左から、松井庸介 専務取締役、設計課の中村文彦さん、営業部の山本節さん
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込み栓角ノミ 復活!松井鉄工所訪問記


そして2016年4月。大工たちの念願が「松井鉄工所版 コミ栓角ノミ試作機」として、いよいよ形になりました。試作機を触った大工たちの意見を受けて、松井鉄工所の設計チームでは、仕様を再検討。当初の発売予定であった5月末を一ヶ月延期して問題点を改善、7月1日の発売にこぎつけました。

このページでは、松井鉄工所版・コミ栓角ノミの仕様や工夫、試作機に対する大工たちの意見、そして製品化にむけてどのような改善がなされたかをお伝えします。

込み栓角ノミ
松井鉄工所版 込み栓角ノミ

「松井鉄工所版 込み栓角ノミ」とは?

「松井鉄工所版 込み栓角ノミ」は、「片バイスで材をはさみこんで使う」「ドリル部分は電動で昇降」といったリョービ製の仕様を踏襲しながら、堅牢さ、細かな使い勝手の面でいくつか改良が加えた製品です。

その改良点について、試作機を使った大工の反応を交えつつご紹介します。大工の声を反映し、製品化にむけてさらなる改善が加えられることととなりました。

1 堅牢なバイスハンドル

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大工 リョービ製はこのバイスハンドルがプラスチック製で、とにかく壊れやすかった。しっかりしたつくりになったのはありがたい。堅牢になった分、本体がやや重たくなっているのは、近年増えてきている女性大工には取り回しが大変な面もあるかな。

設計 構成部品の関係上軽量化は困難ですが、 持ち手の取付位置を最適化する事により、軽く感じる工夫を実施します。

2 タンブラースイッチ

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設計 ドリルの昇降を切り替えられるよう、握り部分にタンブラースイッチをつけました。

大工 手元で昇降を切替えられるのは、作業性がいいですね。ただし、スイッチを押し込んだ時の反応がやや鈍いので、調整をお願いします。

3可動バイスに刃口板取付用のピン

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設計 現場へのヒアリングから、可動バイスの下端と材との間に刃口板を当て木してかませている使用実態が分かったので、それを固定できるピンを打っておきました。

大工 ちょっとしたことだけれど、当て木が滑らず、便利。使っているピンが汎用的なものであり、取り替えやすい構造になっているのもよい。

4 アクリル定規

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設計 穴をあける位置合わせに便利なガイドとして、アクリル定規をつけました。

大工 リョービ製のは、ガイドのアクリル板の表面にラインが入っていたため、アクリル板の厚み分、その線と材に打った墨とがズレて見えるのが難点だった。松井鉄工所版は、ラインが定規表面でなく材に接する側についているので、見やすい。材とのこすれで線が消えるのを防ぐため、溝をつけた中にラインつけてもらえると、尚よい。

設計 ご意見を参考にしながら見直します。

製品化にむけての
いちばんの改善要望点は加工精度

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試作機を使ってみて、大工たちがもっとも気にしていたのは、掘削動作中におきる「若干のブレやガタつき」でした。これは、大工たちがリョービ製品でも問題と感じていた点です。

大工 ドリルの回転する錐の先と、角ノミの刃が材に食い込んでいったあと、どんなにしっかりバイスを締めていても、本体に若干のブレやガタつきが起き、穴がまっすぐに掘れていかない。精度が出ないし、刃の傷みも早くなりそうで、気になる。

この「精度アップ」については、松井鉄工所では発売日を一ヶ月延期して、改善をめざしました。

設計 片持ちバイスであることから起きる不安定さを解消するために、最初は、斜めの補強材であるステーを鋳物の部品に追加して試してみました。しかし切削テストの結果、それではガタ付きは改善しませんでした。そこで原因はバイスにあると考え、調べてみたところ、可動部品であるバイスが、やや開き気味になっていることがわかりました。そこでバイスの加工精度を上げ、ほぼ水平になるようにすると、無事解決できました。

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本体価格はリョービ製の4倍に

松井鉄工所版 込み栓角ノミの税別、刃別の希望小売価格は「27万」。リョービ製のものは6〜7万で入手できていたので、およそ4倍という高い価格が出てきました。

設計 復活を決断した時に、リョービから金型を譲り受けて造ることも考えました。ところが、問い合わせてみたところ、すでに型が廃棄されていたため、ゼロからの開発になったことも価格に影響しています。

営業 リョービ製が備えていた機能を満たした上で使い勝手のよさ、壊れにくさ、精度を追求し、小ロット生産で作り続けていくには、価格設定を高くせざるを得ないんです。むしろ、リョービ製のものが安すぎたという認識でいます。

もともと、リョービ製 込み栓角ノミが廃番になった後、松井鉄工所内でいったん復活を検討したものの「採算が合わない」という結論で企画が流れた経緯がありました。そのため、木の家ネットで署名を集めた時点で「リョービ製のように7〜8万では出せないだろう」ことは予想されていました。

そこで署名集めに付けたアンケートには、廃番復活がかなった際の購入希望意思について「リョービ製の7〜8万であれば買う」「15〜16万になっても買う」という二つの選択肢をもうけました。廃番復活がかなったら「購入したい」と回答したうちの半数は「15〜16万になっても買う」を選んでいました。「高くなっても買う」という想いの中身について、大工たちは次のように語りました。

