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大工・中村武司さん(工作舎):旅する大工、つながる大工、話せる大工


話せる大工:家に住む人と、じっくり長くつきあいたい

「手間や時間がかかる」ことをどう納得してもらうか?

木組みの家がなぜそう容易には建たないのか。「手間がかかる」からです。ぼくの普段の経験からいうと、木組み・真壁の家だと仕様によって幅はありますが、「坪当たりの人工(にんく)(*3)」で、8〜10人工かかると思っています。住宅メーカーの家では2〜3人工、ふつうの工務店で建てる在来工法で5〜6人工が一般的といわれています。これだけ違うと施主の側でも建築工事費の内訳をやりくりして、大工手間にまわすにしても、やはり覚悟はいりますよね。

木の家には、ゆったりした時間をかけることも大事です。たとえば、木組みの家にはある程度乾燥状態のいい材を使いたいものですが、設計がある程度決まってきてから木拾い(*4)をして発注するのでは、すべてがうまく乾燥材で揃わない場合が多い。天然乾燥材のストックヤードをもっている、秋田のモクネットや徳島のTSウッドハウスのようなところでないと、そこまで対応するのがむずかしいのが現実です。設計があらかた決まってきてから家ができるまで、1、2年かかってもいい、というようなゆったりしたペースで進むのが本当はいいのですが・・・。

施主の鈴木さん

「工期はのびたけど、いい家できたよな」と、施主の鈴木さん

ちょっと前まであたりまえだった木の家づくりが、今では「金持ちでないとできないこと」と思われています。また、実際に、ある程度お金を出す施主でないと、木の家を建てられないのも現実です。なんとかいわゆる「ふつうの」人にでも木の家が建てられるような工夫をしていきたいです。予算に見合った形で、手間や仕様の融通を利かせていく工夫ももちろん必要ですが、作り手側の「無言の努力」だけでなく、施主に全体の工事費のバランスの中で大工にかかる費用の割合を理解してもらうことも大事です。要するに、作り手、住まい手双方の合意点を見いだしながら家づくりをしていくことですね。木の家に住みたい!という気持ちのある人には、ちゃんと話せば、手間や時間がかかることも理解してもらえる、と信じています。そこをきちんと説明できることも、これからの大工の仕事のひとつではないでしょうか。

中村さんに相談する奥さん

「この台の使い勝手なんだけどね・・」と、中村さんに相談する奥さん

*3 人工(にんく)

土木建築関係で作業量をあらわす言葉。一人が一日でできる作業が「一人工」

*4 木拾い

住宅に使う木材の長さや本数を把握し、材料調達の準備をすること

住まい手とのコミュニケーションをとることも、大工に必要な能力

ハンモックぶらんこ

太い梁からハンモックぶらんこ!

家が完成に向かうにつれて、台所はこうしたい、というような、設計の段階では出てこない住まい手の細かな希望がどうしても出てきます。変更によって発生する時間的・経済的リスクを施主と作り手の間でどう折り合っていくのか。そこを調整するのも大工の仕事です。湖西市の家では、いいお施主さんに恵まれました。どうしても、という変更に対してかかる時間やお金について「できあがりがよくなるなら、それで遅れるのはかまわない」ということも納得してくれました。住まい手の希望を100%かなえることが必ずしもいいことではないでしょうが、少なくとも、そのことについて話し合い、リスクと希望とが折り合う、納得ができるところをいっしょに探っていく、そういうコミュニケーションを施主ときちんと取れることも、これからの大工にとって大事なことだと思いますね。

その家に住む家族とずっとつきあっていける大工でありたい

「おうち、きもちいいんだよ」

そういった施主とのコミュニケーションは新築した時だけでなく、その家とともにずっと続くものであることが望ましいのです。昔の大工さんは、近所で大工仕事を頼むのはこの人、と決まっていて、「請負」ではなく「常雇(じょうよう)」といって、一日いくらで仕事をしたものだそうです。「この仕事は一括でいくら」と請け、短い日数で早く終わらせることで儲けをあげる今の働き方とは逆ですね。

バルコニーと布団

よく陽のあたるバルコニーには、布団がぎっしり

「常雇」の大工の場合は、いわばホームドクターのようなもので、増改築や修繕など、「ちょっとここを直してよ」みたいなことを頼まれながら、ずっとその家に住む家族とつきあっていくのです。台風や洪水で浸水したりしたら「どうですか?」と見に行ったりしてね。家族との信頼関係がベースにあるから、下手なことはできない、ちゃんと丁寧にやる。しぜんとそうなります。まさに顔の見える関係ですよね。住まうことについてのその家族の相談相手のような地域にねざした大工になれたらな、というのが夢ですね。

談/中村建築 代表 中村武司さん

最後にぼくのお奨め本を。

『棟梁に学ぶ家 図解・木造伝統工法 基本と実践』

「棟梁に学ぶ家」グループ編著 彰国社刊 1989 棟梁に学ぶ家 図解・木造伝統工法 基本と実践
これは、素人に近い3人が三宅島の宮下棟梁の指導のもとで、伝統工法で建てる「棟梁に学ぶ家」の仕事の過程を通して棟梁に教えられたことを、実践的な技術書としてまとめたものです。私たち若い大工が基本的な伝統技法を学ぶ時の一番の教科書になっています。

棟梁に学ぶ家 図解・木造伝統工法 基本と実践

『木の住まい』(ミニコミ誌)

発行人:林孝 1993-1999 木の住まい(雑誌)
木の家づくりの楽しさを知った林さん(作り手ではなく、ふつうの住まい手。サラリーマンの方です)が、独力で編集・発行されている雑誌。住まい手の体験談や大工の生の声、「木の住まい」主催の建前学校のレポートなど、充実した内容で、93年から99年の17・18合併号まで刊行されました。多くの若い大工や、木の家に住みたい!という住まい手を引っ張ってきた雑誌としてとても貴重な媒体なのですが、現在は残念ながら休刊中。

木の住まい(雑誌)

連絡先=木の住まい事務局 仙台市宮城野区鶴ヶ谷北2-12-5 tel & fax 022-251-3154  林孝


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