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緑の日本であり続けるために


「安い外材」は円高がもたらした

国産材のシェアは1965年には71.4%と7割を超えていましたが、わずか4年後の69年には49.0%と初めて50%を割り込むまでに急落しました。以後は一貫してシェア低下が続き、ここ数年は18%程度と2割にも満たない水準で低迷しています。この間、木材の需給がどのように推移しているかをみると、木材全体の需要量と外材の供給量は、木の一番の用途である住宅の着工戸数とほぼ比例した動きになっているのに対し、国産材の供給量は、それらとは無縁であるかのように減少し続けています。このことは住宅の材料として、国産材が主役ではなくなってしまったことを示しています。

国産材が売れなくなったのは、価格が安く、まとまった量で入荷する外材との競合で打ち負かされ、市場を奪われたためです。特に価格面では、円高の進行が大きく影響しました。現在の為替レートは1ドル=100円ほど(2005年2月中旬時点)ですが、以前は1ドル=360円という固定相場制だったわけですから、輸入コストは1/3以下に低下したことになります。この間、仮に海外の産地で人件費が上がったり、物価が上昇したりしていたとしても、円高がクッションとなって上昇したコストを吸収するため、日本への輸出価格はあまり影響を受けずにすみます。

一方、国産材は人件費や物価が上昇すれば、その影響をまともに受けます。ところが、競合相手の外材が安い価格で市場に出回るわけですから、上昇したコストを価格に上乗せすることができません。その分、利益率は低下し、採算が苦しくなります。そうしているうちにも円高がさらに進行し、競争力がいっそう増した外材にじわじわとシェアを奪われてしまったのです。

プレカットの普及で無垢材のニーズが低下

上/無垢材の柱。木そのままの性質をもっている  下/集成材にプレカット加工を施した柱。木を原料とした工業製品である。

ただ、最近の動向をみると、従来のように「安い外材との競争に負け」といった紋切り型の表現だけでは、国産材の低迷を説明することができなくなっています。むしろ、価格面では値下がりしすぎた国産材の方が安く取り引きされる傾向さえあります。それなのに国産材が使われないのは、住宅の工法が大きく変化し、無垢の国産材に対するニーズが従来以上に低下しているためです。

最近の木造住宅はプレカット材を使って建てられるケースが非常に増えてきました。プレカット材とは、継ぎ手や仕口といった接合部があらかじめ機械で自動的に加工された木材です。以前は、こうした加工は大工がノミや鋸を使って行っていました。しかし、ここ10年ほどでプレカット材のシェアが急上昇し、現在、都市部では木造住宅の7割以上がプレカット材で建てられているとさえ言われます。プレカット材は機械が加工するわけですから、個々の木材の癖や性質を読むということはありません。ところが、自然素材である無垢の木は1本ごとに性質が異なります。熟練した大工ならそうした性質を読み、しかもその性質を生かすように加工するわけですが、プレカットはそういった応用動作が利きませんから、無垢の木は敬遠されてしまいます。

その代わりに台頭したのが主にヨーロッパ産の木材で製造された集成材です。乾燥した薄い板を接着剤で貼り合わせた集成材は、寸法安定性が非常に高く、プレカット加工にはうってつけの材料といえます。そのため、当初は無垢の木に比べて高価であったにもかかわらず、プレカットの普及と歩調を合わせて一気に需要が高まりました。

2000年の春に住宅品質確保促進法(品確法)が施行されたことも集成材の普及に拍車をかけました。品確法の性能保証制度では、新築住宅の引渡しから10年間は住宅の構造部に不具合が生じた場合、施工業者が責任を負わなければなりません。そのため、プレカットを採用していた業者の多くが、機械任せで加工でき、誰が扱っても一定の施工水準が期待できる集成材に飛びついたのです。このほか,屋根の野地板や壁の下地材などでも無垢の木に代わって合板などのパネル材が使われるようになったことも国産材の需要を後退させました 。

無垢の木の「素材力」が生かされてこそ「木の家」

このようにプレカットの普及や品確法の施行に伴って集成材が需要を伸ばし、そのあおりで無垢の木が使われなくなっているというのは、家づくりにおいて効率性が追い求められ、材料を選ぶ際に工業的な品質安定性ばかりが重視されてきた結果だといえます。ただ、鉄やコンクリートといった工業製品と同じような品質ばかりを木にも求めるるのであれば、住宅を木で建てる意味が薄れてしまいます。実際、ハウスメーカーなどが建てている木造住宅は、多くの場合、柱が壁の中に隠れている大壁工法が採用され、外装材もサイディングなどの工業製品が主流ですから、見ただけでは鉄筋コンクリート造や鉄骨造、プレハブなどの住宅とほとんど区別がつきません。

しかし、本来の「木の家」とはそんなものではないはずです。木には温かみや質感といった人の感性に訴える魅力があり、断熱性や調湿性に優れるといった機能面の良さもあります。そういった木そのものの「素材力」が十分に生かされた家──、それこそが「木の家」と呼ばれるものであるべきですし、それは無垢の木がふんだんに使われた「木の家らしい住まい」であるはずです。

ところが効率性が優先される住宅づくりにおいては、そうした「素材力」がほとんど顧みられず、「木の家」としての特徴が見出せない、のっぺりとした家ばかりが建てられることになってしまいます。さまざまな世論調査によると、消費者の8割以上が「木造住宅に住みたい」と希望していることが明らかになっています。しかし、現在の状況はそうした希望にこたえているとは言えません。

「木の素材力」が生きている無垢材の家。落ち着き、安らぎ、ぬくもりなどが感じられる空間は、住まう家族にとって最高の住環境。(写真提供/長谷川敬アトリエ)

消費者軽視、環境より経済重視が国産材の逆風に

無垢の木の「素材力」と、集成材が持つ工業製品のような品質安定性。それぞれはいったい誰に利益をもたらすのかを考えてみてください。無垢の木の素材力は、住空間においてさまざまなメリットを生みます。木の温かみ、調湿作用、シックハウスにならないこと等々。これらは言うまでもなく住まい手である皆さんの利益です。また、それだけでなく、自然素材そのものである無垢の木には、長期間利用された後に最終的に廃棄されるときがきても、環境にはなんら負荷を与えないという自然界全体に対するメリットもあるのです。

それに対して、集成材の品質安定性は、手間をかけなくても一定レベルの住宅を建てられるという点で、どちらかといえば施工業者により多くの利益をもたらしていると言わなければなりません。環境保全の観点からは、化学物質である接着剤が使われていることがマイナスになります。そう考えてみると、実は消費者軽視の風潮や環境よりも経済を重視する発想が無垢の木、 ひいては国産材に対する逆風になっているという構図が見えてきます。


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