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越海興一 室長(木造住宅振興室):国交省木造住宅振興室室長に訊く「200年住宅」


 

「200年住宅」基準は一律にではなく、
工法別の基準をつくる

よ ところで、200年住宅を満たす基準がどのようなものとして出てくるのか、というのが気になります。性能表示など、これまでも「高い基準をクリアしていることを示す」基準ができたことがありましたよね? ところが、基準自体に魅力がなかったり、基準そのものが矛盾をはらんでいたりということがありました。たとえば、高耐久性ということを言うのに、防腐・防蟻処理をしてあることが必要だったり。木の家づくりではそれを「しないこと」の方がよりよいと思えるようなことを求められることが多かったので「今度のもどうせ、性能表示の焼き直しなんじゃないの?」と200年住宅を懐疑的に見るつくり手もいます。

越 マンションにはマンションの、在来木造には在来木造の、ログハウスにはログハウス、伝統木造には伝統木造の「高いレベル」があるんだと思います。基本的には性能表示的な要素を引っぱってくるとしても、それぞれの特性に合った基準が必要だと認識しています。

よ ということは、ハウスメーカーの家づくりなど、一部の業種にとってだけ有利な一律の基準にはならないということですね?安心しました。それでは、7つの要素に戻ってもう一度考えてみたいと思います。

200年住宅が満たすべきポイント
・構造躯体の耐久性があること
?・耐震性が高いこと
?・内装・設備の維持管理が容易にできること
?・変化に対応できる空間が確保されていること
?・長期利用に対応すべき住宅ストックの性能があること
?・住環境へ配慮されていること
?・計画的な維持管理や保全の履歴を蓄積すること

大きな地震があっても補修をすれば使えるだけの耐震性を

よ 構造躯体の耐久性、内装・設備の維持管理が容易にできるスケルトンとインフィルの分離、変化に対応できる空間、住環境の配慮といった項目は伝統構法の家づくりではクリアできそうです。耐震性が高いこと、長期利用に対応する性能というあたりは、どうでしょうか。国がどう考えているかによって評価が変わってきそうなところですから、少し突っ込んで伺わせてください。

越 耐震性については、大きな地震があっても補修をすれば使えるということですので、ある程度変形はしてもつぶれることがなく、建て起こせばまた使えるという、伝統木造がめざしている性能でいけると思います。いい伝統木造とそうでないものとの線引きをどこでするかということは、今年度から3カ年計画で行う実験や研究を経て決めていかなければなりませんが、私個人としては、それによって伝統木造を長期優良住宅として位置づけていく道筋が開かれることを期待しています。

よ 実験が伝統木造をきちんと評価できる方向に進んでいくことを、私たちも心から願っています。

越 国だけで3カ年のうちに整理するというのは無理な部分もあるので、地方での実験や、伝統型の型式認定にもちこむことに対して助成金を出すなどして援助しますので、国とみなさんとの力を結集していければと思っています。

省エネ基準は、適用除外項目が出る可能性も

よ 耐震性以外で、伝統木造が性能表示的な切り口からいくと弱そうな部分はどのあたりでしょうか?

越 省エネ基準ですかね。伝統木造でつくるのに省エネ仕様として最大限の努力はしていただくとしても、床下や天井裏まで断熱材入れる余地がない、土壁と柱の間などにある程度のすきまができる、アルミサッシでなく木製建具だとぴったりとはいかないというのは、あることですよね。高気密については、伝統木造がそもそもそれをめざしていないという面もあります。省エネ基準の一部については、エネルギー消費がほかのタイプの200年住宅より多少増えることを住まい手も納得済みという前提にのっとって、一部緩和または適用除外ということも考える必要があるかもしれません。

よ 瑕疵担保責任保険制度が始まるにあたって、伝統木造固有に起こり得る問題を早急に整理していかなければならない時期に来ていますが、その整理と200年住宅の基準づくりとが並行して進んで行くことになるかもしれませんね。

長い年月をかけて
良質なストックに入れ替えていくために

越 200年住宅をつくりつづけていくことで、年間着工数100万戸のうちの5000?6000戸ずつ、補助金によってストックが入れ替わっていくことをめざしています。まあ、時間のかかる話ですが。

よ 日本と同じようにものづくりの伝統のあるヨーロッパでは、古い街並が残っています。これは石造りだから、木造だから、という差だけではなく、住宅をストックとしてとらえているかどうかの違いだと思います。日本では登録文化財まで入れても、文化財はたったの2万棟、年間着工数の1/50もないんです。それはなぜなのかを冷静に考える必要がありそうです。古いものを大事にする文化的価値観の教育、相続の問題など、国交省の管轄以外にもするべきことがたくさんありますよね。

越 そうですね。住宅資産を持った中産階級が、戦後半世紀以上たって経ってようやく形成されはじめようとしているところです。と言っても、戦前までの中産階級と現代の中産階級とでは、質が違ってくるはずだと思うんですよ。

よ どういうことでしょうか?

