八つのちがった性質の玉をもった剣士たちが集まることで『南総里見八犬伝』のお話が進んで行くように、伝統木造や国産材をなんとかしようとしてがんばっている、さまざまな立場の人たちが、呼びかけに応じて発起人となっていきました。発起人の中には、今でも運営委員として木の家ネットの運営に携わっている方も多くあります。いくつかのグループに分けて、みなさんをご紹介します。
木住考:渡邊隆さん、松井郁夫さん、宮越喜彦さん
阪神淡路大震災以来、「伝統木造は構造的に弱い」「いや、そんなことはない」と正反対の諸説が渦巻く伝統木造でしたが、ひとつだけ言える事は「少なくとも現代の建築学では、日本の伝統木造はこれまできちんと検証されてこなかった」ということでした。「それでは、もういちど、きっちり伝統的構法を見直そう」ということで、何人かの設計者たちが震災直後、いちはやく「木住考(これから木造住宅を考える会)」をたちあげました。
震災以前から、国産材の活用や伝統構法による家づくりなどをテーマに活動する個人やグループは全国にいましたが、木住考はそのような人たちの関係を近づけ、連携するきっかけを作ったようです。木住考はその3年間の活動の中で、架構の耐震性をはじめ、木のことや伝統構法の優れた点を学ぶという成果をあげましたが、その中心的メンバーであった松井郁夫さん、宮越喜彦さん、渡邊隆さんが、木の家ネットの発起人として名を連ねました。
3人は木の家ネットたちあげに全面的な協力を約束し、たちあげ時期でもっとも作業が集中した発足当時、松井事務所が4ヶ月間ほど事務局作業を担当していただきました。また、伝統木造はおろか、建築の世界のことも分からずに、「職人がつくる木の家」の魅力を伝えるコンテンツを制作する立場となった私たちに、在来工法と伝統構法の違い、木組みを成り立たせる仕口や継手、木材の乾燥と大工手刻みの仕事との関係、家づくりにおける予算配分の考え方など、多くのことを教えていただき、図面や写真素材なども提供してくださいました。
東京の木で家を造る会、緑の列島ネットワーク:長谷川敬さん、大江忍さん
緑の列島ネットワークは、山と町とを結ぶために「近くの山の木で家をつくる運動」(近山運動)を提唱することでスタートしました。木の家づくりを通して山と町を結ぶという発想において、緑の列島ネットワークと木の家ネットとは共通ですが、前者が主に消費者向けの発信であるのと比べて、後者は山の木を活かした家づくりを実践するつくり手にフォーカスをあてているのが特徴です。両者は、同じ考え方を、ちがった角度からとらえている兄弟分のようなものなのです。
緑の列島ネットワーク設立趣意書
緑の列島ネットワークは、この不健全な山の姿、山の危うさに目を向け、山の資源の循環的な活用を通して、健全な自然環境と地域経済の再興をめざしています。私たちは皆さんに山の持つ意味や資源としての価値をよく理解してもらい、緑の列島の一員であることを自覚した「緑の消費者」(グリーン・コンシューマー)になってもらいたいと考えています。そのための核となる活動として、緑の列島ネットワークは「近くの山の木で家をつくる運動」を提唱することにしました。
木材を生産する山と、その多くを住まいとして消費する町。私たちは、この山と町の人と資源を、スクールの開催や人材育成事業など実効性のある取り組みを通じて、つなぎ、むすび、互いの理解が深まるように努めます。
東京の多摩地域で木の家づくりを実践する設計士の長谷川敬さんも、緑の列島ネットワークの代表理事の一人でした。今でこそ、食などを中心に地産地消という考えはあたりまえになっていますが、長谷川さんはそういった言葉さえ知られていなかった1996年、東京近郊の林業地とのつながりから「東京の木で家を造る会」を設立し、都市と山をつなぐ家づくりをすでに実践していました。そうした運動を全国に広めるために、緑の列島ネットワークの代表理事となり、「近山運動」を実現するのにかかせない職人の存在をフィーチャーする木の家ネットの発起人ともなったのです。
徳島スギの山主でTSウッド協同組合をつくって伝統構法の家づくりにスギを使ってもらおうと奔走していた和田善行さんも、木の家ネットの発起人となった緑の列島ネットワークの理事のひとりです。阪神大震災以後、品確法などの流れに危機感をもち、山と職人や設計士がつながることの大切さを強く認識し、徳島という遠方でありながら、木の家ネット副代表としてたちあげ準備に深くかかわりました。ほか、木の家ネット代表の加藤さん、発起人の松井さんも、緑の列島ネットワークの当時の理事でした。
現在、木の家ネットの運営委員でもある大江忍さんが代表理事をつとめる「緑の列島ネットワーク」では、伝統的構法の性能検証実験・設計法構築事業に補助事業者として取り組み、伝統構法が将来にわたって継続していけるような法整備にまでつながる活動を展開しています。「緑の列島」である日本の自然環境を守ること、山を健全に保つこと、国産材を使うこと、国産材のよさを活かせる職人が生きていけること、職人たちに伝わって来た伝統的な木の家づくりが継続できるしくみをつくること…。すべては、ひとつにつながっているのです。
ほか、それぞれの地域で活躍していたみなさん
木の家ネットたちあげの発起人会が東京で始まったこともあり、設立準備当初は、東京在住メンバーが準備に携わることが多かったのですが、いよいよ会員を募る段階まで来ると、全国でがんばっているつくり手たちにも応援を頼むこととなりました。
滋賀で「木考塾」をはじめていた岩波正さん、名古屋方面で中部自然住宅推進ネットワークをつくり、自然素材の家づくりを広めていた大江忍さん、丹羽明人さん、福井で伝統的な木の家づくりを実践する織田清さんや奈良の設計士の中村茂史さん。数々の強力なつくり手メンバーが加わり、また、つくり手ではありませんが、林業や材木業界のジャーナリストとしてフリーランスでの活動を始めていた赤堀楠雄さんも発起人となりました。
こうして発起人会は、一気に全国のつくり手によびかける広がりをもつこととなりました。2001年4月にはメーリングリストもたちあがり、東京での会議には参加しにくいメンバーとの意見交換もできるようになりました。