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意見 価格に見合った精度や壊れにくさがあれば

大工 せっかく復活するのだから、加工精度がよく、壊れにくいものであってほしい。それがリョービ並みのローコストで得られるとは、思っていない。購入する側からすれば厳しくはあるが、15-16万ぐらいの価格になることは、理解しなくては、とは思う。

意見メンテナンスできて、長く使えるものを

大工 リョービ製は、修理に出しても完全には治らない、部品交換で直せるつくりになっていない、メンテナンス体制が悪いことに問題を感じていた。作業をこなす必要に迫られて買い足し、結果として使い勝手のいい方しか使えていなかった。今回、価格が倍にあがるのであれば、直しながらでも長く使える製品や迅速なメンテナンス対応を望みたい。

意見327万となると、家大工にはむずかしい

大工 15-6万ぐらいまでと思っていたのが、その倍近い価格ででてきたのは、きびしい。社寺のように仕事の規模が大きければまだしも、家大工には正直いって手が出ない。あるものを使い続けていくしかないか。

実際の購買行動には、どうつながる?

本体価格が27万。税や刃を含めれば、30万以上にもなります。それでも、この工具なしでは大量の角栓の穴あけの省力化がはかれないだけに、長い目で見れば「精度の確かな」「長く使える」製品として、ニーズはあるでしょう。今回、試作機をさわった大工たちに、今後の購買意欲や時期、さらにほかの廃番品や今後望む製品開発などについて、自由に語ってもらいました。

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意見 リョービ製のが直しようがなくなったら買う

大工 価格設定がリョービの3倍以上ということで、思い切った買い物にはなる。しかし、角の込み栓を使うというつくり方は、自分の中では今後も変わらない。現状では、リョービ製をだましだまし使い続け、すぐには買わないだろうが現在使っているリョービ製のものがいよいよ動かなくなったら、買うことになるのかな。お金貯めなきゃ…

意見本当は複数台を備えたいが

大工 複数の人間が同時に刻みをしている状況の中、作業を滞らせずに進めることを考えると、2〜3台は備えたい。15万ぐらいまでは覚悟していたが、その倍の30万近い価格となると、むずかしいなあ。

意見これから独立していく大工たちにとって?

大工 リョービ製をすでに持っているぼくらよりも大変なのは、これから独立していく若い大工たち。込み栓角ノミも、ぼくらが手に入れた時より高価なものになるし、それ以外にも、廃番品が多い。道具があってこそ仕事が成り立つ大工にとっては、なかなか厳しい状況だと思う。

意見それでも、廃番からの復活はありがたい!

大工 とはいえ、廃番のまま、もう手に入らないのと、高くても手に入るというのとでは、状況は大きく違う。松井鉄工所としても一度は断念した復活を、大工たちの声に応えて果たしてもらえたのは、ありがたい。角栓を使う木組みの技術が生き続けていくことにつながった。

意見ほかにも復活してほしい廃番品がいろいろある

大工 柱に貫穴を彫る「チェーンのみ」など、伝統的なつくり方をするのに、手作業に戻るのが現実的でない、作業数の多い工程がいくつかある。今後の廃番復活のニーズについて、意見交換をする場がぜひ欲しい。

意見ネットオークションでも価格がはねあがっている

大工 出回っている台数が少なくなって稀少になっていること、精度があがったとはいえ、機能的にはリョービを踏襲している松井鉄工所版が高価格ででてきたことから、ネットオークションでの落札価格がますます高くなってきている。復活そのものはよかったが、高騰を招いているのは、大工にとってはきびしい。

意見まったく別の発想での製品企画を

大工 今回リョービ製が持っていた機能や仕様を満たし、より精度を上げる方向で込み栓角ノミが復活していただいたが、違った視点での製品企画もあり得るのではないか。たとえば、ドリル部分を手動で昇降させるタイプ、片もちバイスでなく建具職が使うような卓上角ノミタイプなど、精度はそこそこでも、より手軽に角栓用の穴あけができる製品も考えられるのでは? 大きな投資ができない家大工や若い大工たちや、2台目、3台目のニーズに応えるような新商品企画にも、今後期待したい。

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松井鉄工所版 込み栓角ノミ

つくり手と使い手とが
意思疎通できる場を!

今回、ネット上で集めた署名をきっかけに、電動工具をつくる側の松井鉄工所と、それを使う側の木の家ネットの大工たちとが初めて顔を合わせました。

ますます廃番となる電動工具が増えていくことが危惧される中で、大工たちが木組みの仕事を存続していけるように。松井鉄工所が現場の大工たちのニーズに応える電動工具を企画製作し続けていけるように。世の中全体から見ればニッチな領域で、小ロット生産でも成り立たせながら共存共栄していくためには、両者間の「情報交換」が、ますます大切になってくることでしょう。

ひとつの具体的な提案として、年に一回行っている木の家ネットの総会に、松井鉄工所の営業や設計担当の方をお誘いしたところ「新製品情報の収集と意見交換の絶好の機会と考えておりますので、 ご迷惑でなければ、是非出席させて頂きます」との返事がありました。

「つくる人」と「使う人」との間の、直接の意見交換をより深く重ねていく中で、今後のよりよい流れを共につくって行くことができれば幸いです。


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松井鉄工所のスタッフと、木の家ネットの会員とで記念撮影