越 かつての中産階級は、不平等があることで成り立ってたんですよね。家父長制があり、男女差別があり、主人と使われる者という構図があり、という中で、家のメンテナンスは女中や下男、あるいは女たちが、家にはりつくようにしてやっていた。そうした下支えがあることはすぐれた資産形成にはつながっただろうけれど。重々しい上下関係が消失した今、維持管理の部分を「住まい手自らが」やっていかなければならないという風になっています。そうなると、メンテナンスやリフォームのしやすさ、住宅の整備履歴がきちんと残されていて業者に手伝ってもらいやすいことなどが、大切になってきます。

ずっと住み継いでいきたいと思える「美しさ」
今残っている民家、担い手育成・・

よ 私が思うのは、機能や性能が満たされているだけでは、200年住宅にはならないんじゃないか、ということです。そこに「美しさ」が、しかも「時を経るごとに増していく美しさ」がないと、それを維持管理しながら住み継いでいこうという愛着やエネルギーがわかない、と木の家ネットのあるつくり手が言いました。本当にそうだと思います。時を経ても美しい、ということは、素材と関連しています。新建材などの「新しい時がもっとも美しい」ような素材は200年住宅には向かないでしょう。20年を経たビニルクロスを、はたして美しいと感じるでしょうか? 無垢の木だったら、時を経て色つやを増すし、200年住宅や美しいまちなみにつながり得る力をもっているはずです。200年もってきた家が、それを物語っています。「美しさ」は法律で定めるには向かない性質ですが、景観、まちなみといった観点からできることもあるのではないでしょうか。

越 それを言うなら、古民家の再生も、「伝統木造の200年住宅」にとっては、大きなテーマです。

よ 住生活基本法でもうたっていることですしね。これまで100年もってきたものを、もう100年もたせることも「200年住宅」として認められていっていいはずです。ストックという視点から見れば、200年住宅は「現在」でなく「過去」からスタートしているのですから。現状ではおしなべて「既存不適格」となってしまっていますが。

越 既存不適格建物の中でも、いいものも悪いものもある。これは200年住宅として使えるだろう、という議論や整理をしていかなければならないですね。既存住宅としての200年住宅の認定ということも考えていきたいと思っています。それから、200年住宅としてふさわしい伝統木造をつくることのできる人材育成の問題もあります。伝統木造は基本的には一子相伝の世界ではあるのですが、担い手が減少している現状にあっては、大工技術のオープン化も考えていかなければならないと思っています。規格化ということではないですが、すぐれた伝統木造の共通基盤が何なのか、といった整理は、できるのではないでしょうか。

よ 伝統木造を評価する、200年住宅として位置づけていくには、ほんとうにさまざまな要素を検証していかなければならないのですね。

越 そうしたことを、これから3カ年の計画に織り込んでいます。この3カ年計画には、木の家づくりに携わる設計士や大工といった実務者が委員会やタスクチームに入っていける仕組みを用意しました。

よ 学者と国とだけで進めてきたこれまでとは違って、画期的なことですよね!木の家ネットのつくり手も喜んでいます。本日は長時間、ありがとうございました。

検討委員会
実施委員会
タスクチーム(Task Team)
 1.実物大の振動台実験TT
 2.限界耐力計算に基づく設計法の構築TT
 3.伝統構法の分類TT
 4.材料問題の研究TT
 5.接合部等のデータ収集TT
 6.能登半島、中越・中越沖地震に耐えた建物の調査TT

※それぞれの委員会、TTに実務者から数名ずつ参加

越海さんが伝統木造を続けて行ける道を、しかも、200年住宅という高いレベルでのものづくりとして積極的に考えてくださっていることがよく分かり、うれしかったです。つくり手側からも参加できるしくみをつくってくださっているので、現場の状況や意見を十分に伝えられるような、協力関係にもとづいた関わり方ができれば、と思います。


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越海室長の席。中央官庁だからといって特別なオフィスではなく、ごく普通の役場と変わらない室内でした。