200m/haの高密度で路網が整備された120〜130年生のスギの美林。
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森林・林業・地域再生を目指して


大切なのは森づくりの継続と地域社会の活性化

森林・林業再生プランが掲げた「自給率50%」という目標はわかりやすく、目標達成のために政府が進めることにしている集約化の推進や路網整備といった施策の有効性にも期待できると思います。ただし、集約化については、あまり硬直的にこの施策を推し進めると、ひずみを生じかねないと私は考えています。

補助金を受け取るのは、森林所有者ではなく
林地を集約化するマネジメント主体

政府では集約化を強力に推進するため、間伐や枝打ちといった作業の補助金を集約化された林地に限って交付する制度を導入する方針を打ち出し、現在、細部の検討を進めています。制度の大枠は、一定規模以上の面積で林地を集約化(個人所有でも条件がクリアされれば集約化されたものとみなす)して経営計画を作成し、認定を受けた者にだけ、補助金を出そうというものです。

つまり、林地を集約化して間伐や間伐材生産といったマネジメントを行う者を林業経営者と位置付けて、必要な支援策を講じようというわけです。となると、林地の所有者との関係をどう整理するかという問題が生じます。

集約化をする主体は経営が成り立っても
所有者への還元は少ない

集約化には、林業経営を成り立たせて森林の健全性を確保するという目的のほかに、個別経営では利益を上げにくい森林所有者に対し、集約化による経営でもたらされる利益を還元することによって、林地への関心を持ち続けてもらおうという目的もあります。しかし、もともとの所有面積が小さく、その上に生産方法が間伐となると、個々の所有者当たりの生産量はそれほど大きくなりませんから、木材価格が低迷している中では、配分される利益に過大な期待はかけられません。

林業で得られる収入と素材生産にかかる費用との差額が所有者の収入となるのだが、木材価格の低迷で、現在では得られる収益はごくわずか。(昭和55年ごろと今とを、比べてみてください)

一方、集約化を手掛けて森林のマネジメントを担う主体、つまり所有者から委託を受けて木材を生産する森林組合や林業会社については、その経費が確保できれば経営が一応は成り立つことになります。例えば、今の木材価格水準では、木材の売上げがようやく経費をカバーできる程度にしかならないというケースがよくあります。その場合、所有者には利益がまったく還元されないわけですが、生産を担当したマネジメント主体は経費を計上できているので、経営を続ける上での支障はないという構図が成立してしまうのです。

更新を視野に入れた木材生産であるべき

このように見てみると、集約化はマネジメント主体にとって経営機会の増幅につながるという側面があることがわかります。そのため、木材市況が低迷して所有者の利益が確保しづらいような局面になっても、間伐材が市場に出てくるということが起きるようになります。

間伐材が市場にでていくようになってはいても、所有者の年間の林業所得はたった10万3千円。

ただし、所有者への還元、すなわち木材販売による利益を計上することが第一目的ではない林業経営というのは、本来は成り立ちえません。というのは、成長した木を伐採して販売した後、そのフィールドで林業経営を継続させるためには次世代の木を育て始めなければならず(林業の世界では「更新」と言います)、その際にかかる苗木代や下刈り、除伐などの育林経費はそれまでの木材販売収入から充当しなければならないからです。

更新から10数年が林業経営ではもっとも育林経費のかかる時期。その経費が収益から出せないようでは、健全な経営とはいえない。

ところが、現在は集約化した林地での生産行為の多くが間伐によって行われており、間伐の場合は更新を伴わないため、将来の投資に向けた収益を確保しようという意識が働きにくくなっているのが実情です。

こうした状況下では、集約化や路網整備、機械化によってコストダウンが図られたとしても、その効果が「価格低下への対応力が高まる」という面で表れてしまう可能性さえあります。その結果、更新費用を確保できないような水準で木材価格体系が形成されてしまうと、将来的に更新を伴うような伐採が必要になったときに、そのための経費を織り込んだ価格で売ろうとしても、市場から受け入れられないおそれがあります。

ですから、将来にわたって森づくりを継続するためには、「今は間伐なので更新は必要ないから」というのではなく、更新費用をまかなえるような価格水準を実現するための努力が必要なはずですし、集約化や路網整備によるコストダウン効果も、更新費用を織り込んだ形で林業経営を成立させることが第一目的であることを明確にしておくべきです。こうしたことをマネジメント主体や行政関係者も、もっと意識するべきだと思います。

平成22年度森林及び林業施策概要に示された「健全な森林経営」のイメージ

森林所有者のイニシアチブの確保
その1〜分散した大規模林地所有者の場合

集約化には、独自に意欲的な経営を展開している所有者をどう扱うかという問題もあります。例えば、比較的規模が大きく、それでいて所有林が1カ所にまとまっているわけではなく、何カ所かに分散している所有者の場合を考えてみます。彼らは、一個の経営体として林地を一括して管理し、個々の林地に関しては、全体の経営戦略を踏まえた上での個別戦略を立てて手入れや生産を行っています。

