條さんは、ご自身でも有機農法やパーマカルチャーを取り入れた畑をやっていて、シーズンには畑で一仕事してから出勤するのが日課です。自分が種まきや収穫の記録をつけるためにつくった「菜園生活」という手帳やカレンダーまでつくってしまいました。じつはこれが、ビオプラス西條デザインの隠れたベストセラーでもあります。北海道新聞で「自然派菜園生活〜農を楽しむ西條さんの菜園だより」も連載していました。

ビオプラス西條デザインの制作物たち。

西條さんにとっては、家づくりと菜園とは、別のものではありません。暮らしをデザインする一環として、家も庭も菜園もエネルギー循環も、すべてがひとつながりのことなのです。伊藤「一粒の種をまくことから、環境のこと、生きもののことを大切に思う心と、地球の裏側のことまで考えることができる自分づくりに役だっているようです」と西條さんは言います。伊藤さんが「徹底している。この人ならば頼れる」と感じたのはその点だったのでしょうし、伊藤さん自身も単に電磁波障害をわずらっているだけでなく、こうありたいという暮らしをもっているからこそ、西條さんとの出会いが、より実りあるものになったのではないかと思います。

アカシアの林にいだかれたレトロな木の家

札幌市の中心部に隣接しているとは思えないほど緑に囲まれた伊藤邸

円山公園のすぐ近くまで、家がびっしりと立ち並ぶ住宅地のいちばん奥に、伊藤さん宅があります。すぐ後ろは、ミズナラやアカシアの林。「ここが札幌市内なの?」とつい錯覚してしまうぐらい、森のおもかげがある敷地に、落ち着いた色の、2階建ての木の家が建っています。

玄関

玄関をあけて室内に入ると、アンティークの扉、ステンドグラス、アイロン、電気スタンド。家の中に入ると、昔懐かしい、あたたかみのあるレトロなものたちが、木の住まいにぴったり調和して、やさしい雰囲気を醸しだしている。「古道具が好きで、ずっと集めてきたんです。小物はまだしも、ガラスや建具など、本当に使える日が来るとは見えていないうちから、きっといつの日か・・と思いながら、集めていました。西條さんのおかげで、ひとつひとつをこんなに素敵に生かしていただけて、本当に嬉しいです」

伊藤さんが好んで集めてきたものは、彼女を過敏症で苦しめるもととなる化学物質や電気、電磁波とは無縁なものばかり。工業製品としてではなく、手づくりで丁寧に作られたものには、ステンドグラスのハンダにも、ストーブ置き場のタイルも、手作業の跡を感じさせる味わいがあります。「こういうものだけで、昔は暮らしていたんですよね」電気製品を極力少なくすることで、家の中に飛び交う電磁波をカットしている伊藤さんは、照明以外には、掃除機、洗濯機、ビデオデッキぐらいしか使っていません。台所には昔ながらの氷で冷やす冷蔵庫だけがあり、常時通電させておく必要のある冷蔵庫は外の物置きに置き、回路も母屋と別にしています。そして、夕方、暗くなるまでは母屋のブレーカーは落としておきます。

母屋に置かれている電気を使わない冷蔵庫

素材を厳選し、電磁波を生むおそれのあるコードなどはシールドで被覆し、電気も必要最小限におさえられるように考え、施工した新居で、体調は随分楽になったそうです。しかし、大好きな古きよきものたちに囲まれた伊藤さんの暮らしぶりには「電磁波過敏症に悩んでいる人が、工夫してそれを乗り越えた」というだけでない、もっと豊かなものが感じられるのです。「不便というのとはちょっと違うんです。むしろ、本来あるべき暮らしの姿に戻っていってるんじゃないかなと感じています」と伊藤さんは言う。足踏み式のミシンでゆっくりと縫い物を楽しみ、太陽の運行のままに暮れなずむ光の中で静かに暮らす伊藤さんは、便利さを享受する「今どきの暮らし」の中で現代人が鈍らせてきた感覚を鋭くもっているのかもしれません。

徹底しているところ、本物志向が
西條さんとの家づくりをするきっかけ

「伊藤さんの過敏症に対策をとれる家づくりをしたのは当然の前提条件ですが、それだけでは、この家は建ちませんでした。これこそが『自分たちらしい家』と思えるような家づくりをすることを、なにより大切にしました」それまで伊藤さんが集めてきたアンティークや家具のほか、旭川まで走り探してきた建具やドアなどを、家の設計に積極的に取り入れました。設計はまず「モノありき」で進んでいったのです。

「私達の趣味やわがままを、ほんとによく聞いて、徹底的に実現してくださったことに心から感謝しています」と伊藤さん。西條さんも「これもダメ、あれもダメではなく、住む人が居心地のいい環境をつくることで、身体も心も健康でいられるんです。家づくりとは、ご家族が気持ちよく暮らせる環境を自分たちの手で獲得していくプロセスそのものなんです」と、西條さんは言う。住む人の健康が守られるだけでなく、魂が喜ぶ家になりました。


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