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無くなっては困る!刻み用電動工具:込み栓角ノミを復活させるためのアクション


ふたたび、小田さんからのメールの続きです

小田貴之 オダ工務店

小田貴之 オダ工務店(愛知県蒲郡市)

松井鉄工で新規につくると14〜15万。それでも欲しい人の数が知りたい

込み栓角ノミ機がこの世から無くなっては困る!ということで、三重県伊勢市の松井鉄工所さんにお聞きしたところ、リョービの2.5倍位の¥140,000〜¥150,000位の価格でなら、新規に製作が出来るかもしれない、という話でした。「そんなに高くては、ユーザーさんに購入していただける可能性が低いだろう」と、営業会議でいちどボツになった経緯があるらしいのですが「この価格であっても購入をしたい大工が、果たしてどれほどいるのかを知りたい」との事。今後の新商品会議で取上げたいらしいです。

廃番復活への熱い期待

この小田さんのアプローチに対して、大工たちから続々と反応がありました。

中村武司 工作舎 中村建築

中村武司 工作舎 中村建築(愛知県名古屋市)

松井鉄工なら、ニッチなニーズに答えてくれるかも!

込み栓仕事には欠かせない機械ですし、込み栓以外でも継手のメチを掘ったりいろいろ応用のきく道具なので、現在製造されていないのは、そういった仕事をする大工にとっては死活問題。特にこれから独立しようとする者にとって今からそろえようとしても手に入らないのは、のっけから痛い話です。リョービが復活させることはまずない話なので、松井鉄工あたりがニッチなニーズに向けて製作してくれるのを待つしかないかもしれません。200台とか300台くらいのまとまった需要があれば動くような気もします。

池山琢馬 一峯建築

池山琢馬 一峯建築(三重県津市)

希望者を集めて、直接交渉を!

松井さんとこはその値段で作るかもということですか。希望者が集まれば、松井さんに値段交渉して作ってもらうこともできるかもしれませんね。なんとなくですが、10万円を切れたらありがたいなあと思います。その節は、一口乗れるように、お金ためときます。

宮内寿和 宮内建築

宮内寿和 宮内建築(滋賀県大津市)

少々高くなっても、必要。

角鑿もいつなくなるかわからないし、こまった話ですよね。伝統の仕事を続けるなら、14〜15万円しても必要になってくるんじゃないでしょうか。なんせ、一物件で柱、梁の穴開けるの結構な数あるので、手で開けてること思えばすぐ元取れるように思いますね。まとめて台数いえば、ちょっとでも安くなるといいんでしょうけどね。少々高くても必要になってくると思いますよ。

綾部孝司 綾部工務店

綾部孝司 綾部工務店(埼玉県川越市)

気が利くものづくりをする松井鉄工に期待

電動工具無しでも加工出来ると言っても、込み栓にはやっぱりこれが必要ですよね。廃番になってしまった、マキタの際カンナに代わるものを松井鉄工さんがつくりましたが、松井鉄工さんは気が利く製品をつくってくれて助かります。池山さんのいうとおり、10万円切ってくれると良いですが、無ければ高くても買うしかないですね。当面は今あるものを壊れないように大事に使っていこうと思います。

松井鉄工所
社寺建築用の電動工具を多く開発している松井鉄工所への期待は大きい。http://www.matsui-j.co.jp/

廃番?が危ぶまれる ほかの手刻み用電動工具たち

ところで、数ある電動工具の中にも、廃番が心配なものと、そうでもないものとがあります。たとえば、ホゾを削り出す「ホゾ取り機」や、ホゾ穴をあける「角ノミ機」などは、木組みではない、金物接合の在来工法でもニーズがあるので、まだまだ製造されており、廃番の心配もありません。

すでに製造が中止になっていたり、先行きが心配なのは、木組みの伝統構法でしか使わないような刻み道具です。川越の綾部孝司さんが、手刻み用電動工具について、木ごしらえ、穴彫り、ホゾ加工、仕口加工、溝彫り、仕上げの各工程について、以下のようにまとめてくれました。

刻み用電動工具 生産一覧

込み栓角ノミのほかには、柱に通し貫が通るための穴をあける「チェーンノミ」や、「角ノミ」の一部も製造中止に追い込まれています。小田さんは「廃番」が心配なものとして「大入れルーター」をあげています。