ところが、集約化された林地での経営しか認められないということになれば、いくらたくさんの林地を所有していても、そのひとつひとつについては、経営者としての意向を反映させることができなくなるおそれがあります。そうなってしまっては経営が成り立ちません。

政府でも、そうした問題が生じかねないことを考慮し、所有者が一体的に管理・経営することも認めようとの方針が一応は示されています。しかし、具体的な規模や所有の分散性に関する条件がどうなるのかはまだ明らかではありません。

森林所有者のイニシアチブの確保
その2〜小規模な自伐林家の場合

里山の暮らしは家の裏の山林と家の前の田畑で成り立ってきた。今でも勤めに出ながらも、山林や田畑を維持する。

一方、規模は小さくても、自らが山仕事に従事している、いわゆる自伐林家(自らが伐採などの現場作業に従事する林業経営者)の立場をどう考慮するかという問題もあります。彼らは林業専業の場合、他の仕事でも収入を得ながら兼業で林業を営む場合の二通りがあり、いずれにしても経営の効率化を目指すと言うよりは、質の良い木を育てたり、家族労働で現場作業をまかなったりすることによって、経営を継続させているケースが多いのが実情です。

こうした自伐林家の人たちは、林業経営が厳しさを増している中でも、森(あるいは自然)と関わっていることに強い思い入れを持っていて、その思いがその地域に居住し続ける意欲を持続させていると言っても過言ではありません。

そのような人たちを、効率化が図れないからとか、林業単体としては経営が成立していないからとかの理由で集約化に取り込み、経営のイニシアチブを取り上げてしまうと、深刻な地域離れを引き起こすおそれがあります。

地域社会の持続や活性化のための
プランであってほしい

森林・林業再生プランは単に国産材の増産を目指すためだけのものではなく、プランの目標が達成されたときに、林業が営まれる地域社会も活性化されていなければ意味がありません。となれば、所有林の経営を地域に居住するよりどころにしている人たちの存在を否定することなど、あってはならないはずです。

例えば、集約化によって路網だけは地域内で整備しておき、林地へのアクセスを改善して、後はそれぞれの所有者が独自に経営できるようにするという運用もありうるのではないでしょうか。あるいは、集約化のマネジメント主体が市況の調査や販路開拓、機械のレンタルなどで個々の所有者の経営をバックアップするという手法もありうるでしょう。

集約化が林業全般にもたらすプラス効果を否定するつもりはありません。ただ、実施に当たっては、地域社会が健全な形で継続することを第一とし、それぞれの実態を踏まえた柔軟な運用がなされるようにするべきだと思います。

「森林・林業・地域再生プラン」を目指して

現在、林業は各方面から注目されています。その背景には、政府が林業活性化に向けた施策を強力に推進しようとしていること、資源が成熟して供給力が増していること、温暖化防止の観点から森林整備の必要性が強調される中で、それに寄与することでの社会貢献をアピールできること――などがあります。

実際の動きとして、以前は国産材に見向きもしなかった大手ハウスメーカーやツーバイフォーメーカー、建材メーカーなどが最近は先を争うようにして国産材の利用に積極的な姿勢を見せ始めています。林業生産現場でも、林業再生の名のもとに投じられる多額の公的資金をねらって、土木建築業者などが新たに林業に参入する動きが顕著になっています。

スギの2×4材。最近は大手ハウスメーカーも国産材利用を進めている。

こうした情勢を背景に、今後はさまざまな主体が原料を確保したり、山で仕事をする機会を得たりすることをねらって、林業のマネジメントに関わろうとしてくる可能性があります。集約化の推進は、そうした機会を提供しやすくするとの見方もできるでしょう。

しかし、集約化に携わったり、国産材を利用したりすることで利益を得る人や業者が増えたとしても、地域社会やそこに住み暮らす森林所有者が得られる利益が小さいのでは何にもなりません。その意味で、「森林・林業再生プラン」ではなく、「森林・林業・地域再生プラン」でなければならないはずです。

そのためには何が必要なのか。例えば、今はまだ40〜50年生の木が中心なので収益を上げづらいとしても、60年生、70年生と木がさらに太くなったときに適切な価格で売ることができるように、木の性質や個性がきちんと生かされた木の家づくりの普及に取り組んだり、木材が使われることの利益が地元にもたらされるように地産地消の施策を講じたり、あるいは教育や医療を充実させて、地域社会で生活しやすい環境を整えたり――と、やらなければならないことはたくさんあると思います。

再生プランの目標が達成されたときには、地域社会により多くの勝者が生まれるように。そんな期待を抱きつつ、これからの議論を見守り、必要に応じて声を上げていきたいと思います。


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森林・林業再生の取り組みによって、地域社会により多くのメリットがもたらされるようにしなければならない。