1 2 3

工務店・渡邊隆さん(風基建設):五十年後、百年後に木の家が残る環境をつくること


良い木の家が残っていくために必要なことが、たくさんある

五十年、百年と残っていける家をつくりたい

古くから残っていた建物の修復にかかわる仕事が長かったせいか、自分で作る家についても 「これは、どういう残り方をするのかな」ということをよく考えます。自分が作っている家が、五十年、百年と住み継がれていくものなのか? そういうものにしていかなければ、と思いますよ。木の家というのは、大げさにいえば、建った時から変形が始まるのです。家の構造に無理があれば、それが破壊につながってしまう。だから、なるべく無理のない、柔軟な、あるいは後から修復可能な木組み、仕口・継ぎ手を考えるようにしています。住み継いでいくことのできる家になってほしいですからね。関わる全ての人たちのすぐれた智恵を結集すれば、そんな家が生み出せていけるのではないかと思います。

良い家は社会的な財産なんだ、 という意識がないと、木の家は残らない

ただね、そういういい家が実際に住み継がれていくのか、となるとこればっかりは、建て方だけの問題ではないんですよ。まだ住める、あるいは直して住み続けられる、古い家、良い家がどんどん壊されている。日本は、家に対する所有意識が強く、古い家を壊そうが「自分の勝手」ですから・・・。お施主さんの意識にまで踏み込むのはむずかしい。家を建てる時はそのことだけで精一杯で、何十年先がどうの、ということまでは、なかなかね。古い町並みをちゃんと残しているヨーロッパの国々では、家は町並みをつくっている社会的財産でもあるという意識があるんですね。できるだけ直しながら住み継いでいこうとするし、国や自治体でもそれを援助します。古い家、良い家は社会のために残していくんだ、ということが個人にも行政にも徹底しているのです。

小倉邸

大正十二年に建った小倉邸 真木建設で改修 

相続や登録文化財制度のあり方なども、 木の家の存続に大きく関わっている

代替わりで壊す家も多いですね。親父の家に住みたくない、というだけでなく、相続税を払いきれないから、土地の評価を高くするために、家を取り壊して「土地の物納」を選ぶ人が多いことも関係しています。古い家を探すんだったら、不動産屋より相続担当の役人に聞け、などという笑い話のようなことも聞きます。古い家、良い家を残していくことはいいことだ、としても、そのがんばりが個人の財力に任されている日本では限界があります。文化庁が登録文化財制度をはじめましたが、国指定で3700棟、自治体指定まで含めてやっと10000棟といったところです。まだまだ少ないですよね。これでは寺社仏閣や相当古い建物ではない「普通に住んできた良い家」が残っていきません。これからは昭和・大正期の建物にも対象が広がってくるということですが、壊されていくスピードとどっちが早いか・・・。また、登録した場合に、保存修復のための援助がきちんとでるかということも大事です。今は、指定されても「ふーん、そんなにいい家なんだ」というだけで、家を直すための設計や建築工事のお金が十分に出るところまでいっていない。

木の家をつくる、住み継いでいくことが しやすい世の中になるために、考えよう

個人で保存修復できない、相続税を払いきれない、住み継いでいくことのできない事情がある場合でも、建物が良いなら、何とかそれを壊さないで、社会的な利活用を考えていく、そんなことに行政が取り組んでいってもいいのではないでしょうか。これからは行政にもお金がないんだから、思い切ってそういう家を、老人の憩いの家、こどもの一時保育施設、公共の借家、集会所なんかに使ってしまえばいいんですよね。建築工事費も浮くし、良い建物は使われていくし、一石二鳥ですよね。木の家を残す、住み継いでいく、木の家の文化を次の世代につなげていく、というためには、建て方だけでない、さまざまな社会的な仕組みが必要です。家一軒をとりまくいろいろな情況がある。その中で、どういうことがクリアされていければ、木の家を住み継いでいけるような世の中になっていくのか。それをすべて解決するとなるととても大変ですが、せめて、その問題を整理し、数え上げていくところまでは、したいですね。木の家ネットでも、そういう広い範囲で「木の家づくりがしやすい環境づくり」を考えていけるといいと思っています。

参考資料のご案内 

深川江戸資料館

参考図書

現代棟梁田中文男

「現代棟梁田中文男」  1998 INAX出版

木造住宅【私家版】仕様書  架構編

「木造住宅【私家版】仕様書 架構編」  松井郁夫・小林一元・宮越喜彦共著   1998 建築知識


1 2 3