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設計士・古川保さん(古川設計室):木の家づくりは仕組みづくり


地球のことを考える

家づくりにはいくつかこだわりがありますが、なるべく地球に負荷をかけないで長持ちできる家ということを第一に考えます。まず、ゴミになるような家は作りません。役目が終わったら自然に帰る素材だけでつくります。サイディング、断熱材ウレタンフォームといった新建材は、土に還らないので使いません。木と木を糊でくっつけた「木もどき」の合板も使いません。結局は長持ちしないのです。

薪ストーブを置いた三和土(たたき)の土間

家が長持ちするように、柱や梁は壁やクロスなどで覆ってしまうことなく、表にあらわして使います。覆ってしまうと中で木が蒸れてしまい、腐りやすくなるし、木がせっかくもっている調温調湿機能が発揮されないからです。

それから、木と木の接合部に金物は使いません。木は金物となじまないのです。金物は新築当時には強いものですが、長年経過するうちに錆びたりゆるんだりしてきてしまい、接合部が弱くなるのです。木は木で組むのがいちばんいいんです。長ホゾコミ栓や渡りアゴなど、木と木がしっかりと組み合う構法を採用しています。

風呂、下駄箱、建具などにも、カタログ商品を使いません。何年かして壊れて来た時にそれを直すための部品が廃番になっていたりすることが多くて、長い目で見るとかえって使いづらい。だから、大工や建具の仕事でできることはなるべく木でつくってしまいます。

電気を無駄に使わないというのもテーマのひとつです。オール電化住宅やIHヒーターは禁止。そういう希望の仕事は受けないようにしています。エアコンは設置するなとまでは言いませんが、極力使わないで済むように設計し、「なるべく使わずに過ごしましょう」ということを言っています。用心のためにエアコンを設置した家でも、使うことは少ないようです。

熊本でエアコン無しを実現する!

熊本は湿度は高いし、真夏日の日数が105日もある暑いところです。この熊本で「エアコン無し」を実現するには、設計上の工夫がいろいろ必要です。といっても、特別に目新しいことではなく、昔からこの暑い気候風土の中で住んで来た知恵を、設計の工夫として活かせばよいのです。

まず大事なのは軒の出を深くして真夏の直射日光を縁側より中に入れないようにすることです。そのためには軒の出は最低1.2メートルは必要です。軒を深くすることで、木製建具や外壁を雨から守ることにもなります。

熊本でもっとも気温の高くなる8月の14時。直射日光をまともに受けているところは42度。深い軒に日を遮られた縁側は35度。クーラーをつけていない室内は31度。軒で陽射しをカットしたことによる温度差は、10度もある。

もうひとつは、通風をよくすることです。熊本は西風と西の陽射しがきついところですが、西陽は入れずに風だけ入れるよう、西の低い位置に地窓をもうけ、かつ東の高い位置に窓をつけます。すると、西の低い位置から風が入り、あたためられた空気が東の高い窓から抜けるようになります。部屋と部屋の間にも欄間をもうけ、襖や障子を締めていても高いところでは風が動くようにします。室内に空気の流れがあるだけでも、体感温度はまったくちがうんです。床下にも風が通るような工夫をします。それだけで防虫防蟻工事もいらなくなります。風上となる西側に樹木を植えるということも勧めています。樹木は夏、日陰をつくってくれるばかりでなく、自然のラジエーターになり、樹木ごしにくる風は33度を越えることがありません。

写真右/西側の下方に地窓 中/襖や障子を閉めた時にでも、鴨居の上は風が通るように、開け閉めのできる欄間障子をもうけている 左/東の高窓。これで西の下方から入った空気を引く

玄関土間にはよく三和土(たたき)を採用します。土と石灰と砂を混ぜ、木槌で叩いてつくります。ここで大事なのは、この三和土の下にコンクリートをしないことです。直接大地とつながった三和土にする。地下は地上より温度の変化が少ないので、夏はひんやりと、冬は少しあたたかいのです。暑い時や乾燥する季節に三和土に水を撒くのもいいんです。夏ならば気化熱でひんやりするし、乾燥する時ならば湿度が10%ほどあげることができます。

