丁寧に手入れがされているスギ林
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無垢の木を使って森づくりを支える


工業製品化で木の個性が顧みられなくなる

私たちの顔かたちがひとりひとり異なるように、自然素材である木はひとつとして同じものはありません。それなのにその個性を生かそうとするのではなく、接着剤という化学物質を使って合板や集成材といった工業製品に仕立て上げ、個性を封じ込めてしまう木の使い方が横行していることには疑問を感じます。合板や集成材をすべて否定しようというわけではありません。それらの製造技術は確かに優れたものですし、例えば合板なら、技術的課題をその都度克服しながら、原料を南洋材から性質のまったく異なる針葉樹にシフトし、さらには国産のスギの利用も可能にしたアプローチは評価されるべきだと思います。しかし、このような高度な製造技術で均質化された木材製品ばかりになってしまうと、山に立っている木の個性までが無視されるようになるのではないかと心配になります。

製品の加工度が上がり、工業製品化が進むと、原材料段階での品質のばらつきは、製品を製造するにあたって、それほど大きな問題ではなくなります。例えば強度についていえば、丸太段階で1本1本の強度はもちろん異なり、それが合板や集成材の原料となる単板(かつら剥きした薄板)やラミナ(集成する前の板)の強度にも影響してきます。ところが、強度が低い単板やラミナでも、他の丸太から製造した強度の高いものと組み合わせることによって、ある程度の強度性能を備えた集成材や合板を製造することができます。実際に、集成材なら強度が比較的低いスギのラミナを内側の層に使い、それを強度が高いベイマツのラミナで外側からサンドイッチのように挟み込んで製品としての強度を高めた「異樹種複合集成材」がすでに商品化されています。スギの単板をロシアカラマツの単板で挟んだ複合合板も同じ理屈です。

こうなると、よほど品質に問題があるもの以外は原料として利用することができるようになるので、丸太の段階での選別にそれほど神経を使わなくてもよくなります。例えば合板向けなら丸太をかつら剥きにするロータリーレースの幅に合わせて、伐採した木を4mや2mに機械的に切りそろえればよく、多少の曲がりや節の有無などは無視して作業することができます。一方、製材品向けに丸太を玉切る場合には、これは柱になるから3mにしようとか、節の少ない面が採れそうだから3.65mや4mにしようとか、あるいは曲がりのある部分を1mほど切り落としてしまおうとか、細かい判断を常に下さなければなりません。生産現場にとってどちらが楽かは言うまでもないことで、現実に製材用の丸太の方が高く売れるとわかっていても、合板向けの方が作業を効率的に行えるので、その分採算も良くなるからと、合板用の丸太ばかりが生産される現場が増えてきています。そのような現場では、立ち木を伐るときのやり方も荒っぽくなりがちで、製材用に質の高い丸太を生産するときのように、山側に静かに倒して衝撃を小さくするといった丁寧な伐り方が行われることはありません。

無垢の木を生かして山の木を生かす

列状間伐の例。奥に向かって、木が伐られた後の道が続く。

このような画一的な木の扱い方が一般的になってしまうと、林業家の立場としては、山の地形や気候、さらには木の個性を見定めて森づくりを行う甲斐がなくなってしまいます。実際、例えば間伐の方法にしても、それぞれの木の状態を精査してどの木を残すのかを決めて抜き切りする「定性間伐」が昨今は流行らず、2列あるいは3列を残して1列を機械的に伐り倒していく「列状間伐」が全国的に広まっています。住まいづくりの現場だけでなく、山の生産現場でも木の個性を無視したやり方が横行しているのです。

しかし、自然を相手にする林業までが、そのように効率だけを重視するようになってしまっていいのでしょうか。吉野林業のメッカとして知られる奈良県川上村の山守(所有者に代わって森を管理する人)に、あるとき「吉野林業はやっぱり優良材の生産を目指した作業が特徴ですか」とたずねたことがあります。その山守は「それは違うよ」と否定し、「自分たちの仕事は木の命をまっとうさせることだ」と話してくれました。その木の生命力がもっとも発揮されるようにするには何をしてあげればいいのかを常に考えて木に接し、自分の子供にするのと同じように木をいつくしむ。それが吉野の林業だというのです。その彼らの目には、木の個性を無視した作業など、とんでもない暴挙だと映るでしょうし、自分が育て上げた木がそのような扱いを受けたとしたら、とても悲しむに違いありません。

林業に携わる人たちが木をいつくしんで育てている限り、日本の森は大丈夫だろうと私は思います。その彼らの思いに応えるにはどうすればいいのでしょうか。命をまっとうした木の個性を尊重し、今度は木材としての命をまっとうさせることができるように大切に長く使うこと。これが私たちに託された使命なのだと言えないでしょうか。無垢の木の性質にバラつきがあることをあげつらうのではなく、その個性を生かした住まいづくりが当たり前のこととして行われるようになってほしい。それが森を守ることにもつながるはずです。


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一本一本選別し、その特性に応じて 色がつけられた丸太