
事例紹介 篠計画工房 篠節子さん
篠節子さんは、日本建築家協会 環境会議環境行動ラボ 伝統的構法のすまいリサーチユニットを立ち上げ、独立行政法人建築研究所や、伝統木造住宅に関わる実務者をまじえて、地域区分5、6、7の温暖地にある新築の土壁の伝統的木造住宅の調査してこられた方です。その調査報告をしてくださいました。

Webサイトはこちら
リサーチユニットでは、22の事例について、住まい手の協力を得て、夏期・冬期の室内温熱環境測定、住まい手の温熱感のアンケート、実際の年間エネルギー消費量データの収集をしました。また、図面から外皮性能を計算し、一次エネルギー算定プログラムを使って、その家でどのくらいエネルギーを使用すると見なされるかを求めました。
すると、22事例のうち20事例が外皮性能基準に達していないこと、また、算定プログラムにその家の条件を入力して得られるエネルギー使用量の計算値と実際のエネルギー消費量を比べてみると、計算上は基準をオーバーして未達成となるものの、実際の消費量はむしろ基準より低い例が多いことが分かりました。
それにはハードとしての建物の性能だけでははかりきれない、ほどほどの寒さ、暑さを、ガマンしているわけではなく、むしろ季節感として楽しむというようなライフスタイルの影響が大きいという指摘もありました。
伝統木造の生活者の 実態にせまった素晴らしい調査
うさぎ ○よくぞ、これだけの調査をまとめてくださった!と、感心しました。実際にどれだけエネルギーを使っているのか、データに基づいていて、説得力がありますよね。
くま もの申す計算プログラムで求められる一次エネルギー消費量の推定値が基準をオーバーしていても、生活実態を見るとそんなにエネルギーは使っていない例がある。実際には省エネであるような例が切り捨てられることがないようであってほしい。

「改正省エネ法土壁はどうなる?」特集の「木組み土壁事例を 実際に計算してみました!」の項をご覧ください!
ねこ どして?計算プログラムの前提となっている条件にいろいろ問題がありそう。「暖房時20℃以上、冷房時27℃以下」という温度設定もどこから来てるのかな?住まい手の話を聞いていると、冬は15℃、夏は30℃ぐらいでもいい、っていう人が結構いる。それ以上に冷暖房するのは、省エネじゃないよね?もうちょっと、幅をもたせてもいいんじゃないかな。
うさぎ 寒いー暖房冷房方法も、建物につくりつける暖房設備やエアコンに限られていて、コタツやハロゲンヒーターなどの部分暖房するような家電製品は選べない。CO2削減に貢献する薪ストーブも検討中とのこと。「選択肢にない場合には、効率の悪いエアコン相当の数値を代入せよ」というのも、大さっぱな話よね。
いぬ うーんなんか「効率のいいエアコン」が省エネに最適、という前提が透けて見えるなあ。空気をあたためて室温をあげるのも暖をとる「ひとつの」方法であって、室温をそんなにあげなくても体感としてはあたたかい、輻射系の暖の取り方だってある。そういう生活の多様性が盛り込まれていないよね。
くま もの申すどう解決すればいいかまでは分からないけれど、外皮性能や家じゅうの空気をあたためる暖房方法に寄った計算プログラムのまま義務化するのは、尚早なんじゃないかな、ということだけは分かる!
ねこ えがおこんど衆議院会館で、実例に沿った報告会があるよ。木の家ネットのメンバーも何人か実例発表をします。ぜひ来てくださいね。
繰り返しのご案内:2/16は衆議院会館へ!

この会がにぎわうことが、きっと状況を動かすことにつながります!申込は「これ木連」のサイトからどうぞ

簡単な手計算 古川設計室 古川 保
篠さんのお話のあと、古川保さんのナビゲートで「実際に外皮性能(UA値)を計算してみよう」という演習がありました。窓の多い、南方型伝統型の住宅として「伝統的構法の設計法作成および性能検証実験検討委員会」のプランを利用し、参加者がそれぞれ普段使っている断熱材の値を代入して、それぞれが計算。
南面開口をする伝統木造のプランでは 外皮性能基準達成はむずかしい
時間切れで計算し終わらなかった人も居たようですが「0.87」以下におさまったかどうか、会場に挙手を求めたところ、250名ほどの定員いっぱいのホールで、達成できていたのはわずかに3名ほど。「1階の南側に縁側があると開口率が大きくなり、その時点で、断熱材をかなり分厚く入れても達成できないんですよね」と古川さんはコメントしていました。

中四国のはなし 細木建築研究所 細木 茂
高知の細木建築研究所の細木茂さんが「中四国のはなし」として、ご自身の設計例についての計算結果を発表されました。いずれも、一次消費エネルギー量では設計努力で設計値が基準を達成できても、外皮性能は0.87を上回ってしまいました。
いぬ ふえーん木の家ネットの総会でもこの計算やってみたけれど、達成できている人がほんのわずか、というのは、計算プログラムが前提としている建物がこの伝統木造の建物とは全く違うものなんだろうね。
うさぎ 困った計算値が合うように設計を変えるとしたら、窓も小さくて壁の多い、まったく別の建物になってしまうわ。
ねこそこでどのような暮らしが実現できるのか、ということまで考えたいよね。省エネの計算の値を満たすために家を建てているわけではないものね。

