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製材・鈴木禎一さん(あさひ製材):山の木と住む人との縁結び


うちは、みんなに利用してもらえる
「賃挽き」の製材所です。

山にある丸い木が、家を建てる四角い材木になるまでには、さまざまな過程があり、職種があります。まずは、素材生産業者。植林、間伐をしながらの育林、そして伐採をして「原木」いわば丸太にするまでを受け持ちます。原木を買って、建築用材に挽くのが私たち製材業の仕事です。計画的に育林・伐採のできる林業地では、原木を大量に入れ、そこで決めた規格寸法に挽いて「三河杉」「東濃桧」などというブランド材として出荷できます。ところによっては、製材工場でプレカットまでやっていて、建築の刻みの段階までカバーすることで商品価値を出そうとするところもあります。製品を大量に作り、それを市場に出すことで利益を得るために、毎日決まったラインを動かしている製材工場と対極にあるのが、うちのような工場です。

うちでは、委託加工が中心です。「こういう家をつくりたいから、こういう風に挽いてくれ」という注文を受けて、持ち込まれた材を挽く。その手間賃をもらう、いわば「みなさんに利用してもらう」製材所なんです。意外と、そういう融通が利く製材所って、ないんですよ。普通の製材所だと、決まったラインを動かすのに忙しいからね。まあ、一立米いくらの委託加工、いわゆる「賃挽き」ができるのも、原木を仕入れて製品を出す、という「売り」の仕事をしていないからこそ、なんだけれどね。短いものだったら30cmくらい、長いものは13mの材まで、挽きます。丸太の消費量はだいたい年間1700〜1800立米くらい。一番多かったときで2000立米くらいかな。

手間賃は、一立米あたり定尺の6mまでならばいくら、それ以上ならいくら、そして造作材みたいに挽くのに時間がかかるものはいくらという具合に金額を決めています。時間当たりの賃料を決めて挽く工場もあるようだけれど、ウチの場合はどれだけ時間をかけても値段は変わらない。ある意味、時間をかけてやりたいという思いもあるから、1立米当たりの賃料なら、こっちも納得いくように挽ける。簡単なものならすぐに挽けるけど、少し複雑なものや特殊なものは時間もかかるし、じっくりと考えて念入りにやりたいしね。すべてが「注文」。だれが、どんな風に使うのかを想定して、挽く。そこが、大量に規格品を挽いて、どこの誰がそれをどのように使うのか分からない、というのとはまったく逆で、ここには「顔の見える関係」があります。規模は大きくないし、量はそんなに挽けないけど、人とのつながりができる。それを大切にしたいという気持ちでやってます。

「この木をこう使いたい!」 建て主さんの気持ちを形にしていく仕事。

量としては、組合員である製材所や工務店の注文で挽いてあげるものの割合が多いけれど、建て主さん当人が木をもちこんでくるような話もパラパラとある。「そこに立ってたコナラを飾り棚にしたい」「自分の山の木で家をつくりたいから、家1軒分の丸太を持ってきた」・・そんなお客さんと巡りあえるのが、委託加工の楽しさですね。丸太を持ち込んでくる人にはまず、これで何を採りたいのか、ということをまず聞く。「芯で梁を採りたい」とかね。その注文に合わせて、こちらで木取りして挽いていくんだけれど、こちらからお客さんに対して「そりゃあまずいよ」ってアドバイスすることもありますよ。木の狂いとか癖とかを見てね。ねじれとかも木それぞれだからね。

さっき来てた人は、自分の家に使う材を挽いてくれという注文でマツを持ち込んできた。今あれだけマツクイ虫にやられていないいいマツも少ないな。北向きのわりと涼しいところにあったから、やられなかったんだな。それを、八角に挽いてくれっていうわけ。それを自分でチョウナではつって仕上げるんだって! それから大工に刻ませるんだろうけど、すごいよね。あそこにスギが4、5本あるのは、半田市の人が自分で足助町森林組合の共販所から買ってきた木でね、この辺の木にほれ込んで店舗や住宅に使ってみえるんです。こっちの桧や栗は隣町の人ので、何年か後に「地元の山の木で家を建てる」ために、市場で少しずつ丸太を買ってきては、ここで挽いていって、ストックしているんですよ。こういう人が増えてきたら楽しいだろうな。

木の家ネットを見て連絡してきた埼玉の人もいますよ。「自分の山の木で家を建てたいのだけれど・・」という相談でね。どの木をどう使ったらいいか、そこから考えなきゃいけないから、一度その山にいっしょに行って見てきたいですね。

木取りは芯から。
木の背と腹、元と末をよく見る。

製材にはいくつか気をつけなきゃいけない基本がある。まずは「木取りは芯から考える」。丸太の外側の方で鴨居を採っていって、残ったところから柱を採ってみたら芯がずれちゃった、なんてことがおきないようにしなければダメなわけですよ。ヒノキはまだいいけど、スギはちょっとでも芯がずれるとすぐ曲がるから。そういうことのないように、きちんと使えるように採る。芯をイメージしながら、外から挽いていくんだね。

もうひとつの基本は、「木の背と腹をよく見る」木の南側だった方は枝が出てるから、節が多い。こっちが背。逆に、北側は枝があまりないから、節の無い良い面が採れる。こっちが腹。で、鋸を入れるときは、まず、必ず腹を上にしておく。「きれいにしてやろう」と思う面を上に向けて、それを見ながら芯を出し、鋸を入れていく。良い面をどれだけの幅で採れるかを考えてやるわけね。腹を横にするやり方もありますけどね。もうひとつは、鋸に入れるときに逆木にしないで、必ず頭から入れていくこと。

こんな感じに、いくつも考えなきゃいけないことがある。だから、製材で一番面白いのは台車に乗って木を一本一本見ながら、どうやって必要な材をとっていくか、木取りを決めていく人だろうね。自分でも時々やるけれど、工場には専門職がひとりいます。他のことは何も意識しないで集中してやってますよ。


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