廃盤_1
(左)込み栓角ノミ:リョービ製が製造中止となり、もうどこでも製造されていない。刃はリョービ純正品しかなく、現品限り(中)角ノミ機:リョービは廃番、マキタは幅広のみ廃番、日立が頼み。刃は中橋製作所が頼み
廃盤_2
廃番になっているか、心配されている手刻み用電動工具たち。(左)チェーンノミは、リョービ、日立とも廃番。マキタは在庫僅少で、替え刃も現品限り(右)大入れ蟻かけほか、複雑な仕口の女木を造る大入れルータ。マキタ以外は廃番で、今後が心配
綾部孝司 綾部工務店

綾部孝司 綾部工務店(埼玉県川越市)

カタログから次々と消えていく刻み用電動工具。価格も5割増

リョービの角ノミが無くなり、マキタの幅広角ノミが無くなり、チェーンのみは、マキタだけが在庫品限りで、日立とリョービは製造中止、替え刃も在庫品限りだそうです。刻み用電動工具は縮小の一途をたどっていますね。心配になりここ何年かで中古品や新古品の角ノミも一生分?買いそろえました。刻み電動工具の金額も10年前から50%ほど値上がりしていると思います。需要が減ってもマキタさんはつくり続けますと言ってくれていますが、種類は整理されて減っています。大きめのホゾキリなどもカタログから無くなりました。

ところで、電動工具メーカーがつくるのは、刃を動かすしくみの部分までで、刃そのものは、刃物メーカーや鍛冶職が作るものです。ですから、鑿や鋸といった替え刃部分の製造元が廃業してしまえば、機械が手元にあっても使えなくなってしまうおそれもあります。刃物があってこその電動工具ですから、刃物屋さんの存在は大きいのです。

たとえば、「角ノミ機」についていえば、三木にある中橋製作所がその刃にあたる「角ノミ錐」を造っています。製造中止という事態になりかけながらも、大工側からの「つくり続けてほしい」という声で、かろうじて踏ん張ってくれているようです。

中橋製作所は、さまざまな角ノミ錐を造っている貴重なメーカー。ネット通販もさかん。http://www.ns-co.com/
綾部孝司 綾部工務店

綾部孝司 綾部工務店(埼玉県川越市)

鍛冶職とも手を取り合っていかないと!

数年前、中橋製作所が角ノミ錐の生産をやめるかもしれないという話を道具屋から聞いた時に、すぐに連絡をし、中橋製作所さんの錐の必要性を訴えました。ほかにも多くの方から連絡が入ったのでしょう。既製品に加え特注錐の製作も続けることになったようで、その後注文しました。値段は以前の倍位になったものもありました。鍛冶職存続の為にも手刻みは増やさなければと思いました。

手刻みの道具については、ロットの大きい生産ラインベースで大量生産のものづくりをする大手メーカーよりは、むしろ松井鉄工所のような、規模はリョービやマキタ、日立といった電動工具メーカーより規模は小さくても、伝統木造のための木工機械を作って来た会社に期待しているつくり手もいるようです。

食べ物においては、生活クラブ生協のように、きちんとした品質のものづくりをする生産者と消費者とが結びついて、事業が成り立つ価格と量の注文をまとめることで、生産してもらうというやり方があります。そのことによって、つくり手は安心して作ることができ、消費者はその商品を確実に手に入れることができます。

このような関係性が、この伝統構法に特化した電動工具を製作する機械メーカーと、使い手である大工との間にできれば、大工のニーズと機械メーカー側の採算とをなりたたせる需給サイクルを探りながら、小規模でも「お互いが助かる」ものづくりができるのではないでしょうか。大工側からアプローチしていくことによって、そのような関係性を築くことができればと願っています。

大嶋健吾 おおしま家大工店株式会社

大嶋健吾 おおしま家大工店株式会社(三重県三重郡朝日町)

多少高くなっても、松井鉄工所に作ってもらいたい

込栓角ノミは少々高くても必要な道具だと思います。私的な意見かも知れませんが、リョービのコミセンカクノミの新品当初から完成精度が悪くて、深く長いコミセン穴を開けると入り口と出口がかなりズレていたりするので、両側から開けないといけないし、機械自体の故障も使用頻度が高いせいか、他の電気道具に比べるとかなり多くて、この辺りを松井鉄工所で作ってもらうことにより改善できるのであれば、14万円ほどしても決して高くは無いと思います。