京都のはなし 京都大学大学院工学研究科 伊庭 千恵美
そして、いよいよ本命の京都の町家のお話。京都大学の伊庭先生から、その環境工学的に見た特徴について、整理&概観するお話をいただきました。隣り合う家同士で壁が共通する連棟形式であること、熱容量が大きく蓄熱体として用いる可能性のある土壁、居室とつながっていないトオリニワの吹き抜け、半野外にあることの多い浴室、打ち水によって蒸発冷却効果の生じる中庭、日射の遮蔽や取り入れをする庇や軒、熱的な緩衝空間となる縁側や土間など、さまだまな要素が列挙されました。
中庭の利用で上手に通風を確保した事例、夏の土壁の夜間蓄冷の提案、室内建具の開閉による気流を生成した事例などが紹介されました。これらは、外皮性能によらない、京町家の長所をうまく生かしながら夏の暑さ、冬の寒さとつきあう「住みこなし」と言うことができます。
京都の暮らしの中で受け継がれて来た 「住みこなし」の知恵

うさぎ 幸せ中庭に打ち水をして、上昇気流を起こして、家の中に風を通す。理にかなった「知恵」ですよね!こういったことが省エネ要素として、評価されるといいな。
くま 先生風数値であらわすのでなくても、作り手に「こういった使い方ができる計画をしている」という説明義務を負わせる、というのでもいいような気がする。それではダメというのであれば、実態を報告するような仕組みにするか。
いぬ ウィンクガマンしてこういう暮らしをしているわけではない、季節感のある暮らしを能動的に楽しんでいる。そういうライフスタイルもあっていいはず。
うさぎ 幸せ快適で季節感のない暮らしよりも、豊かなことかもしれないわね。ちょっと寒いからこそ、あたたかい鍋を囲むのが嬉しい!とか?
いぬ 気持ちいい風鈴の音を聞いて涼しさを感じるとかね。温度だけではない、感覚的なものも、心地よさにつながっている。
うさぎ 幸せこの発表の後の分科会で、実際に町家に住まわれている秦めぐみさんのお話を伺いました。夏の暑さ、冬の寒さをガマンをしているのではなく、それなりにしのぎながら味わう、文化の中で暮らしているのだな、ということが伝わってきました。家が人の感覚を育てるんだなあ。

Webサイトはこちら
3つの分科会
講師の先生方のお話のあと、休憩をはさんで会場移動をして、「資源」「技術」「生活文化」の3つテーマに分かれての分科会が行われました。

資源分科会では、豊田保之さんからの土壁に外断熱を施すことで、省エネ基準の外皮性能を満たした、新しい考え方による事例の発表がありました。構造体とは切り離した、蓄熱性に特化した土壁の使い方として、従来の真壁の土壁ではなく、竹小舞をかかないで、木ズリ下地に土を塗る土壁工法の提案がありました。また、竣工後の温熱データや結露状況の調査も継続中だそうです。

技術分科会では、鉾井修一先生から、温熱環境の好み、1階と2階の使い方、部分間歇冷暖房や、エアコンの温度設定によって、一次消費エネルギー量が異なるなどの指摘がありました。部分断熱改修によるヒートショックリスクの低減、建具の開閉による吹き抜け空間のコールドドラフト解消など、さまざまな技術的なヒントが示唆されました。

生活分科会では、秦家住宅の当主である秦めぐみさんから、京町家での暮らしについてお話いただきました。町内とお祭りや歳時で関わる中で、公的な性格も担って来た場でもあったこと。掃除、夏冬の建具替えなど季節ごとの維持管理が暮らしに組み込まれていたこと。「格子」や「軒」は社会と個が、「縁側」は外の自然と内とが、ゆるやかにつながる仕掛けであるというお話がありました。
分科会終了後、全員で再集合して、分科会発表者、講師、会場の参加者とでパネルディスカッションを行いました。その中で出た論点をいくつかご紹介しましょう。
○断熱材の耐久性の問題
- 建物の長寿命化と外皮性能向上は対立する要素がおおいので、十分な検討が必要。
- 百年という長寿命のタイムスパンの中では、断熱材の劣化や、地震による変形などのリスクを当然考えるべき。
- 断熱化の向上で結露の危険性が上がるので要注意。木材は表しで使った方がいい。
- 地下資源ではなく、地上資源を使おう。断熱材も地上製品を使おう。
- それらの検証がなされていない状態での、外皮性能をあげる方向の義務化は、長い目で見れば耐久性を損なうことにもなりかねない。
- 慎重な検討が必要。
○ 外皮性能として位置づけられない工夫
- 縁側、軒、庇など、外皮性能以外の伝統木造に特有の建築的な工夫がある。
- それらが温熱環境調整において果たす役割を省エネ性能として評価すべき。
○ 「住みこなし」の評価の可能性
- 打ち水、建具や窓の開閉など、朝昼夕夜、時間に応じた住まい手の行動。
- 夏冬の建具の入れ替え、季節によって使う道具(床下を塞ぐ板、よしず、すだれなど)など、一年のサイクルの中での行動。
- 大掃除にともなう畳上げなど、維持管理。
- こういった暮らしの中での住まい手による自主的な「住みこなし」は、数値にあがらないものではあるが、評価していくべき。
○場所の目的に合った省エネの方向性
- ヒートショックなど、温度変化のリスクばかりがクローズアップされるが、家は子どもが育つ場でもある。熱中症や寒冷じんましんなど、快適すぎる環境で体温調節機能がうまく発達できない子が増えているのは?
- 保育園、集会所、介護施設など、場所の目的に合った省エネの方向性があるはずでは?
○ 京都市行政からのコメント
- 「京都らしい暮らし」について、省エネ基準の中で評価していきたい。
- 国でも、住まい手が暮らしの中でできる温熱環境改善をすることは望んでいる。
- ただ、それを数値化してエネルギー消費量として客観的に評価することがむずかしい。
- 京都市としては、性能と暮らし方とを合わせて評価していきたいと考えている。