最近の新築は軒の出ていない真四角な箱のような家が多く、夏は窓をしめきってエアコンで中を冷やす以外暮らしようがないのです。そのためにたくさんの無駄な電気を使っているし、エアコンからの排気で外気温をあげているんです。エアコンという機器ができてしまったために、昔からあった「暑さをしのぐ」ローテクな知恵が失われてしまっているのです。そして、人々の健康も損なわれている。なんだかとってもおかしなことです。本当はできることはたくさんあると思うのですが。

地元の木を使おう!

川尻六工匠も含め、より広域のメンバーも含めて「熊本の木で家づくり」の会としての活動もしています。なぜ「熊本の木で」なのか。熊本市は地下水に恵まれた都市で、上水道はなんと100%地下水でまかなっています。これは、さかのぼれば阿蘇の伏流水で、50年前に降った雨がミネラルウォーターとなって下流にもたらされているのです。(残念ながら上水道にはカルキ成分が入ってますが)この地下水の恩恵は山があってのこと。誰だって水は飲む。だったら、山の木を建物に使って山に恩返ししないと。

熊本の木というのは具体的には杉です。日本の杉の産地のトップ1位の宮崎、2位の大分、4位の熊本の三県は県境を接していて、同じ山塊ですから、合わせれば全国でも圧倒的な杉産地です。それだけ杉があるんだから、杉を使うのあたりまえだと思うんです。

木材含水率は20%以下でなきゃならん、と建築行政指導がありますが、職人がつくる木の家であれば、そこまで下げる必要はありません。工場に入ってからあっという間に組み立てられてしまい、しかも大壁で覆われてしまうプレカット材であれば含水率20%でないと、というのは分かりますが。職人がつくる木の家の場合は、大工の手元に来てから刻み・建前・造作と、プレカットの家よりは空気にさらされている時間が長いし、クロスやボードで覆われない真壁づくりならば、木材納品時の含水率は35%で充分だと思います。たしかに20%と35%では強度差がありますが、地震が来た時に強度があれば良いことです。重油を使って木を乾燥させる方法は馬鹿げています。洗濯物を、晴天の日に乾燥機で乾かす行為はいかがなものでしょう。

「地元産の木を使う」と口で言うのは簡単ですが、実際には既存の木材流通システムの中ではそれがなかなかできないんです。本当に地元産の木を使おうと思ったら、材木市場や木材市場を通してでなく、直接生産者と取引するのが良いと思います。生産者には、山に木をもっている山主と、その原木を材に挽く製材所とがいますが、ぼくらは山主と懇意にしている製材所とつながるようにしています。

大まかな設計が決まると、構造図から構造材の大きさと数量を拾い、製材所に発注します。製材所に「この発注ならば、あの山のあの木がいいな」という立ち木を見繕ってもらい、山の木を伐る手配を任せます。伐採は皆伐ではなく、間伐伐採です。皆伐したら、また苗木をうえなければなりません。間伐にすれば木と木の間に広葉樹や下草が生えて混合林になり、人間のためだけの山ではなくなります。また、間伐されずに残った木も大きくなるので資産価値が高まり、結果として合理的です。伐採後は2ヶ月間、山でそのまま葉枯らし乾燥してもらった後、製材所で材に加工し、そのまま製材所で4ヶ月間自然乾燥させてから、大工の刻み現場に持ち込みます。

なお、こちらから出すオーダーは規格寸法ではなく、3.2M、4.2M、7.2Mなどと、設計に合わせた長さでします。世でいう「特注材」は流通用語で、直接オーダーするのに、特注は存在しません。柱や梁を製材した余材は板材や造作材になるべく合理的に使いまわすようにします。不足する場合には既製品も使います。完璧主義だと、お互いの手間がかかりすぎ逆効果になることになりますので。このように設計に合わせた寸法で賃引きしてもらう方が無駄が出ません。山側にとっては高売り。住み手にとっては安買い。設計者にとってはJASとは関係なしの自由設計。三方良しのすばらしいシステムです。でもこれって良く考えたら、昔のシステムじゃ〜ん!

