自動販売機がずらっと並んでいる。限りある地球資源を大切にしている?
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原発に頼らない家づくり&暮らし方


世間で言われている省エネやオール電化住宅は
本当に「エコ」なのか!?

エコ家電が普及しているはずなのに
家庭の電力消費は増えている!?

木の家ネットのつくり手が実践している低エネの家づくりのご紹介をする前に、「エコ」「地球にやさしい」という文脈で語られる「省エネ家電」や「オール電化住宅」について、いちどじっくりと考えてみましょう。まず、すまい塾古川設計室の古川さんからの問題提起をご紹介しましょう。

  • 世の中にたくさん出回っている「省エネ家電」は、家庭用の電力需要全体を減らすことにつながっていると思いますか?

「省エネ家電」は、単体でみれば、旧来の同じ用途の家電よりも電力消費量が確かに少なく、効率もよいものです。省エネ家電をとりつけることで「エコポイント」を得られる制度により、旧来の家電の買い替えがどんどん促進されていきました。

ここにグラフがあります。ひとつひとつの家電の省エネ化に上回るスピードで、家庭用の電力消費はのびています。「省エネ型」の新製品の登場が消費者の需要を喚起し、順調な普及数の伸びが電力消費量をかえってあげてしまっている面もあるのかもしれません。

業務部門、運輸部門は頭打ちになっているが、民生部門(家庭+業務)は依然として伸び傾向にある。<出典:エネルギー白書2010 資源エネルギー庁>
家庭で使われているエネルギー。平成20年では、平成2年と比べて24%も増加している。<出典:平成20年度(2008年度)におけるエネルギー需給実績(確報)資源エネルギー庁>

「省エネ型」家電が普及しているはずなのに、家庭用の電力消費量は、1990年代からずっと増え続けています。

  • 「エコポイントで扇風機生活からエアコン生活へ」「リビングに一台しかなかったエアコンが、エコポイントで各部屋に。結果、台数は3倍になった」「どうせ省エネ型に買い換えるなら、大型の冷蔵庫に」「40インチ以上の大型テレビがいまや標準」…結果的には、より電気使う方向でライフスタイルがグレードアップしてきたのが、ここ10年の変化なのではないでしょうか。

と古川さんは考えます。それぞれに個室があり、クーラーが効いていて、テレビもあり、となれば、ひとつの世帯でも電力消費は増えていきます。「省エネ家電」は普及したものの、家庭全体での消費電力は下がらないという、おかしな状況になっています。

  • 1990年頃の生活なら、原発はいらない。私の家は冬はコタツ、夏は扇風機。けれど、ヘアドライヤーも洗濯機も冷蔵庫もある。何ら不自由はないですよ。

省エネ家電に踊らされることなく、本当に必要なものを見極め、シンプルなライフスタイルを貫くという姿勢も大事ですね。

ひとり住まいの人が増えて
電力消費が伸びている

また、少子高齢化や婚姻率の低下などにより、核家族どころか「ひとり住まい」という形態が増えています。ひとりひとりが、それぞれに冷蔵庫をもち、エアコンをつけていれば、電力を使う世帯単位数は人口の伸び率以上に増えていくわけです。

家庭部門におけるエネルギー消費の推移:1973年度の第一次オイルショック当時に比べて、現在の家庭では2倍以上のエネルギーを消費している。

ビオフォルム環境デザイン室の山田貴宏さんからの提案です。

  • 神奈川県相模原市で「里山長屋」という集合住宅で暮らしています。4戸の家でひとつの冷蔵庫を、コモンスペースで共有しています。月に何回かは、夕食をともにしています。当然、その間、各戸の電気はついていないわけです。省エネが目的で集うわけではないのですが、結果的に省エネにつながっています。
里山長屋のコモンスペース

省エネのためではなく、集うことが豊かさを産み、エネルギー消費を抑えるというわけです。孤住、無縁社会が広がっている昨今、おもしろい実践例ですね。

「オール電化住宅」
便利のようにみえるけれど・・・

「省エネ家電」を個別にとりつけるだけでなく、家庭内のエネルギーがかかわる仕事をすべて電気でまかなうのが「オール電化住宅」です。電力会社がバックとなってこの「オール電化住宅」を推し進めており、「住宅エコポイント」取得の常連となっています。

