直営の家づくり
ヨハナ:一般的な家づくりでは、工務店が元請けとなり、一括して施工を請け負います。全体の契約金額の中で、いろいろな職方に下請けとして仕事を振っていくのは、工務店の役目です。「建て主直営工事」というのはそれとはまったく違うやり方で、工務店に一括して頼むのでなく、建て主さんがひとつひとつの職方と直接契約をします。で、工事全体の流れをしきる役割を、設計者がします。(直営工事については、創夢舎の吉野勲さんの「住まい手訪問記」でもご紹介しています)
日高:直営工事だと、しょっちゅう現場を見て歩くことになりますから、昼間から事務所にいて図面描いてるということはまずなくて、僕自身もほとんど毎日現場にいます。大工左官だけでなく、基礎屋さん、板金屋さん、水道屋さん、電気屋さん、いろいろな職方がありますが、みんな魅力ある人たちばかりで、ぎすぎすしなくて和気あいあいで、笑いが絶えず、楽しいです。建て主さんも職人さんたちと直接つながっているし、建て主さんも、作業に加われる部分があれば入って来ます。直営でやっている設計の方たちはみな「直営は職人を生き生きとさせる」と言ってますが、僕もその通りだなと思います。建て主さんの家づくりに対するモチベーションも高まりますし。
藤間:元請けがあって、下請けがいて、というのでなく、建て主さんも職方も設計も、みんな対等で、それぞれの持ち場で力を発揮する感じで進んでいくので、楽しいです。
建て主さんが関われる家づくり
ヨハナ:建て主さんはどんな部分で関わるんですか?
日高:フルコースの場合、現場の進み順からあげると、まず、土壁のドロこね。土壁に塗る土は藁と水と合わせて寝かせておかなくてはならないので、基礎もない状態で、設計がまだフィックスしてなくても、まずは現場の一角にドロこね場をつくって、裸足になって水と藁と混ぜ合わせます。
藤間:次が、僕らが刻み上げた材の一本一本に、柿渋を順次塗っていただく作業。シブガキ隊をさかさにして「柿渋隊」と読んでます。この現場では、13回やりました。
湯田:建て主さんも参加しての建前が済むと、小舞編み。木材に穴をあけて、間渡しを入れるところまで僕らがやれば、あとは建て主さんたちにやっていただいていいと思ってます。細かい小舞が編み上がった時って、ほんとにきれいなんです。機能美っていうのかな。そんな現場の表情を味わってもらえるといいですね。
日高:元気な建て主さんだと、小舞に使う竹伐りからされることもあります。ただし、家の質は落とせませんから、どの工程も湯田さんたちの指導のもとでしていただきます。また、建て主さんにしていただくところと、こちらですることとの線引きは、現場現場でその都度考えて、していきますね。
湯田:小舞編みの次は荒壁つけです。バケツにいっぱいの土をもってきても、いくらも塗れないほどのその厚み、重量感を体験していただきます。やっと塗り終わって乾いてくると、こんどはひび割れてくる。そうすると「割れて、いいの?」と心配されるので「割れるぐらいの方が強度はあるんだよ」と説明します。作業のプロセスごとに、伝えたいことがたくさんあり、建て主さんにもおどろきや発見がたくさん生まれる。それが楽しいんです。
日高:湯田さんと建て主さんとのそういったやりとりの中から「ここは土のまま残しておきたい」とか「漆喰を塗ろうか」なんていう話も自然とでてくるようになります。接点が多いほど、建て主さんにとって「自分ごとの家づくり」になっていきますね。人任せでないよろこびを建て主さんは感じるし、そこから自然と興味が広がって、山の問題、環境に関することにまで話が派生していきます。からだを動かして、楽しんで作業していく中から、いろいろな気づきにまで広がる。そういうことでいいんじゃないかなと思います。
藤間:外が焼き杉の板仕上げの場合は、焼杉の作業も建て主さんがすることが多いですね。
日高:ここの建て主さんのお父様も、よくこうした作業に参加してくださっています。お父様にとっては、子どもの頃から長年住まわれて来た家の庭先に新しい木の家が建つことになります。生涯で初めての普請を、生き生きと楽しんでおられて、僕たちもほんとに嬉しいです。
建て主のお父様登場コラム
住んでる家のすぐ隣が現場だし、大工さんの刻みもうちの庭先だから、毎日現場は見てるよ。藤間さんが墨をひいた一本一本の材が建前でぴしーっと組み上がっていくのには、感心したね。みんなが帰った後、大風が吹いたりするとブルーシートがばたばたしたりしてね。心配になって夜、見に行ってみたりね。息子夫婦はマンションに帰って寝るからそんなこと知らないだろうけどね。始終、現場は気になるよ。
作業は、泥コネからずっと皆勤賞。ずーっと田んぼやってきて、畔塗りなんかしょっちゅうしてたから、泥コネはなんてことなかったよ。昔、土壁も塗ったことあったが、その場で稲藁まぜてすぐ塗ってたものだけれど、こうして長いこと寝かせて、発酵させて粘りを出すっちゅうのは、初めて知って、感心したよ。女房は「ついてかれない〜」なんていうけど、身体動かして作業するのは、私はちっとも苦になんないね。現場が楽しくて楽しくて、最近じゃあ、趣味もおろそかになってるね(笑)。こんど東京の方で社交ダンスの協議会があるんだけれど、現場が忙しいから、さぼりだよ(笑)!
いい人たちにめぐりあえて、ほんとによかった。みなさんが若いのも魅力。家が長持ちするんだから、後々の家の面倒をみてもらわないとね。この年になって、新しい家に、しかも味気ない新建材でなしに、昔ながらの木と土壁の家に引っ越せるなんて、幸せだよ。毎日が楽しいよ。
セルフビルドを支えるもの
ヨハナ:土壁を建て主さんにしてもらうのは、荒壁までですか?
日高:大直し以降の仕上げは、湯田さんがします。セルフビルドもいいのですが、やはりできあがる家のクオリティーも大事ですから。
湯田:荒壁つけでも、みなさんにしていただく時には、念入りに養生します。そうしないと、木材に泥がついちゃいますからね。いちど付くととれないんで、気を使いますよ。
ヨハナ:土壁セルフビルドも、湯田さんたちの指導や見えないところでの気遣いや作業に支えられて、成り立っているんですね。人手の確保はいつもどうしてるんですか?
日高:建て主さんの関係で集まる人もあれば、これまでにいっしょに建てて来ててやみつきになった「復習」組、これから先に現場が控えている「予習」組みの人たちも加わってくれて、結構、集まりますよ。謝礼はないですが、当日のご飯とおやつと交通費を1000円、お出ししてます。人だけでなく、こっちの現場で余った土を次の現場に、と、まわっていきます。
ヨハナ:クラブ活動みたいですねー
日高:現場自体が「おもしろいこと、楽しいこと」の発信になってます。通りがかりに足を止めて声かけてくださる人もいます。ブログで現場の様子を更新したり、これまでご縁のある人にメールで呼びかけをすると、こうした家づくりを求めている人が作業にも自然と集まってきます。そういった流れとは別に、昔からの知り合いだからということで頼まれることもありますが「私はこういうやり方でしかやってないよ」ときらくなたてものや流の家づくりを説明すると、だんだん引き込まれてきて、いつのまにかどっぷり楽しんでくれていたりもします。建て主さんが家づくりを「自分の家づくり」として楽しめる現場を、これからも重ねていきたいです。