この関係を気持ちよくまわしていくには、山主と製材所に負担をかけない支払いのタイミングが大事です。原木代は、葉枯らしが終わった段階で、施主から山主に直接払ってもらいます。製材費用は立米数で決まって来ますが、余材製材が済んだところで、その後4ヶ月間分の製品保管料も込みで、施主から支払います。それから、見積もりを値切らない、ということも大事にしています。金銭のことで信頼関係をきちんとしておけばトラブルを避けることができますから。

「産直の木を使う」3つのコース

葉枯らし乾燥をするには、木は9月から3月の伐り旬の間にしか伐採できない。ところが、製材所には、木材を保管できるストック場所は2棟分しかありません。置いてある材がどかないと次のを置けないので、自然と9月に伐採して11月に製材したものを3月まで置いておくのと、3月に伐採して5月に製材、9月まで置いておくのと、という2回転×2棟分、つまり年間4棟しかこの方法はとれないんです。芦北という山と製材所との組み合わせでこの4棟の枠をとっていて、熊本の木で家をつくる会の中ではこれを「芦北コース」と呼んでいます。もっと製材所と山と設計者や施工者を結ぶネットワークが、ひとつひとつは小さくてもいいから、たくさん増えてきてくれるとこういうことは広がるんですがね。

設計が決まってから木を加工できるようになるまで7ヶ月もかかるのですから、初めての打合せから入居までにはおよそ1年半〜2年かかることになります。この長い期間を待てるという前提条件をクリアした人にだけ、このコースを選んでもらうことができます。

そこまでは待てない!という人のためには山の立ち木の段階から木を選ぶのではなく、小国の森林組合に集積した材から買ってはじめるという「小国コース」も用意しています。小国は生産量が多いので、杉の長さや大きさについて対応力もあるので、設計に合わせた選択ができるのです。こちらだと期間が半年ぐらいは短くなるかな。

ほかに、「家を建てるなら自分の持ち山の木で」という持ち山のある人のために「自分の山コース」というメニューも別に立てています。木はタダ。その人の山にある木をあらかじめ見ておいて、なるべくそれに合わせた設計をします。あとは原木を山から出す費用と製材費用だけがかかります。施主冥利につきるコースですね。

家づくりは仕組みづくり

木の家を設計することを通して町並みづくりということを実現するのに、いろいろなことをしてきました。まずはここで活動しようと決めた地元との関係づくりからはじめ、「川尻六工匠」という木の家づくりをいっしょにやっていける仲間づくりをしました。そして、近くの山の木を使った家づくりを実現するために、産直木材を入手するルートづくりもしました。

主義主張はあちらこちらでハッキリとしてきているので、家づくりを頼みに来る人は「これはしない」ということはすでに理解しいるし、むしろこうした仕組みに積極的に共感してくれています。だからストレスやトラブルはそんなにないんです。結局「なんでもやります」というよりは、「これはしない」「こうしたい」ということをはっきり言っていく中で仲間もできてくるし、物事を実現していく仕組みづくりも可能になってくるのではないでしょうか。

熊本に住んでいて家づくりをお考えの方に!熊本には豊富な杉のある山があります。木を使う技術をもった職人もいます。熊本の木・地元の職人による家づくりが、価格的にも外材・ハウスメーカーの家づくりとそう違わなく実現できる恵まれた環境が揃っているのです。あなたが「本物の木の家に住みたい」という希望をハッキリもちさえすれば!

次ページに2008.7.12に行われたフォーラム「このままでは伝統構法の家がつくれなくなる!」で発表したスライドの抜粋を掲載しています。


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