中村武司 工作舎 中村建築

中村武司 工作舎 中村建築(愛知県名古屋市)

ヤフオクでたまに出ても、すぐに4〜5万になっている

込み栓角ノミは3台稼働しています。うち、1台は何度も故障してバイス部分が壊れリョービのサービスを呼んでも直らなかったのでほったらかしにしていたものを、西尾市の機械屋さんに頼んで去年溶接などで直して復活したものです。ほかにもう2台、ヤフオクで廃番前に新品をキープしました。当時は1万円台で手に入ったと思いますが、今ではたまに出てくるとすぐに4・5万円になるようですね。あとはもう、松井鉄工あたりがニッチなニーズに向けて製作してくれるのを待つしかないかもしれません。

小田貴之 オダ工務店

小田貴之 オダ工務店(愛知県蒲郡市)

道具が仕事を支えてくれている

ヤフオクで競り合っている人が木の家ネットのメンバーだったりしてなんて思ったりすると恐ろしいです。道具が私達の仕事を支えてくれているんですよね。電動工具がなくなるかもしれないと怯えながら仕事をするのもなんだか寂しいですね。

伝統木造の大工技術は、大工職人が使う道具、それを作るメーカーや職人の存在があって、はじめて成り立つのです。こうした、伝統木造を取り巻くインフラを含めた総体を守っていかなければ、日本の伝統木造は途絶えてしまいます。

もしかしたら、廃業した人が手放した機械で、当座はなんとかなるかもしれません。けれど、伝統構法が未来につながっていくためには、それを実践できるインフラをこの世代で途切れさせないことも、必要なのではないでしょうか。

高橋俊和  都幾川木建

高橋俊和 都幾川木建(埼玉県比企郡ときがわ町)

次の世代のためにするべきこと

今から35年前も前の話ですが、私の古くからの知人に江戸指物の作家がいて、三代目なのですが、彼は当時お祖父さんが用意して乾かしてくれた材を使っていて、彼が買っている材は孫のためのものだと言っていました。彼は今年人間国宝になりましたが、結局息子さんは跡を継がず、内弟子はいないようです。むくわれるかどうかも、誰のためとも知れず、ただ次の次の世代のために材を買っていたわけです。

そう考えると、私たちは次の次か、さらにその次の世代のために機械(手道具類などもそうでしょうが)を残しておいてやる必要が、あるいは義務があるのかもしれません。一端製造が中止され、時が過ぎるとますます再開は難しいような気がします。今、声を集めて働きかけることはとても意義あることだと思います。

伝統構法をユネスコ無形文化遺産にという運動が立ち上がりはじめています。その主旨文の中にも伝統構法を成り立たせるのに必須な要素として「多くの職方の手仕事や道具など」にも触れています。道具をつくるメーカーと使う大工とが連携していきながら、価格や使い勝手などの折り合いをつけながら、なんとか、未来に続いていく道を探りたいものです。

伝統構法をユネスコ無形文化遺産に

伝統構法をユネスコ無形文化遺産に http://dentoh-isan.jp/

日本の風景をつくってきたこの技術と、それを取り巻く環境を、未来へつなぎたい

世界遺産に登録された日本建築の多くは「伝統構法」で造られています。「木のいのちを活かす」この職人技術は、自然と融和する価値観から生まれており、つくられた建物は、日本の美しい原風景を成し、茶道や能・歌舞伎などの日本文化を育む場でもありました。しかし近年、その担い手が少なくなり、存亡の危機に瀕しています。この伝統構法が継承されてこそ、日本の風景や文化は未来につながります。気候風土に合致し、環境負荷も少なく、山を守り、長寿命の家づくりを実現するなど、これからの資源循環型社会に必要な技術でもあります。木組み・石場建て・土壁といった要素技術、木・土・竹・石・紙等の自然素材活用の知恵、多くの職方の手仕事や道具など、総体としてユネスコ無形文化遺産に登録する事を目指します。 http://dentoh-isan.jp/

「込み栓角ノミ機」復活を望む署名へ Go! campaign_banner_kakunomi_l nxt


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