栗原市花山の伊藤さん宅。手前に張り出した部分が下屋だった部分で、土間スペースになっている。
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設計士・佐々木文彦さん(ササキ設計):老後を田舎で暮らす家


畑での野良仕事に疲れた身体が休まる家、 穫れたものをそのまま食べてもらえるお店。

解体した納屋の木組みを現場で組み立て直す。構造をほとんどそのまま生かせるのが、木組みのよいところ。

今回の現場レポートは、宮城県石巻市のササキ設計の佐々木さんが、都会での仕事や子育てを終えた「夫婦二人、木の家で田舎暮らしを」との希望にこたえて設計した家を2軒訪ねました。

納屋の古材を活かした家で、第二の人生

厳冬期でも土間部分と居住部分の境におかれた薪ストーブ一台で家全体があたたまる。

会社勤めを終えたら、田舎で農業を、と考えて来た伊藤さん。仙台ではハウスメーカーの家に12年間住んだ。「一ヶ月もかけないで組み立ててしまう、プレハブですよ。生活の場というよりは、寝に帰る家でした。ずっと家で過ごすことになる退職後に住みたいとは思えませんでしたね。」

土間に置かれた大きなテーブルに、人が集う。長い冬の間も、縁側のような空間があることで、人が寄りやすい。

たまたま友人が佐々木さん設計の木の家を建てた。「木の香りがよくてね。家はハウスメーカーに頼むもの、と思い込んでいたのが、こういう家もあるんだ!と・・」以来、退職後に住む家は佐々木さんに、と思い続けた。移住先は、農地を10aから取得できる「自然まるごと共生特区」を掲げた旧・花山村(現・栗原市)だった。

主屋部分の屋根裏には、棟の木組みがあらわしになったままのロフトスペースと客用寝室がある。

「道路建設で取り壊される納屋がある。見に行ってみませんか?」と佐々木さんに誘われた。納屋とはいえ、二人で住むには十分な広さの、立派な木組みの建物だった。「これが壊されるとは、もったいないなあ?」ということで、その納屋の使える材を用い、足りない分は新材を補ってつくることになった。「新材だけではこの年を重ねた味わいはでなかったでしょうね。」

農的暮らしには、土間スペースが生きる!

家のすぐ裏に畑がある。農薬や化学肥料を使わない自然農法をめざしている。ここの野菜や地元の山菜が「ざらぼう」の食材となる。

納屋には、主屋から屋根を張り出してトラクターを入れていた下屋部分があったが、そこを広い土間と囲炉裏スペースにした。この広い土間が、農を生活に組み込んだ田舎暮らしに欠かせない。

「ざらぼう」は漢字では「雑楽房」、いろいろなことを楽しむ所との気持ちを込めた伊藤さんの造語。 はっと、筍ご飯と煮物・漬物を添えた定食、小豆はっと、稲庭饂飩、季節の山菜天ぷらなど、花山の郷土食が中心。

「収穫した泥付きの野菜を持ち込んだり、畑の合間に休憩したり。靴を脱いであがるまでの緩衝地帯が広いといいんです。」土間スペースがあることで、人が気軽に寄ってくれる利点もある。この春から畑の野菜や地元の山菜を使った茶屋も始めた。

「でも、本来の納屋の機能である、農機具のしまい場所を忘れてましたね。外に簡単な物置小屋をつくりましたけど、結構、道具って場所をとるんですよ。」もう一つのお気に入りは、裏の畑に張り出す位置にある風呂。「畑からそのまま、脱衣場に入れるようにしてあるので、作業が終わったらすぐ、さっぱりできるんです。」窓も浴槽の縁から上が全面窓。野良仕事の後、畑を眺めながらの風呂は最高だ。 納屋の再生で、農を中心とした暮らしをめざす伊藤さん夫婦にぴったりの家ができた。

ざらぼう http://www17.plala.or.jp/zarabo/

※ 土日祝の11時~16時営業 ※平日の山菜採り体験ツアーも応相談

宮城県栗原市花山本沢猪ノ沢6-6 tel 0228-56-2980 (伊藤)


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囲炉裏端でくつろぐ伊藤さん夫妻と佐々木さん(手前)。「ほかの家に住んできたからこそ分かる、木の家のよさを実感しています。」と、伊藤さん。