上図:オール電化住宅のWebサイトより

料理をするのは電磁調理器、給湯はエコキュートという電気給湯、高効率エアコンを設置と、家全体がひとつの電気製品のようにしてつくられています。ボタンやリモコンのスイッチひとつで、すべての仕事をしてくれます。関東での新築住宅では20%以上、関西では30%以上が、「ガス代も灯油代も払っていません」というオール電化住宅なのだそうです。

「オール電化住宅、普及裏目…原発2基分の消費増」 読売新聞 2011年3月23日経済ニュース

なにしろ元が電力会社ですから「省エネタイプの住宅設備は初期投資は多少かかっても、安い深夜電力を使えば、回収できますよ」という料金システムまで考えられています。夜間でも出力をコントロールできない原発の電気を有効利用してもらえるので、電力会社としても一石二鳥。「すべてのことを電気で!」という世帯が増え続けていけば、電力会社の思惑どおりです。

東京電力管内では2008年以降急速に普及し、3年間で原子力発電プラント2基分にあたる約200万kW分の電力消費が増えた可能性が指摘されています。

家庭で使われているエネルギーの種類としては、電力が伸びている。<出典:平成20年度(2008年度)におけるエネルギー需給実績(確報)資源エネルギー庁>

ところが、電気だけに頼った「オール電化住宅」は、停電してしまえば、給湯も暖房も調理もできなくなってしまいます。原発事故後の状況で、電力消費をどう抑えていくことが大きな課題となっているのに、エネルギー供給のすべてを電気に一元化するのはリスクが高くはないでしょうか?

  • 震災後の停電。電気がなければ何もできないオール電化住宅のもろさ」が露呈しました。
  • オール電化住宅に住んでいれば「原発が停まってしまうと大変だぞ」との危機感をもちますよね。

「オール電化住宅」の罠。それは、なにもかもがボタンひとつでできてしまうだけに、エネルギーのことを意識しなくなることではないでしょうか。知らず知らずのうちに電気への依存度を高めていった後で、これからのエネルギー事情を考えてなんとかしたいと思ったとしても、もともと電気しかひかれていないのでは、お手上げです。

原発や化石燃料由来の電気に頼らずに、再生可能な資源をベースに持続可能な未来を考えていくことがこれからのテーマ。自分で使うエネルギーは、あてがわれたものを意識せずに使うのでなく、自ら考え、将来のことも見据えて選ぶ時代にシフトしつつあります。そのような時代状況に「オール電化住宅」はそぐわないように思えるのですが、いかがなものでしょうか?

  • 「オール電化住宅」は、利便性はうたってもどれだけエネルギーを使っているかは意識させずに使わせてきた、そして、そのように使ってきた時代のひとつの象徴ともいえるかもしれません。

私達がほしいのは何か?

私達が暮らしに必要としているのは、じつは、電気そのものではありません。私達が欲しいのは、「明るさ」「洗い物やお風呂に使うお湯」「あたたかさ」「涼しさ」「食べ物を冷やしておけること」「洗濯を助けてもらうこと」

それらの仕事の中には「電気でなくてはできないこと」と「電気でなくてもできること」とがあるはずです。エネルギーには、太陽エネルギー、火力、水力、風力など、さまざまなものがあります。

  • どんな質のエネルギーを用いて、生活の用を足すかということを考えた方がいいと思います

と、温熱環境の研究者でもある宇野総合計画事務所の宇野勇治さんは提案してくれました。

  • 電気でなくてもできることは、別の方法、それも、なるべく化石資源をも使わない方法で。大切な電気は、電気でなくてもできることに使わずに大事に使い道を考える。これからはそのように考えていきませんか?

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電気を使わずに済ます工夫の一例:高い位置に窓があれば、晴れた日の昼間の照明はかなり節約できる。